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「そもそも、出版社のWebサイトは情報量が少なすぎるのでは」問題と、その他について

直接のコメントやツイッター、はてブなど拝見して、「なるほど」と思ったことがあるので、忘れないうちに書いておきます。

出版社のWebサイト、良質な情報かどうかはともかく、SEOのことも考えると、他にないという意味でのユニークな情報の必要性を、日々痛感しています。

今回、皆さんのご意見を拝見して、「そもそも、出版社のWebサイトは情報量が少なすぎるのでは」と思い至りました。

検索で個別の書誌情報ページに飛び込んできていただいても、直帰率が高い、というか、回遊率が低いんです。考えてみると当たり前で、一度パラっと見て済む程度の分量なら、わざわざ興味を惹かれて別のアイテムのページに立ち寄ってくれることもないし、再訪もしませんよね。再訪の少なさについても直帰率の高さについても「情報量が少なすぎる」ことが、大きな要因になっているのかもしれません。

とはいえ、オリジナルコンテンツを用意するのは、なかなか負荷が高いです。それと、オリジナルコンテンツと言っても「ブログを月に数回程度の更新」では、魅力あるコンテンツとしてWeb上で勝負するのは難しい。けれど、例えば本の「前書き」や「目次」、さらには一部の抜粋(立ち読み的なファイル)なら、権利関係の問題は発生しません。

実は、流通する書誌情報として前書きや目次の公開を実施している社は既にそこそこあります。立ち読みファイルに関しても「なか見検索」などが行われています(弊社も以前はやっていました)。やっているところの実感としては、それほどの効果を感じてはおりません。

効果を感じていない大きな理由は「自社サイトのPVに直結しないから」だろうと思われます。書店や取次に出す書誌情報とは別にユニークな情報が必要だということなのかもしれません。

もうひとつ、これは自社サイトに限っての話ですが、大きな勘違いをしていたことに気づきました。以前、前書き・目次・立ち読みファイルを公開していた際に「個別書誌情報ページとは別のページ(ファイル)」としていたんですが、これってSEO的には今ひとつじゃないかと。可能であれば個別書誌情報ページに多くの情報を盛り込んでタブや「もっと読む」などで開いていくようにしたほうが良さそう。前書きや目次、自社サイトのコンテンツとして効果的に使えていなかったということか。なるほど。独自のカテゴライズやレベル分けも、もっと効果的に使えるかもしれない。あと、無料コンテンツについても、「自社サイトに誘導するためのフックとしての無料コンテンツ」というのは有りかもしれません。そう言われてみると弊社でも無料の音声教材ダウンロードページはぼちぼちアクセスがあります。そのあたり、もう一度よく考えてみます。

アメリカではイベントなども当たり前に、という話もありましたが、イベントの販促に対する効果には、かなり疑問を感じています(販促以外の効果はあると思います)。それより、アメリカの出版社では当たり前の「半年以上前には表紙も主な内容も出来上がっており長期に渡って書店の事前指定を受け付ける」ほうが効果が高そうなんです。早期からの事前指定の集約は営業の大きな業務のひとつであったと、実際にやっていた方からも伺っています。ただ、これ、日本の出版社だと本当に難しいんですよねえ。一ヶ月前でも厳しいからなあ。

YouTubeでもなんでもやればいい、というのも、自分はそう思うんですが、この業界、わりと見た目のクォリティにこだわる方が多くて、ショボいのだと嫌がられるんですよね(そうは言っても実際にはショボいのも多いです。自分も他人のことは言えません)。印刷物は印刷会社のおかげでハイクォリティなんですが、Webにそれを要求されると難しい。昔は「DTPソフトで組んでjpegにした画像を貼ったWebページ」なんていうのがありましたが、あれは社内からのクォリティに対する要求の結果でしょうね。

ただ、見た目のクォリティにこだわること自体は悪くないとは思います。最近はWebの世界でも、UIやUXといった観点を前提に、見た目に対するこだわりに対応できる技術も進んできました。自分はWeb1.0みたいなページ、嫌いじゃないんですが、減ってますよね。そして、その際に「見た目のデザインとして版面や本そのもののデザインと向き合ってきた編集者」には、新たな価値が生まれるのではないかと思っています。

最後にひとつだけ。

出版社の人間でも分かっていないヒトもいますが、出版社の仕事は「出したら終わり」ではありません。新刊を店頭でなるべく大きく押し出すことは、出版社の営業の非常に重要な仕事ですが、まったく同時に「既刊を長く売り続ける」ための仕事が不可欠です。前回のnoteで、店頭での露出は出版社の大きなアドバンテージだとしましたが、その中には、既刊の棚での露出も含まれています。

新刊を大量に幅広く押し出すための仕組みとして「委託配本」は、よく話題になりますが、既刊を長く売り続けるための仕組みとしての「常備寄託」や「長期委託」は、あまり話題になりません。「委託配本」が便利すぎてなかなかアップデートされないのと同様に、「常備寄託」や「長期委託」もアップデートされないまま、衰退しつつあります。残念ながら置き換わるような新しい仕組みは開発されていません。

既刊を長く売るために現状でもっとも有効なのは「書店営業」です。回った先で一冊ずつしか受注できなかったとしても、それがそのお店で長く回転を続けることで、その地域の読者にも著者にも良い結果を生み出します。一時期ロングテールという言葉が流行りましたが、小零細出版社の多くは以前からずっと「ロングテール」が商売の基本です。

とは言うものの、「出版物を長く売り続ける」という意味でも、電子書籍やWebでのプロモーションは今まで以上に重要になってきそうです。電子書籍の場合は在庫が無いのが最大の特徴ですが、Webプロモーションも在庫を持たずにできるわけで、そのメリットを、もっと活かすべきでしょうね。

まあ、言うのは簡単ですが、実際にやるとなると、頭を抱えてしまうんですけどね。

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