「高校魅力化プロジェクト」と新学習指導要領が目指す「社会に開かれた教育課程」の連関 -その1 「総合的な学習の時間」から「総合的な探究の時間」へ-

前回は、高校魅力化プロジェクトに欠けている視点ということで、卒業後のUターン含めた関係人口増への施策の必要性に言及しました。

前回note:高校魅力化プロジェクトに欠けている視点 -社会動態に関する意識調査(広島県)を手がかりにして-

今回からは、「高校魅力化プロジェクト」と新学習指導要領が目指す「社会に開かれた教育課程」について、少しずつ深めていきます。

本稿の結論は、

「高校魅力化プロジェクト」と新学習指導要領が目指す「社会に開かれた教育課程」の連関を考えるうえで起点となる「総合的な探究の時間」は、「課題発見」が前提です。さらに、学びの起点は学習者であり、自身のキャリアと結びつきを意識することが求められています。3年間で探究サイクルを回しながら、段階的にステップアップすることで、徐々に「探究」を深めています。

です。

まずは「総合的な探究の時間」と「総合的な学習の時間」の違いから。
以下、修士論文[注1]からの引用です。

「総合的な学習の時間」新設の経緯
 「総合的な学習の時間」(以下、総学)は、平成8(1996)年7月の中央教育審議会答申及び、平成10(1998)年7月の教育課程審議会答申を受け、同年12月に小・中学校、翌年3月に高等学校の学習指導要領改定・告示において正式に教育課程に位置付けられた。ゆとりのある中で児童生徒に「生きる力」を育むという方針のもと、総学は、各学校が創意工夫を生かした特色ある教育活動を展開したり、教科等の枠を超えた横断的・総合的な学習を実施したりする時間として新設された。それ以前までは各学校の裁量に委ねていた特色ある教育活動は、この改定を境に、全国の学校に一律に実施されるようになった。高等学校においては、平成15(2003)年度より学年進行で、本格的に実施された。
 ただ、この時間の特徴の1つが「各教科のように内容を規定しない」ことであったことから、「単元やテーマ」を各学校が開発して、設定していく必要があったため、実施にあたっての難しさも指摘された。そこで、同年に学習指導要領の一部が改訂され、各学校において目標と内容を定めるとともに、この時間の全体計画を作成する必要があること等が示された。さらに、平成20(2008)年には、教育課程における位置付けを明確にするために、主旨やねらい等について、総則から取り出し、章として位置付けられた。 
「総合的な探究の時間」新設の経緯
 「総合的な探究の時間」(以下、総探)は、平成28(2016)年12月中央教育審議会答申において、「よりよい学校教育を通じてよりよい社会をつくる」という目標を学校と社会が共有し、連携・協働しながら、新しい時代に求められる資質・能力を子ども達に育む「社会に開かれた教育課程」の実現を目指し、各学校において教育課程を軸に「カリキュラム・マネジメント」を実施することが求められた。また、育成を目指す資質・能力が明確化されて、「主体的・対話的で深い学び」の実現に向けた授業改善の推進が明記された。これからの社会の変化に対応するために、小・中学校における総学の取り組みの成果を生かしつつ、より探究的な活動を重視する視点から、位置付けを明確化し直すことが考えられ、平成30(2018)年の学習指導要領改訂において、「総合的な学習の時間」は、「総合的な探究の時間」に名称を変えた。

次に、それぞれの目標の違いを比較します。

「総合的な学習の時間」の目標
探究的な見方・考え方を働かせ,横断的・総合的な学習を行うことを
通して,よりよく課題を解決し,自己の生き方を考えていくための資
質・能力を次のとおり育成することを目指す。
(1) 探究的な学習の過程において,課題の解決に必要な知識及び技能
を身に付け,課題に関わる概念を形成し,探究的な学習のよさを理
解するようにする。
(2) 実社会や実生活の中から問いを見いだし,自分で課題を立て,情
報を集め,整理・分析して,まとめ・表現することができるように
する。
(3) 探究的な学習に主体的・協働的に取り組むとともに,互いのよさ
を生かしながら,積極的に社会に参画しようとする態度を養う。
「総合的な探究の時間」の目標[注2]
探究の見方・考え方を働かせ,横断的・総合的な学習を行うことを通して,自己の在り方生き方を考えながら,よりよく課題を発見し解決していくための資質・能力を次のとおり育成することを目指す。
(1) 探究の過程において,課題の発見と解決に必要な知識及び技能を身に付け,課題に関わる概念を形成し,探究の意義や価値を理解するようにする。
(2)実社会や実生活と自己との関わりから問いを見いだし,自分で課題を立て,情報を集め,整理・分析 して,まとめ・表現することができるようにする。
(3)探究に主体的・協働的に取り組むとともに,互いのよさを生かしながら,新たな価値を創造し,よりよい社会を実現しようとする態度を養う。

「総合的な学習の時間」は、「よりよく課題を解決し,自己の生き方を考えていく」とあるように、「課題解決をする過程を通じて、自己の生き方を考えていく」となっています。課題解決が前提となっており、授業であれば、課題を教員側で提供するミッション型ともいえます。

一方で、「総合的な探究の時間」は、「自己の在り方生き方を考えながら」「課題を発見し解決していく」とあります。つまり、「自身のキャリアに紐づけて課題を見つける」ということです。あくまで、起点は学習者です。課題発見が前提となっており、授業であれば、課題を発見するために自己分析や自己内省等を通じて、自身のキャリアを考えるところがスタートラインです。状況に応じてですが、それら過程における一歩目として、教員側からの課題解決の枠の提供も必要です。現実的には、中学校時代までの積み上げにさらに積んでいくため、もし中学校までに自己分析や自己内省が少なく、学習内容を学習者自身で判断したことがないのであれば、突然、「自身のキャリアに紐づけて課題を見つける」ことは、本人にとっては難題以外なにものでもないでしょう。

確かに、広島県立大崎海星高等学校における「大崎上島学」の特質の一つ(詳細は後日詳述)は、学習者の段階的な社会課題への接近がありました。解決までに、自身の興味・関心や社会との接点を認識するといったスモールステップ(螺旋階段のイメージ。これが探究のサイクルを回すことに繋がる。)が必要ではないかと以前考察したこともあります。

第1に、3年間のカリキュラムの要所に「地域」での「経験」があり、「経験」が起点となり、「主体的」な探究がはじまっている。カリキュラムの編成原理は、地域課題の解決学習を中心に据えて、生徒目線に立った段階的な社会課題への接近であった。(修士論文p.92 統合的カリキュラムにおける「大崎上島学」の特質)

以上、「高校魅力化プロジェクト」と新学習指導要領が目指す「社会に開かれた教育課程」の連関を考えるうえで、起点となる「総合的な探究の時間」について、考察をしました。

「高校魅力化プロジェクト」と新学習指導要領が目指す「社会に開かれた教育課程」の連関を考えるうえで起点となる「総合的な探究の時間」は、「課題発見」が前提です。さらに、学びのはじまりは学習者からであり、自身のキャリアと結びつきを意識することが求められています。3年間で探究サイクルを回しながら、段階的なステップアップが目指す「探究」にたどり着く方法といえます。

本日も最後までご覧いただき、ありがとうございました!
少しずつ前進します!

注1:広島大学 大学院 教育学研究科 修士論文2020
『「開かれた学校」における統合的カリキュラム開発の研究 -広島県立大崎海星高等学校における地域協働学習に焦点を当てて』
注2:文部科学省 学習指導要領(平成30年3月告示) 第4章 総合的な探究の時間 p.475 https://www.mext.go.jp/content/1384661_6_1_3.pdf

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