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「ITと企業経営」シリーズ 第1回 はじめに (2010年10月) 生産性新聞

 現在では、ほとんどの企業がなんらかの形で情報技術(IT)を経営に活用しているが、コンピュータが電子計算機と呼ばれ、空調付きのマシンルームに設置されていた時代には、コンピュータは非常に高価で、ビジネスに利用できたのは大企業に限られていた。

 世界で最初にビジネスに利用されたコンピュータは、英国で喫茶店チェーンを経営していたJ・ライオンズ社が自社開発したライオンズ・エレクトロニック・オフィス(LEO)である。一九四七年に開発が開始され五一年に完成したLEOの利用によって「従業員一人につき八分かかっていた週給の計算が、二秒以内に短縮され」かつ「材料の発注や商品の配送効率も上がった」と言われている。

 商品としての最初のコンピュータは、一九五一年に完成したユニバックⅠである。初期のユニバックⅠの販売価格は一〇〇万ドル以上でと高価で、当初の利用者は、統計調査を担当している商務省センサス局などの政府関係機関だけであった。しかし、五三年春にゼネラル・エレクトリック(GE)が八号機を導入すると、メトロポリタン生命保険、USスチール、デュポン、フランクリン生命保険などの大企業が次々とユニバックⅠを導入した。

 ユニバックⅠの主記憶装置(メモリ)は一〇〇〇語(ワード)の水銀遅延線メモリで、計算速度は、一一桁の数値計算の場合、一秒間に加減算は一九〇〇回、乗算は四六五回、除算は二五五回である。単位が異なるので、単純比較はできないが、最近のパソコンに搭載されたメモリはギガバイト(一〇の九乗バイト)単位であり、最新のゲーム機に利用されているマイクロプロセッサの不動点少数演算速度は、数百億回/秒から数千億回/秒になっている。つまり、半世紀あまりでメモリは一〇〇万倍以上に、計算速度は一億倍以上になっている。

 このITの進歩によって、小型でリーズナブルな価格のコンピュータが生まれ、コンピュータを利用する企業の裾野は拡大し、現在では、コンピュータはほとんどの企業にとって不可欠なものとなっている。

 ITの進歩は事務処理に利用するコンピュータを小型化、高性能化させただけではない。コンピュータ・ネットワークの進歩は、取引や企業間連携のあり方を大きく変えてきた。特に一九九〇年代半ばから急速に普及したインターネットは、世界規模の電子商取引市場を創り出すとともに、新しいタイプのビジネスを生み出した。また、マイクロプロセッサが組み込まれたロボットや工作機械のような産業用機器は、生産、製造プロセスに大きな変化をもたらしている。さらに、マイクロエレクトロニクス技術と無線通信技術の進歩によって生まれたモバイル端末や非接触ICカード/無線ICタグは、ビジネスに大きな変化をもたらしつつある。

 このシリーズでは、ITとその利用技術の進歩をたどりながら、ITと経営について考えていきたい。

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