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BCN 視点 #2 「プライバシー問題と無線ICタグ」 (2004年3月)

 先月の下旬に開催された日本経済新聞社主催の世界情報通信サミットに参加した。今年のテーマは「デジタルIDで始まる大変革」である。デジタルIDを広く考えれば話題の無線ICタグだけでなく、IPv6やネット上の個人認証のための電子署名、コンテンツIDなども含まれるのだが、やはり話題の中心は流行の無線ICタグであった。
 
 周知のとおり、小売業界では世界最大のウォルマート・ストアーズ(米)とメトロ(独)は、主な取引先に対して1年以内に無線ICタグの採用を求めており、無線ICタグは、話題としての流行から現実的な普及期に入ろうとしている。
 
 一方、無線ICタグの利用については、プライバシーの侵害を心配する声がある。確かに個別の商品につけられた無線ICタグを付けたままにしていると、何を持っているのか、どんな服を身につけているのかを知られてしまう可能性があるし、そのIDを利用して行動が追跡されてしまうかもしれない。たとえ、タグに記録されているのが、ID番号だけであったとしても、一度その番号と個人の情報が結びつけられてしまえば、その番号は個人を識別する番号になりえることに注意しなければいけない。
 
 こうした問題を解決すべく、日本では経済産業省を中心に無線ICタグを利用する時のガイドライン策定が進められているし、米国でも無線ICタグの利用を推進するEPCグローバルとプライバシー保護に関係する団体のそれぞれからガイドラインが発表されている。また、技術的な解決策、運用的な解決策も検討が進められている。
 
 こうした状況の中で、我々が最も懸念すべきことは、プライバシー問題を心配しすぎてビジネスでの利用で遅れをとってしまうことだ。無線ICタグの利用方法によっては、プライバシー侵害をまったく考慮する必要のないものがある。たとえば、流通の合理化を目的に、商品を搬送するための段ボール箱やパレットに無線ICタグをつけるようなケースである。実際、ウォルマートやメトロが進めようとしているのはこうした利用方法なのである。プライバシー問題は重要であるが、そのためにプライバシー問題が起きる可能性のない無線ICタグ利用の足を引っ張ることがあってはならない。
 

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