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溜池随想録 #21 「オンライン・リアルタイム・システム」 (2011年2月)

IBM System/360

 UNIVACに続いて、様々な企業が大型コンピュータ市場に参入した。主な企業を挙げれば、バロース、Scientific Data Systems (SDS)、CDC、GE、RCA、ハネウェル、そしてIBMである。
 このうちIBMは、1950年代後半に米国防総省の半自動式防空管制組織(SAGE:Semi Automatic Ground Environment)向けのコンピュータの設計・製造を受注することになり、巨額の開発費とともに、大型コンピュータとオンライン・リアルタイム・システムの開発に必要なノウハウを得た。

 このIBMが、1964年に発表したコンピュータがSystem/360シリーズである。360は360度を意味する。つまり360度すべての方向(どんな分野)にでも対応できるシステムという意味が込められている。System/360以前のコンピュータは、科学技術計算用あるいは事務処理用といったようにある程度用途を限定して設計・製造されていた。つまり、汎用コンピュータの原点はSystem/360にあると言ってよい。

 System/360のもう一つの特徴は、中小型のコンピュータから大型のものまでが、基本的に同じアーキテクチャで設計されていたという点にある。
このため、比較的安価な中小型のモデルを導入した企業が、コンピュータ処理業務の拡大に伴い、上位のモデルに乗り換える場合であってもプログラムなどを書き換える必要がなく、容易にシステムの入れ替えが可能であった。
利用企業からみれば、自社のニーズにあった規模のコンピュータを導入でき、かつ一度開発したソフトウェア資産が無駄にならないというメリットがあった。またIBMは、大型機に比べて中小型機の価格をかなり抑えた設定にしていたと言われており、これもSystem/360の普及を後押しした。

 こうして、IBMはメインフレーム時代の覇者となり、IBM以外のUNIVAC、バロース、SDS、CDC、GE、RCA、ハネウェルは「7人の小人」と呼ばれるようになった。

オンライン・システム

 話は少し前後するが、国防総省のSAGE向けコンピュータを設計・開発したIBMは、そこで得たオンライン・リアルタイム・システムのノウハウを活かし、アメリカン航空向けにコンピュータ予約システム(CRS)を開発した。これがSABRE(セイバー)である。開発に着手したのは1957年であり、1960年に最初のシステムが稼働したと言われている。開発に要した費用は4000万ドルであり、現在の価値に換算すると4億ドルちかくになる。このシステムには大型コンピュータのIBM7090が2台使われていたが、1972年にSytem/360に入れ替えられている。

 このSABREが稼働するまで、航空機の予約は電話と手作業で行われており、チケットの発券に要する時間がかかるだけでなく、ミスによるトラブルも少なくなかった。また、便数の増加によって予約業務は限界に来ていたとも言われている。SABREはこうした問題を一挙に解決することになる。

 なお、SABREは現在、世界の57,000以上の旅行代理店で利用される総合旅行予約システムになっており、世界中の航空機、ホテル、レンタカー、列車などの予約が可能である。

日本のオンライン・システム

 日本におけるオンライン予約システムの代表例は、旧国鉄の「みどりの窓口」で知られているマルスだろう。マルスは、日本で最初というだけでなく、世界でも最初の商用オンライン・システムである。
 最初のマルス1は、当初、1959年3月稼働の予定であったが、構築が遅れ、翌1960年1月18日に運用を開始している。このシステムは、ベンディックス社のG15を使い日立製作所が開発したもので、東京―大阪間の特急4列車、3600座席の15日分を対象としたオンライン・リアルタイムの座席予約システムであった。その後、1964年には日立製作所が開発したHITAC3030を使い、総座席数3万の本格的なオンライン座席予約システムマルス101の運用が開始されている。マルスがもたらしたものは、どれだけ多くの人手をかけたとしても、紙と鉛筆と電話では処理できない膨大な数のリアルタイム座席予約を可能にしたことである。これによって業務の効率化はもちろん、顧客サービスが格段に向上した。

 一方、銀行のオンライン・システムは、1965年に三井銀行丸の内支店で普通預金のオンライン処理が開始されたのが日本で最初だと言われている。銀行業務の自動化・機械化は1950年くらいから単純な会計機の利用から始まり、パンチ・カード・システム(PCS)の利用を経て1960 年頃からコンピュータを利用するようになっていた。当初、預金から始まったオンライン処理は、1967年には当座、貸出、為替を含む総合オンラインに発展し、1968年には主要都市銀行が支店網を構築するに至っている。当時「金融制度調査会に提出された『オンライン・システムの導入採算』によると、従業員1万人以上の上位都市銀行平均では、人員削減2025人(2割)、経費削減52億3300万円、増加費用4億6900万円、差引47億6400万円で、大銀行では100億円の投資と言われたオンライン化の投資効率はきわめて高かった」とされている (日本IBM「情報処理産業年表」p.83)。

 その後、1970年代半ばには第二次オンライン・システムと呼ばれるシステムが構築され、異なる金融機関のコンピュータがネットワークによって接続され、CD(キャッシュ・ディスペンサー、現金自動支払機)、ATM(オートメイティッド・テラー・マシーン、現金自動受払機)のネットワーク化が実現した。

 さらに1980年代には、金融ビジネスの国際化への対応、新商品・新サービスの開発、営業管理のための情報系システムの充実などを目標に第三次オンライン・システムが構築され、今日に至っている。


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