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Torus (トーラス) by ABEJA

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Torus(トーラス)は、AIの社会実装を手がける、株式会社ABEJA(https://abejainc.com/ja/)のオウンドメディアです。「テクノロジー化する時代に、あえ… もっと読む
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2019年12月の記事一覧

母語と異言語の狭間の苦闘。『悪童日記』訳者の堀茂樹と「翻訳」の世界

「巻を措く能わず」という言葉がある。 あまりに面白くてページをめくる手がとまらない、最後まで一気読みしてしまう――それほどまでに中毒的な書物に対して使う慣用句だが、私にとって、子ども時代の「没入する」読書体験を久々に呼び起こしてくれたのが、まさにこの本だった。 『悪童日記』。ハンガリー生まれの作家アゴタ・クリストフが1986年、母語ではないフランス語で発表した小説だ。無名の作家による50歳にしてのデビュー作品でありながら、世界中の読書好きの間で熱烈に支持され、やがて文学界

「物語」が「イズム」を超えるとき。

作品が出るたびに世界の文学賞をとり、「いずれはノーベル賞」の呼び声が高いナイジェリア出身の作家がいる。 チママンダ・ンゴズィ・アディーチェ。 恋愛小説の中に、ポストコロニアル、移民、ジェンダーなどの現実を、鋭い観察眼とリアルな描写、ときに皮肉とユーモアを交えた筆致で描き出す。 「物語の力で、使い古された『フェミニズム』や『アフリカ』という言葉に息吹を吹き込んだ。これはイズム(主義、概念)ではできないことです」 アディーチェ作品の邦訳をすべて手がけてきた、翻訳家のくぼたの

イタリア人医師が考える、日本に引きこもりが多い理由。

パントー・フランチェスコさんは、日本で精神科医を目指す研修医として働いている。 彼を日本に引き寄せたのは、大好きな「アニメ」、そして「引きこもり」だ。引きこもりは世界中で似た現象が報告され、「Hikikomori」として社会問題になりつつある。 日本に来て、「引きこもりはやはり日本特有」と気がついた。根っこにあるのは、人々の思考に染みついた「文化」。国や地域の文化が生む「大きな物語」になじめず、それに当てはまらない自分を気に病む人が多いという。 ならば、「自分の物語」を