「人口減少社会における学校制度の設計と教育形態の開発のための総合的研究」の考察 その2

学校の制度設計に注目して、「学校」と「地域」の関係性を考える第2弾です。参考としたのは次の報告書です。

国立教育政策研究所『人口減少社会における学校制度の設計と教育形態の開発のための総合的研究 最終報告書』2014[注1]
第17章 人口減少下における農山村地域の変容と地域社会の存続要件-教育環境に着目して-

本稿は、「人口減少が進む農山村地域の定住人口の維持と教育環境との関係性を探ることを目的」としており、「既往研究成果を再整理するとともに、農業集落別のデータ等を活用した統計分析から、農山村地域における教育基盤の変化の態様等を明らかにした。」と、冒頭に述べられています。(p.249)
要旨としては、次の2点です。

中山間地域において定住人口の維持要件の無視できない1つの項目は、「高等教育を受けることができるかどうか」であること。(中山間よりも厳しい山間地域では一番の要素)
農山村の人口減少は、地域社会の基礎単位である集落の存在を危うくしており、地域社会の存続にとって教育環境が重要な要素であることが示唆されていること。(小学校までの道路距離が有意な変数となっている。)

次に内容を紐解いていきます。
まずは、農林統計独自の地域区分である農業地域累計区分を活用して、「都市的地域」「平地農業地域」「中間農業地域」「山間農業地域」の4つに区別しています。この4つの地域について一つずつ丁寧に説明をしています。よく耳にする「中山間地域」とは、「中間農業地域」「山間農業地域」を合わせた地域のことを指しています。

次に、人口動態の整理をしています。この4区分の人口動態を整理すると、「農山村地域においては、これら人口問題が都市部に先行して、農家人口の急激な減少と著しい高齢化というかたちで顕在化してきた。」とあります。確かに、4つの区分それぞれの人口のピークは以下のようになっており、定住人口の維持は困難であることがグラフからも読み取ることができます。特に、山間農業地域は、1975年に人口のピークを迎えて、半世紀後の2030年頃には、人口が半減することも明らかにされています。

◇人口のピーク
「都市的地域」 :2005年
「平地農業地域」:2010年
「中間農業地域」:1985年
「山間農業地域」:1975年

さらに、高齢化については、2030年の高齢化率が中間農業地域では34.2%、山間農業地域では39.3%まで上昇すると予測されています。また、過疎化と高齢化は、1990年代の人口動態から、明らかに並進していることが明らかです。

以上の人口動態の分析から、「農山村地域の活性化を図っていくためには、適切な年齢構成を保ちながら人口を維持していくことが必要最低条件となる。」とまとめられています。(p.255)

次に、中山間地域における定住人口維持の要件においては、①人口集中地区までの所要時間②1人当たりの課税所得③第3次産業就業人口率④1人当たり預貯金額⑤1人当たり工業出荷率⑥高校通学困難就学率という順になっています。上位の項目から、経済的な基盤が定住条件であることがわかります。
一方で、山間農業地域における定住人口維持の要件においては、①高校通学困難集落率②1人当たり預貯金額③人口集中地区までの所要時間④一人当たりの課税所得という順になっています。このことから、中山間地域では、”高校が存在する”ことが定住人口を確保していく有効な方策であることが示唆されます。

これらを踏まえて、「過疎化・高齢化が並進する中山間地域の現状と集落の存続条件を検討する。」としながら、中山間集落の消滅要因にも触れています。消滅要因の順位では、①役場までの道路距離②農家数増減率③耕地利用率④小学校までの道路距離⑤同居後継ぎがいる農家率となっています。小学生がいない集落を数値的に追いながら、長野県における小学生がいない集落数に注目しています。詳細は割愛しますが、(興味のある方はp.263-266)著者は次のように結論づけています。

「集落から小中学校までの所要時間、換言すれば小中学校への通学時間が児童数の維持、ひいては集落の存続に少なからぬ影響を及ぼしていることが改めて確認できる。」p.266

その後、国の農村振興施策に触れながら、本稿の結論として次の4つに整理しています。

1、中山間市町村を対象とした定住人口の維持要件に関する分析では、高校への通学条件を表す指標が優位な変数として選択されるとともに、分析範囲を山間農業地域に限定すれば、同指標が最も強い影響力を有する変数となった。このことは、急激な人口減少が山間農業地域の定住人口を維持していくための条件として、教育環境が重要な要素になっていることを示している。

2、農山村の人口減少は、地域社会の基礎単位である農業集落の存在を危うくしている。農業集落の小規模化によって、コミュニティー機能の弱体化に伴う共同活動の停滞が農業生産面ばかりでなく生活面でも加速しており、中山間地域ではあいつぐ挙家離村等によって無住化する集落も出現している。

3、中山間集落の消滅要因に関する分析からは、身近な公共施設へのアクセス条件が強い影響力を及ぼしており、役場とともに小学校までの道路距離が有意な変数として選択された。ここでの分析からも、地域社会の存続にとって教育環境の必要性が示唆された。

4、2000年から2010年までの10年間に、小学生がいない集落が急増しており、全国の有人集落の1割近い約11.400集落で小学生がいなくなっている、この傾向は、とりわけ山間農業地域で顕著であり、すでに2割を超える集落に小学生がいないことも明らかとなった。(p.269)

「地域社会の存続にとって、教育環境の必要性は示唆された。」

この結論について、大崎上島町は「中山間地域」に該当するため無視はできません。(広島県内の全域が中山間地域は、府中市、三次市、庄原市、江田島市、安芸太田町、北広島町、世羅町、神石高原町の10市町村)

では、どのような教育環境が必要なのでしょうか。どのような形態や制度があるのでしょうか。広島県の場合、どのような中山間地域を目指しているのでしょうか。今後、少しずつ明らかにしていこうと思います!

以上です。本日も最後までご覧いただき、ありがとうございました!

注1:国立教育政策研究所『人口減少社会における学校制度の設計と教育形態の開発のための総合的研究 最終報告書』2014

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