NCニュースの読み方 #3 「音楽市場拡大の道を考える」 (2005年6月20日)
KDDIと沖縄セルラーは6月17日、au携帯電話向けの音楽配信サービス「着うたフル」の累計ダウンロード数が6月15日に1000万曲を超えたと発表した。4月3日に500万ダウンロードを記録しているので、この2ヶ月半に500万曲(毎日平均7万曲)がダウンロードされたことになる。パソコン向けの有料音楽配信サービスでは最大手と言われているレーベルゲートのMoraですら2004年3月一ヶ月のダウンロード数が37万曲(毎日平均1万曲強)であることを考えると、日本の音楽配信サービスは携帯電話向けサービスがリードしている状況であることがわかる。
しかし、これを海外の音楽配信サービスと比べてみると、様相はまったく異なって見えてくる。2003年4月に米国でサービスを開始したアップルコンピュータの「iTunes Music Store (iTMS)」から有料でダウンロードされた楽曲数は、最初の1年で7000万曲、2004年12月には2億曲、2005年3月には3億曲を超え、4月下 旬か5月初めには4億曲を超え、まもなく5億曲に達すると見られている(図表参照)。現時点では、1日にダウン ロードされる楽曲数は、150万曲から200万曲近くになっていると推定される。これは、着うたフルの20倍以上、Moraの100倍以上である。
日本の音楽配信サービス市場が伸び悩んでいる最大の理由は、使い勝手の悪さと著作権管理の厳しさにあるのではないだろうか。たとえば、iTMSでは他のパソコンへの転送が3回までと制限されているだけで、携帯音楽プレーヤーなどへの転送やCD-Rへの書き出しは無制限となっているのに対して、日本の場合、多くの楽曲が、他のパソコンへの転送とCD-Rへの書き出しは不可能で、携帯音楽プレーヤーなどへの転送も3回までと技術的に厳しく制限している(この著作権管理の厳しさに対するユーザーの不満の声が届いたのか、昨年末からいくつかのレーベルが、CD-Rへの書き出し制限を緩めている。少し風向きが変わり始めたのかもしれない)。
著作権管理を緩くすれば、不正コピーが増加すると考えるのはあまりにも単純である。全米レコード産業協会(RIAA)の統計によれば、2004年のCDの売上げは数量ベースで2.8%、金額ベースで1.9%増加しているし、音楽販売の情報サイト『ニールセン・サウンドスキャン』によれば、2005年第1四半期の音楽の販売額(CDや合法音楽配信サービスなど)は、前年同期比で9.1%増加している。また、NPDグループが6月7日に発表したレポートによれば、2005年3月時点でデジタル音楽の入手手段として最も利用が多かったのはP2Pサービスの「WinMX」で210万世帯であるが、第2位にiTMSが170万世帯で第2位に入り、有料の音楽配信サービスが米国で定着しつつあることが明らかになった。
消費者に支持されないサービスや産業に明るい未来があるわけがない。レコード産業界は著作者の権利を守るためだと主張しているが、本当にそうだろうか。著作権を保護することは重要なことであるが、そのために使い勝手が犠牲になったり、消費者に余計な負担をかけることがあってはならない。著作権保護という錦の御旗を立てて、自分たちの目先の利益にこだわり、インターネット時代の音楽ビジネスのあり方を見誤っているのではないか。