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NCニュースの読み方 #17 「人材不足と女性と労働環境をめぐる問題」 (2005年12月21日)

 2005年12月中旬、インドのバンガロールで殺人事件が起きた。犠牲になったのは現地のヒューレット・パッカードに勤務するインド人女性である。彼女は深夜勤務をした後、家に帰ろうとしてタクシーの運転手に殺されている(犯人はすでに逮捕されている)。

 別に彼女は残業をしていたわけではない。インドでは米国からのオフショア開発(海外アウトソーシングの受託ビジネス)が盛んで、米国企業とのやり取りをするためには深夜に勤務せざるを得ないのである。報道によれば、インドのソフトウェア・情報サービス企業では夜勤をしているソフトウェア技術者がたくさんいるのだそうだ。こうした事情もあって、この事件が起きてから、インドでは従業員の安全をどうやって守るのかが問題になっているという。

 特に問題になっているのは、夜勤をする女性のソフトウェア技術者である。情報サービス産業が急成長するインドでは、女性のソフトウェア技術者が急増している。かつては、成人すれば早く結婚して家庭に入るのが当たり前だったインドの女性も、この数年で事情がずいぶん変わってきたのだそうだ。インドのソフトウェア・サービス協会(NASSCOM:National Association of Software & Service Companies)によれば、数年前は、女性のソフトウェア技術者は珍しい存在であったのに、インドのソフトウェア・情報サービス産業の就業者に占める女性の割合は、2007年には約3分の1に達する見込みだという。

 一方、日本の状況をみると、情報サービス産業の就業者に占める女性の割合は2004年で21.9%とそれほど高くない(情報サービス産業実態調査)。おまけに、この数年の推移をみると女性の比率は少しずつ低下している。日本の全就業者に占める女性の割合は41%程度であり、おまけに女性の割合がこの10年間はほぼ一貫して増加していることを考えると、情報サービス産業における女性の活用には大きな課題があるのではないだろうか。

 最近、日本の景気がよくなってきたこともあってか、情報サービス産業全体で人材が不足しているという声を聞くことが多くなった。情報サービス企業はもっと女性の採用に積極的になるべきだろう。世間には、女性は論理的思考が苦手だからソフトウェア技術者には向かないという意見もあるが、それは偏見である。ソフトウェア技術者として活躍している女性はいくらでもいる。

 女性のソフトウェア技術者が増えない原因の一つは、就労環境の悪さにあるように思える。たとえば、他の産業に比べて残業が異常に多い。情報処理産業実態調査(2004年版)によれば、年間の平均残業時間は260時間であるが、これは従業員5人以上の企業における全産業平均の124時間(毎月勤労統計調査の平成16年結果確報)の2倍以上である。ソフトウェア企業では、納期直前になれば残業が深夜に及ぶことは珍しくない。

 さらに最近の治安悪化とインドの事件を考えると、深夜や早朝に帰宅する女性社員の安全をどう確保するかも問題になるだろう。
 解決策はある。もちろん、抜本的には深夜に及ぶ残業をなくすことが必要だが、ブロードバンド環境を活かした在宅勤務も当面の解決策になるだろう。情報サービス産業の人材不足を解決する一つの鍵は、労働環境の改善による女性パワーの活用にあるのではないだろうか。

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