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長く生きてきた中で初めて口にする料理の素材は、幼い時から慣れ親しんできたザリガニだった・・・

「エッ!!ザリガニ?!」
思わず叫んでしまった。

6月の初めにアメリカに来てからホンの数日前にフィラデルフィに到着した。
フィラデルフィアは私にとって初めて訪れる都市である。
フィラデルフィアには10日ほど滞在する予定だ。
この日、この地で長く住んでいる知人のアキラ君とフィラデルフィアで最初となる夕食を共にすることになった。

「フィラデルフィアといったら大西洋からのシーフードだよ。
今日は先ずCrowfish食べようよ。正確に言うとCrowfish料理は南部が有名なんだけどね。良い店も見つけてあるし。行こうよ!!」
とアキラ君が言った。
私は即座に答えた。
「良いね。フィラデルフィアでの最初の夕食!南部の料理だって何だって良いよ。行こう!!・・・ところでさあ、そのCrowfishってどんな魚なの?」

アキラ君はちょっとニヤッと微笑みながら
「ザ・リ・ガ・ニ・・・」と呟いた。
「エッ!!ザリガニ?!」
思わず叫んでしまったのだった。

ザリガニ釣りは幼い頃に良くやった・・・ザリガニを飼った事も良くある・・・でもこれまで長く生きてきてザリガニを食べる・・・なんて聞いたことも見たことも無かった。

私は叫んでから少し冷静になってアキラ君に尋ねた。
「ザリガニって食べられるの?」
「アキラ君は食べたことあるの?」

アキラ君は再びニヤッと微笑みながら
「僕も食べたこと無いんだけど・・・友達は良く食べると言っているよ」
と言う。

ここまで来たらザリガニを食べてみるしか無い。
不味いものだったら料理として存在することは無いのだから・・・と自分に言い聞かせた。

私たちはアキラ君が調べてくれていたレストランである「CAJUN HEROES」を目指した。
レストランに入って私たちは迷うこと無くメニューから
「Fresh Crawfish  M.P.  lb」を注文。
聞けばその日の価格は1lb 15$ とのこと。
高いのか安いのかは分からない。
私たちは共にガーリックバターソースのスパイシー味を選択。

しばらく待っているとデーンとビニール袋2つとバケツがテーブルに置かれた。
「おいおい、これは・・・」
と私たちは戸惑いながらビニール袋を開いていく。
ビニール袋の中からソースに絡められたCrawfishが現れる。
もし、Crawfishの正体というかCrawfishがザリガニである事を知らなかったら、袋を開けて現れた瞬間にのけ反ってしまったに違いない。

アキラ君がまたまたニヤッと微笑みながら口を開いた。
「食べ方は調べてあるよ」
「先ずね・・この頭の部分と尻尾の部分を手にしてねじって切り取るんだ」

言う通りにやってみると簡単に二つに分かれる。頭と大きな爪の部分が尻尾の部分に比べると遙かに大きい。

「そしてね・・この頭の部分を吸ってそのエキスを先ず味わう」

吸うと頭の部分からザリガニのエキスとソースが絡まって口の中に広がる・・・。吸い終わったらその部分は即バケツ行きだ。

「さあ、これからが本番だよ。この尻尾の部分の頭に近い部分の殻を剥くんだ。ほら!こうすると身が現れるでしょ。そこを歯で挟んで引っこ抜くんだ。」

アキラ君は自分も初めてなのに私にはベテランのような口ぶりで実演してくれる。
私はアキラ君が示してくれたまま尻尾の部分を口にしたが、余りソースの味がしなかったので、2尾めからは手で引っこ抜き、ソースを絡めて食べる事にした。
フト見るとアキラ君も同じようにやっていた・・・。
それからは二人とも無口になってひたすらザリガニとの格闘に徹したのだった。

全てを食べ終えてから私が口を開いた・・・。
「ザリガニが食材になるなんて知らなかった・・。予想と違って全く泥臭くないしね・・・」
するとアキラ君も口の周りと手を大量の紙ナプキンで拭きながら言った。
「ウーン、そうだね。もうちょっと期待してたんだけど・・・。
5段階評価なら2−2.5かな。ごめんね。記念すべきフィラデルフィアでの最初の夕食だったのに・・・」

私はアキラ君の心中を推し量って直ぐに
「アキラが誘ってくれなかったらザリガニ・・・いやCrawfishを食べる事は一生無かったと思うよ。良い経験をさせてもらった。ありがとうね!」と手を拭いながら言い添えた。

私のこの言葉を最後にCrawfish料理に関することは口にすることは無くなり、お店を出ながら次に一緒に食べる時があったら何を食べようかと二人で語り合っていた。

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