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BCN 視点 #59 「マイナンバーの効用」 (2015年11月19日)

 ようやくマイナンバーの通知が始まった。周知のとおり、この番号制度については従来、国民の一部に根強い反対がある。反対の主な理由は、マイナンバーの導入によって、個人情報漏えいの危険性が増大することと、国家による国民の監視・管理につながることだといわれている。これは正しい認識なのだろうか。

 少なくとも前者については誤解がある。個人情報漏えいの危険性は、基本的にマイナンバーの導入とほとんど関係がない。マイナンバーが導入されても、政府が保有する個人情報が統合されるわけではなく、これまでと同じようにそれぞれの業務に合わせて分散管理される。情報漏えいの危険性は、それぞれの情報管理のあり方に大きく左右され、マイナンバーが導入されたからといって危険性が大きく変化するものではない。

 では、マイナンバーの導入は、国家による国民の監視・管理につながるのだろうか。これは「監視・管理」をどの視点からみるかによって異なる。少なくとも現時点では、マイナンバーの用途は社会保障と税、災害対策の三分野に限られている。

 例えば、所得の把握や金融資産の把握のためにマイナンバーを利用するケースを考えよう。賃金や報酬の支払い、不動産の売買や金融機関の口座開設にマイナンバーを利用すれば、国は個人の所得と資産をかなり正確に把握できる。自分の所得や資産が正確に把握されると聞いて、喜ぶ人はあまりいないだろう。しかし自分だけではなく、納税者全員の所得と金融資産が正確に把握されるのだと考えればどうだろう。納税は憲法30条に定められた国民の義務であるにもかかわらず、世の中には税金をごまかしている納税者がいる。所得や資産を正確に把握されて困るのは、この国民の義務をきちんと果たしていない人なのだ。

 おそらく所得と資産の把握のためにマイナンバーを用いれば税収は増える。しかし、徴税額が増えるのは、これまで納税という義務を正直に果たしてこなかった人の分である。もし、あなたが正直者であれば、マイナンバーを所得と資産の把握に利用することに反対する必要はない。むしろ、自分の税負担を軽くすると同時に、公平で公正な社会にするため、積極的に賛成するべきである。マイナンバーの最大の効用はこの点にあるのだから。

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