見出し画像

DX再考 #13 データ駆動(その2)

KOMTRAXの効用

 KOMTRAXがどのような効用をもたらしたかを理解するためには、まず建設機械(建機)ビジネスの特徴を知っておく必要がある。
 TCO(Total Cost of Ownership)を考えると、建機の場合には本体の価格よりランニングコストが大きい。つまり燃料費やオペレーターの賃金、メンテナンス費、修理費、盗難保険料、(ローンで購入した場合は)ローンの手数料の合計が建機の価格の2倍から3倍になる。
 仮に建機が故障して工事が進まなくてもオペレーターの賃金は払わなければならないし、工期が長引けば全体のコストは上昇する。そんなことを考えれば、建機のダウンタイム(故障、修理している期間)は短かければ短いほどよい。

 したがって、KOMTRAXによって予防保守(壊れるまでに消耗品を交換するなどのメンテナンスを行うこと)によって、ダウンタイムを短くし、建機の稼働率が向上すれば、工事のコストを下げることができる。

 また、建機をレンタルする側からすれば、建機が配置されている場所や稼働状況を把握することによって建機配置の最適化や保守体制の最適化を図ることができ、結果的に保守サービスの向上と保守コストの削減を実現できる。
 さらに、遠隔ロックの機能によって盗難やレンタル料の未払いといった債権回収リスクを低減できる。
 おまけに、建機に中古市場が存在しており、適切なメンテナンスをしている建機は状態がよいので、下取り価格が高くなるというメリットもある。

 これを図示すると以下のようになる。

出典:筆者作成

 コマツにとっても、KOMTRAXのデータを分析することによって、建機の稼働状況や部品・モジュールの損耗状況が分かり、部品寿命、オーバーホール実施時期の予想精度が向上する。これによって建機やメンテナンス部品等のサプライチェーンを最適化することができる。
 また、世界中のコマツの建機の稼働状況から、地域別に土地開発、道路建設、鉱山などの資源開発の現状をリアルタイムに把握することができ、建機の需要を含む経済動向の予測が可能になり、建機の生産計画に反映させることもできる。
 まさしくデータ駆動である。

スマート・コンストラクション

 KOMTRAXは、建機に限定したIoT利用システムであるが、コマツはコンストラクション(建設)全体を対象としたDXを進めている。それが「スマートコンストラクション」である。
 スマート・コンストラクションの狙いは、建設現場のプロセス全体を3次元で「見える化」することによって、生産性を大幅に向上させることにある。具体的には以下のような技術が使われている。

  • ドローン測量と施工完成図面の3次元データ化

  • 土質や埋設物などの変動要因を考慮した施工計画の作成

  • ICT建機を使った施工

  • 作業データの蓄積・保管(他の現場での活用)

 ドローンを利用することによって、従来であれば人の手により何日もかかっていた高精度な測量を、わずか1日で完了でき、施工を始める前に、施工範囲の土量、形状を3次元で正確に把握可能になる。
 このデータを用いて正確な施工計画の作成が可能になり、施工中もリアルタイムで進捗管理ができる。また、施工も経験の浅いオペレータであっても数センチの精度で工事が可能になるだけでなく、ケースによっては無人運転の建機による工事も可能である。
 実際、チリやオーストラリアの鉱山では300tダンプやブルドーザーの無人運転が行われている。ダンプには高精度GPSと推測航法によってダンプ自身の位置を把握する仕組みが組み込まれており、中央管制室からの指示によって目標コースを目標速度で走行するように制御されている。

プレス加工メーカーの事例

 愛知県にあるウチダ製作所の事例を紹介しよう。(この事例は独立行政法人情報処理推進機構(IPA)の中小製造業のDX事例にも紹介されている)
 ウチダ製作所はアイシングループに自動車部品を供給する従業員数20名程度のプレス加工メーカーなのだが、取引のある複数の金型設計製作、プレス加工、金属部品加工メーカーの製造設備の稼働状況をIoTによって見える化している。つまり自社だけでなく、同業者とともに設備の稼働状況をリアルタイムで把握できるようにするとともに、自動車部品の3次元CADデータを金型メーカーと共有し、金属加工部品のサプライチェーンを構築している。
 具体的には、ウチダ製作所が金型を設計、部品の大きさや形状、必要とされる精度、設備の稼働状況などに応じて、得意なメーカーに分散発注するという仕組みを構築している。これによって、参加している企業の設備の稼働率が向上するだけでなく、納期の短縮、共同受注による売上増を達成しているという事例である。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?