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ネットバブルの崩壊から得られた教訓  第1回 「ネットバブルの崩壊で何が起きたのか」 (2004年)

 新興の情報系企業が数多く上場しているナスダック総合株価指数をみると、2000年3月10日に5048ポイントを記録した後、歴史的な下降局面に入り、約1年後の2001年4月初めに1600ポイント台まで下落しています。これが、いわゆるネットバブルの崩壊です。ドットコム企業の株価は暴落し、いくつもの上場企業が破産してしまいました。また、それ以上の数のネット系ベンチャーが、新規株式公開の夢を実現できないまま姿を消してしまいました。

 米国の調査会社ウェブマージャーズが毎月発表している統計によりますと、ドットコム企業の倒産や閉鎖はナスダック指数の下落が始まった直後から急増しています。ドットコム企業の破綻件数のピークは、2000年11月から2001年6月までの期間で、この時期には、毎月50件〜60件という高い水準にありました。破綻件数は、2001年下半期になってようやく減少に転じ、2002年の後半には月平均10件程度まで下がりました。この数字から判断して、ネットバブル崩壊に伴うドットコム企業の倒産は2002年で一段落したと考えてよいでしょう。

 ちなみに、2000年第1四半期から2002年の第2四半期の2年半に閉鎖・倒産したドットコム企業を数えると893社にもなります。また、これを業種別に見ると、もっとも大きな割合を占めるのがEC系の企業で、全体の43%を占めています。次がコンテンツ系の企業で25%、3番目がインフラ系企業で16%となっています。

 ネットバブル崩壊時に破綻したネット小売企業は、株式を新規公開する前のベンチャー企業が多かったのですが、中には株式を公開して、市場から既存の大企業と変わらない評価を受けた企業も含まれています。たとえば、2000年8月に米連邦破産法11条の適用を申請したValueAmericaは、パソコンからスポーツ用品、玩具、宝石、日用品まで幅広い商品を扱っていたネット小売りで、1999年4月に新規株式公開(IPO)を行った時の株式の時価総額は24億ドルでした。これは、小売業大手のシアーズ・ローバックの当時の時価総価額に匹敵する金額です。

 ネット上で食品雑貨を販売する「オンライン・スーパー」のWebvanも、1999年11月に株式を公開し、株式市場から8億ドルもの資金を調達して全米に10カ所の最先端の配送センターを建設するまでに至ったのですが、2001年7月に力尽きて破産申請してしまいました。

 破綻した企業の中には、よく知られた大企業から出資を受けた企業や、大手企業の系列のネット企業も含まれています。たとえば、2000年6月に破産申請したToysmartは1999年8月にウォルト・ディズニー社から4500万ドルの出資を受けたオンライン玩具店でしたし、同じくオンライン玩具店のRedRocket.comは、米国のメディア大手のViacom(パラマウント映画やテレビ局のCBSの親会社)の系列のネット企業でしたが、2000年5月に破産申請を行っています。

 倒産したわけではないのですが、破綻直前に他の企業に買収されり、既存企業から多額の出資を受けることによって事実上子会社となってしまったドットコム企業もあります。たとえば、音楽用CDを販売するCDNowは、1994年創業のネット小売り業界では老舗ですが、2000年7月にドイツのメディア大手企業であるBertelsmannに買収されてしまいました。また、Webvanと並んでオンライン・スーパーの最大手であったPeapodは、オランダのRoyal Aholdの出資を受け入れて事実上の子会社となってしまいました。

 こうした破綻した企業には、調べれば破綻するそれなりの理由があります。たとえば、ValueAmericaは、2つの点で大変注目されたネット小売でした。

 まず第1に、ValueAmericaは、ウェブで注文を受け付けた商品を、提携したメーカーや卸売業者から直接、消費者に配送させることによって、自社ではまったく在庫を持たないというビジネスモデルを採用していました。無在庫モデルとよばれたビジネスモデルです。

 第2に、有名人が出資者として名前を連ねていました。たとえば、Microsoftの創業の一人であるポール・アレン(もう一人の創業者がビル・ゲイツです)や、FedexのCEOであったフレッド・スミスが出資していたのです。

 ところが、ValueAmericaの評判はまったく芳しくありませんでした。商品の配送にミスが多かったからです。たとえば、注文した商品が届くのが遅れたり、注文したものと異なる商品が届いたり、数量を間違えたりしたそうです。実際、その頃にインターネット上の電子掲示板に書き込まれた同社の評判は最悪でした。顧客の評判が悪い店が繁盛するわけがありません。1998年の決算は5360万ドルの赤字でしたが、1999年には1億4350万ドルの赤字と決算は悪化し、2000年8月に破綻してしまいました。

 しかし、顧客の評判がよくても倒産したネット企業があります。次回は、そんな企業を取り上げて、ネット事業失敗の原因を考えてみたいと思います。


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