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NCニュースの読み方 #9 「Googleがインターネットの父をスカウトした理由」 (2005年9月12日)

 Googleは9月8日、米通信大手であるMCIの上席副社長Vinton G. Cerf氏 (62歳)を、10月3日からチーフ・インターネット・エバンジェリストに着任すると発表した。Cerf氏は、スタンフォード大学の助教授時代、DARPA(国防総省高等研究計画局)のARPAnetプロジェクトに参加し、1973年にRobert E. Kahn氏(現在はCorporation for National Research Initiatives (CNRI) の会長兼社長)とともにインターネットの通信プロトコルであるTCP/IPを開発したことから「インターネットの父」と呼ばれている。Cerf氏とKahn氏は、1997年12月に米国技術栄誉賞(National Medal of Technology)を受賞しているほか、2004年6月には米国計算機学会(ACM)からコンピュータ分野のノーベル賞とも言われるチューリング賞を受賞している。

 さて、Googleが「インターネットの父」をスカウトした理由はどこにあるのだろう。新しい職名は「エバンジェリスト」だが、いまさら伝道師として期待されているわけではない。この肩書きは過去の業績を評価したものだ。

 Cerf氏は、スタンフォード大学を離れた後もDARPA(76-82)、MCI(82-86、94-)、CNRI(86-94)において一貫してインターネット関連の研究を行ってきている。GoogleのCEOであるEric Schmidt氏は、Googleのネットワークインフラやアーキテクチャ、そして次世代インターネット・アプリケーションの標準開発での活躍を期待していると述べている。この言葉に嘘はないだろうが、もう一つ隠れた狙いがあるように思われる。

 Cerf氏は、その優れた研究業績に加え、温厚な人柄から多くのインターネット研究者の尊敬と信頼を得ており、インターネット学会(Internet Society)の初代会長(1992~95)やIPv6フォーラムの名誉会長、インターネットのドメインやIPアドレスの管理を統括するICANNの会長などを務めている。おそらくGoogleは、このCerf氏のインターネット業界に対する強い影響力と、幅広い人脈を自社の戦略に活かすつもりに違いない。

 1998年創業のGoogleは、2004年8月にNASDAQに株式を上場した。この上場によって得た豊富な資金を活かして、最近大物の技術者を次々とスカウトしている(図表参照)。最近では、2005年7月にMicrosoftから同社の幹部でユーザインタフェースの専門家であるKai-Fu Lee氏を引き抜き、MicrosoftがGoogleとLee氏を相手取って提訴するという事件まで起きている。

 これらは氷山の一角にすぎない。Business Week onlineによれば、Googleは2005年4-6月期だけで230人の技術者を採用しているという。シリコンバレー在住でコンサルティング会社ミューズ・アソシエイツ社長の梅田望夫氏は「今や世界中の才能がグーグル入社希望の列を作っている」(June 2005 Foresight)と述べている。

 Googleは「インターネットの父」を得たことで、さらに優秀な人材を世界中から集め「世界中の情報を体系化し、アクセス可能で有益なものにする」というGoogleのミッションを達成するために、インターネットを再構築しようとしているのではないだろうか。

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