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溜池随想録 #25 「インターネットの衝撃」 (2011年6月)

インターネット技術の利用

 ダウンサイジングの次にやってきた大きな波がインターネットである。インターネットの歴史は1969年に運用が開始された米国防総省のARPANETに始まるが、商用利用が始まったのはそれから20年ほど経った1980年代末であり、企業経営に大きな影響をもたらすようになったのはさらに10年近く経った1990年代末である。

 きっかけの一つはマルチメディアに対応したブラウザ「モザイク(Mosaic)」の登場である。モザイクは、イリノイ大学の国立スーパーコンピュータ応用研究所で、当時22歳だったマーク・アンドリーセンとその仲間によって開発され1993年に公開された。このブラウザの登場によって、インターネットは研究者のメディアから万人のためのメディアへと変化した。

 インターネット技術のビジネス利用のタイプは大きく2つにわけることができる。
 第1のタイプは商取引への利用である。これは、広い意味での電子商取引(EC: Electronic Commerce)である。つまり、単純にネット上でモノやサービスを販売することを指すのでなく、広告、商取引の前提となる情報仲介から決済までの商取引に関連するすべてのプロセスを含む。電子商取引は、企業間電子商取引と消費者向け電子商取引に分けることができる。
 第2のタイプは企業内の業務システムへの利用である。これは、電子メールのようにインターネットのサービスをそのまま利用する方法と、インターネット技術を社内システムに利用する方法に分けることができる。
 

電子商取引

 インターネットの普及によって最も変化が大きかったのは、電子商取引の世界だろう。企業間の取引はインターネットが普及する前からEDIと呼ばれ、専用線や付加価値通信網(VAN)サービスを利用して行われていたが、次第にインターネットを利用するようになっていった。

 このEDIより大きく変わったのがウェブを利用した電子商取引である。この市場は1990年代後半から急激に拡大した。たとえば、パソコンメーカーのデルは1996年7月にインターネット経由での直販を始め、1997年12月には1日当たりの販売額が300万ドルに達している。また、1995年7月にネット上で書籍の販売を始めたアマゾン・ドットコムは、取扱商品を音楽CDやビデオ、玩具、家電商品などに拡大し、1999年には16億ドルの年間売上高を記録している(ちなみに2010年のアマゾン・ドットコムの年間売上高は342億ドルに達している)。

 こうしたネット販売は中抜き(中間業者排除)を促進すると言われた。実際、旅行業界では航空券やホテル、レンタカーなどの直販が進んでいる。しかし、一方ではインターネット特有の中間業者も生まれている。たとえば楽天市場のようなインターネットモールやオークションサイト、価格比較サイトなどが情報仲介業(infomediary)と呼ばれる中間業者としてビジネスを拡大した。

Webアプリケーションの普及

 一方、インターネット技術は企業内の情報システムにも大きな影響を与えた。
 インターネットが急速に普及し始めた時、情報システムの主流は、クライアント/サーバーモデル(C/Sモデル)であった。C/Sモデルは、パソコンをクライアントとして用い、サーバーとクライアントで情報処理を分担する方式である。全ての処理をメインフレームで行う中央集権的なアーキテクチャとは異なり、クライアント側でGUI(グラフィカル・ユーザ・インタフェース)を用いた画面表示や情報処理の一部を分担することが可能なため、ユーザにとって使いやすいシステムを構築することが可能であった。

 ただ、C/Sモデルには欠点があった。まず、クライアント用のアプリケーションを配布する必要があり、そのバージョンアップにはかなりの手間を要した。また、クライアント側の環境によって、クライアント用アプリケーションが正しく動作しないという問題があった。これらの問題を解決するものとして2000年前後から普及し始めたのがWebアプリケーションシステムである。

 Webアプリケーションシステムでは、クライアント側のWebブラウザをクライアント用のアプリケーションとして利用する。したがって、あらためてクライアント用のアプリケーションを配布する手間は必要としない。ブラウザの種類による互換性の問題は残るが、利用できるブラウザの種類を指定しておけば、互換性の問題は回避できる。

 Webアプリケーションシステムはクライアント/サーバー型のシステムより開発も保守も容易であったことからさまざまな業務システムで利用されるようになった。

 当初、Webアプリケーションは、基本的にクライアントのリクエストに応じてサーバーからページ単位で情報を受取る仕組みになっており、画面の一部の情報を書き換えるだけであってもページ全体を更新するという不効率な画面遷移が発生していた。

 そこで登場したのがリッチクライアントとAjaxである。
 リッチクライアントは2003年前後から注目されるようになった技術で、サーバーからクライアントにプログラムを送り込み、それをクライアント側で動作させることによって高い表現力と操作性を実現するものである。代表的な技術としてはFlash、Java Applet、Curlといった言語を利用したものがある。

 一方Ajaxは、ブラウザによる非同期通信を利用し、サーバーから送られてくるデータに応じて動的にページの一部を書き換える技術で2005年前後から注目されるようになった。

 こうして、インターネット技術の利用は、社内用の電子メールや電子掲示板などのコミュニケーション用途に始まり、ワークフローと呼ばれる申請・承認などの一連の業務手続きや人事・総務系業務に拡大し、やがて顧客管理(CRM: Customer Relationship Management)、営業支援(SFA: Sales Force Automation)や、販売、生産、財務会計など企業の基幹業務システムへと広がっていった。

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