見出し画像

人を撮ること

初めての個展をやらせて頂いたときに、人を撮ることをやめました。その理由はいくつかの少々感傷的な事情を別にすれば、自分がこれから踏み入れようとする領域において人物写真が求められていないという現実がありました。ポートレートで写真を撮ることを始め、日々の仕事では人物のレタッチばかりしていた頃のことです。この決断には大きな逡巡と不安がありましたが、美術品としての写真作品を制作することを目標にするにあたって、様々な方の意見をうかがった結果、むしろ人を撮ることがマイナス評価に繋がるリスクが大きいという結論に達しました。

それから数年、様々な機会を頂きながら大成とは程遠い結果しか残せていないことに忸怩たるものがございますが、その機会を通して、また写真を取り巻く主に社会との関係の変化について熟考を重ねた結果、人を被写体とする作品の制作を決めるに至りました。

画像5

リスクを伴うことは承知の上で、そして、であればリスクは大きい程その意義を主張できると考えたのです。リスクを恐れて人を撮ることをやめた人間が再び人を撮り、作品を発表することに至る覚悟というのを明示したいという気持ちがありました。いくつかの試作を経て今回のコラボレーションを発表することができたことに関係者の皆様のご寛容に大きな感謝を感じております。  

画像5

このコラボレーション作品は、勝海麻衣氏の描く“線”を基点としてフォルムと空間を演出するという技法を用いました。これは作家(の描く作品)と(作家自身の)身体の関係に主題を置いています。絵を描く作家としての勝海麻衣と被写体として身体で表現する勝海麻衣との間にある構造的な合致を、自身が描いた“線”のイメージに合わせてポージングをすることで曲線や動作といったフォルムに落とし込んでいきました。つまりこのコラボレーションは勝海麻衣氏でなければ、実現出来ないということです。この提案は僕のほうからさせて頂きました。モデルではなく作家としてコラボレーション作品をつくりませんか?という主旨をお伝えしました。

何故、勝海麻衣氏との共作に?との疑問、批判をお持ち方も多くいらっしゃるかと思います。そのことに触れずに済ませることは出来ませんが、あの事件自体には当事者としての立場にありませんので言及は致しません。その件に関して僕の立場、見解は一つです。すなわち「やってしまったことは一つの結果であり、それがどんな類のものであれ、その後の可能性までをも潰すことには反対する」ということです。

勝海麻衣氏の件に限らず昨今のSNS界隈を中心とした炎上案件に対して、当事者、及び関係者の間で交わされるやりとりは正当なものだと思いますし、それが公開の場で交わされることはある種の社会的健全さの賜物だと考えておりますが、聞かれてもいない自らの見解や意見を「世論を背景にあたかも正論のように語る輩」には嫌悪を抱いております。
同時に、あるいはそれ以上に「自らの立ち位置と見解を明確にし、意見として“発信”する方々」には敬意と賞賛を感じております。

少し簡単にまとめます。

彼女のやった事はどう考えても有罪でしょう。
だからといって、否、むしろその経験を経た人間がこれから何を創り何を成すのか。僕にはそのことのほうが興味があります。

画像4

実際、このコラボレーションはじつに面白く興味深いものとなりました。これから多くの作品群を発表していきたいと思います。多くの人は良くも悪くも色眼鏡でご覧になるかと思いますし、そういった批判も作品の一部として、我々自身が承知の上で取り組んでおります。

過去はなかったことには出来ない。
でも未来を閉ざすことも出来ない。

そのことを自分の行動と作品でささやかに主張できれば幸いに思います。


Painter 勝海 麻衣 × Photographer 丹野 徹 コラボレーション展「LINE」

本展のコラボレーション作品は、勝海麻衣氏の描く“線”を基点としてフォルムと空間を演出しています。これは作家(の描く作品)と(作家自身の)身体の関係に主題を置いていることを意味します。自身が描いた“線”とポージングのフォルム=“線”を重ね合わせ、絵を描く作家としての勝海麻衣と、被写体として身体で表現する勝海麻衣との間にある構造的な合致に言及することを主題にした新作21点を展示致します。

America-Bashi Gallery | ABG | アメリカ橋ギャラリー

150-0022 東京都渋谷区恵比寿南 1-22-3

■ JR山手線・埼京線「恵比寿」駅(東口)より 徒歩5分.
■ 地下鉄 日比谷線「恵比寿」駅(1番出口)より 徒歩7分
2022.02.10(Thu)‐02.14(Mon)
OPEN‐CLOSE 11:00‐19:00 (会期中無休/最終日は17:00まで)



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?