(第4回)『食品の裏側:敵に塩を送る』

【はじめに】

みなさん、こんにちは塔里大也です。そしてはじめましての方もよろしくお願いします。
これまで食品の工業製品化についてお話してきました。その工業製品化に貢献しているのが、原材料の精製である、とお伝えしたのが前回の第3回になります。その精製された食品原材料の例として挙げたのが、砂糖と塩です。砂糖と塩は食品扱いで、食品添加物には当たりませんが、食品添加物を考えるための前置きや予備知識になるので、今回紹介していきます。

【敵に塩を送る】

今回は題名に「敵に塩を送る」と入れてみました。多くの人が知っている故事成語になります。簡単に説明すると、戦国時代のお話。海のない領土しか持っていない武田信玄が、敵に囲まれて、塩が不足している事態に陥りました。そこの好敵手である上杉謙信が援助の手を差し伸べて、塩を武田信玄に送りました。この行為で上杉謙信は困っている人には敵見方もなく、助けるという義の人というイメージを持たれることになります。

【塩の効果】

なぜ塩を送ったのでしょうか。なぜ塩が必要だったのでしょうか。みなさん疑問に思いませんか。塩なんて、たくさん摂取したら高血圧の原因になるのではないですかと言う人もいるでしょう。実は塩は昔から利用されてきた有益な食品になります。一つには塩漬けにすることによって他の食品を保存食にかえることができるという作用を持っています。そしてもう一つには、生命に欠かせないミネラルを多く含んでいました。人間が塩辛いものが好きというのはきちんと理由があって、塩には生命維持に不可欠なミネラルを多く含んでいたため積極的に摂取するような嗜好もつように人間は進化していたのです。

【現在の塩は】

含んでいました、なぜ過去形で表現したかお分かりですか。実は現在日本で流通している塩のほとんどがミネラル分を含んでいないのです。これは昭和30年代から塩の製造方法が、イオン交換式に変わったためによるものです。そして現在では、それ以外の方法で塩を製造しているところはほとんどないと言えるでしょう。この方法では、塩は化学的に《NaCl》として生成されるため、他のミネラル分を一切含んでいません。他の不純物を含んでいないということは、現在の食品の工業製品化の観点から考えるとプラスになります。食品の原材料のブレ少なくすれば、最終の食品もブレなく安定して作られるからです。

【塩は食用だけでない】

さらに塩は食用だけでなく、工業利用の方が実は多いのです。食用として利用される割合は20%程度だと記憶しています。苛性ソーダや塩素をつくるために使われたり、蒸気を発生させるボイラーを動かすのにも塩が必要であったりします。工業用ですから不純物が含まれていることは非常に都合が悪いのです。その工業用と食用を決して分けて作ってはいないのが塩なのです。イオン交換式であれば、従来の方法よりも手間がかからず、低コストで塩が作れてしまうのです。食品の工業製品化の観点から見ても、工業用と食用を分けて作る必要は一切ないのです。冷静に考えれば、工業用と食用が一緒なんて少し気持ちが悪いと感じる人もいるかと思います。実はその感性こそ正常であると言えます。

【塩は正義の味方】

塩は高血圧を引き起こす悪者にされていますが、実は正義の味方だったのです。塩は食べないと人は生きてはいけません。塩本来の役割は、①体にミネラルを補給する②食品の味をよくする③体の細胞内のイオン組成を調節し、体の保水力を高める、などがあります。ただ、現在流通している塩はこのような機能の大部分を失ってしまった精製された塩になっています。精製された塩は単一の作用しか持たないため、人である有機体のバランスを壊して、高血圧を引き起こすとういう負の側面だけが注目されるに至っています。そのため、精製された塩にミネラル分を後から足した商品も存在します。そのミネラル分もまた工業的に精製されているとなると、精製された塩のみよりは体に良さそうですが、やはり自然な従来の塩の方がお勧めできるとは思います。実際に自然な塩を探される方は、○○製法と書いてある塩がいいと思います。その製法がどんなものか自分で調べていてください。塩に関して、簡単にご理解いただけると思います。

【まとめ】

今回塩の例をあげましたが、今の食べ物がどのような状況なのか少しご理解いただけたのではないでしょうか。食品添加物も高度に化学的に精製された物質がほとんどです。そのため、多くの人が正しい知識を持って、良い距離間で付き合っていく必要があるものです。薬のようにプラスの側面とマイナスの側面を持っているためです。ただ、闇雲に食品添加物を恐れるのも今という時代を生きにくくすることになります。それだけ多くの食品に食品添加物は使われています。少しでも皆さまにお役に立てればと思って今後とも情報をお伝えしていこうと思います。今回の塩の話は、私が食品メーカーで働いた経験とその裏付けを取ろうと思って調べた文献からになります。皆さんと情報を共有して、より良い世界を次世代に残していければいいなと考えています。
(参考文献:食べてよい塩、悪い塩 /著・八藤眞)   


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