日本と米国、「不動産テック企業」の決定的な違いとは
まず、そもそも「不動産テック」とは何か、という話しもあるのですが、そこを突っ込むと話しが全く別の方向に行ってしまうので、本日はそういう定義的な所は棚に上げておきたいと思います。
現在、日本で「不動産テック企業」と称される企業は、不動産会社にITサービスを提供して利益を得ているIT企業の事を指しています。いわゆる「不動産業務支援システム開発・サービス運営」や「物件検索サイト運営」や「コンバート業者」などですね。(この一覧でも不動産会社は一社も存在していません)
対して、米国でユニコーン企業と注目されてきた「不動産テック企業」は、一般を対象としたオンライン不動産会社、またはオンライン不動産取引プラットフォームであり、不動産業の新たな「カテゴリ」を作った、と称されます。
つまり、米国の「不動産テック企業」は不動産業者なのであります。
これが決定的な違い。
これ、普通に日本では知られていない事なんじゃないかと・・・誰も触れないし。そのせいで全然話しが噛み合わないことがあったりもします。
米国的な「不動産テック企業」とは、一般にスタートアップが不動産業をフィールドにITを使ってオンラインをベースにBtoC事業を行うのです。(もちろん、不動産業向けのシステムを開発するだけの企業も沢山あるけれど)
代表的なのは、2018年前後からソフトバンクがビジョン・ファンドを通じて大規模投資を仕掛けていたCompassやらOpendoorなどがそれです。当時、ソフトバンクはやたらと米国の不動産系スタートアップに投資していて話題になり、私としても横目で眺めていたのですが、節操がない感じで危うく感じてもいました。結局、WeWorkの件やカショジ事件など、色々あったのですが、それはさておき。
一例として、Opendoorを具体的に取り上げますが、Opendoorのビジネスモデルを説明する簡単な文章を一読しただけだと、「それ、実は単なる買取再販の不動産業じゃね?」と、思ってしまうぐらいであります・・・
なのですが、Opendoorが謳うビジネスモデルというかサービスというのは「住み替えを楽にする」という立ち位置で「売り手を起点」とした買い替えをサポートする切り口のオンライン不動産業プラットフォーム、みたいな感じ。その一環として、物件検索サイト的なものもやり、独自のアルゴリズムによる価格査定もやり、自ら買取もやり、エージェント紹介やマッチングもやり、アプリ自主開発も行い、ガジェットも使い、APIでサードパーティー製アプリのエコシステムも作り、などなど、もろもろ・・・という感じ。
日本で言う「不動産テック企業」とは根本的に異なります。(参照:「日本の『不動産テック』の耐えられない軽さ」、「日本の『不動産テック』が誇る最新技術とは?スクレイピングとCSV弄り?」)
米国では、日本の「不動産テック企業」のように既存のITガジェットやITサービスを単に不動産会社に売りつけるだけ、というものではなく、自らリスクを取ってITで新たな変革をもたらす不動産事業を展開している、と言えます。
物件検索サイト的な位置づけ(正式にはmarketplaceつまり「不動産のオンライン市場」)のZillowでさえ、あれ、収益モデルは物件広告費というよりか、不動産エージェント紹介という形で登録エージェントから紹介料(referral fee)を取ってたり。他にも家賃の集金代行(つまり収納代行)サービスとかまでしてるし。しかも不動産買取も始めたりして、不動産業者化もしました。Redfinも不動産業者。
こういうオンラインプラットフォームの不動産業の一番難しいのは、既存の不動産業者やエージェント達との摩擦が起きかねない事ですが、多少の摩擦はありながらも、ビジネスモデルに取り込んで、既存の不動産エージェントも参加しやすくして上手く巻き込んで、取引のプロセスに加われるよう、積極的に提携したりエージェント向けサービスも展開している所がさすがです。
これが、先に「オンライン不動産取引プラットフォーム」と書いた理由です。自らが囲い込んで全部やるのではなく、「プラットフォーム」として、「場(土俵)を提供」する事で市場を広げていく、みたいな感じですかね。
「プラットフォーム」や「エコシステム」という概念はインターネットを生業に長くやっている人であれば分かるでしょうが、どうも日本の企業経営者をみてると、そういう概念をまるで分かっていないような気がします。近視眼的な視点で、閉じたサービスに終始して、結局のところ、失敗するか、良くてもそこそこのシェアで終わってしまう。
日本では「標準化」して、業界そのものを発展させて広げていく、というような発想も無いようです。
そもそも、日本の場合、不動産業に限らず、IT企業はITの事、他の企業はその業界、と切り分けられてしまっていて、その弊害が噴出しています。(参照:「DXは脱『ITゼネコン』から始めよう」)
昨今、DXなんていう言葉が盛んに言われていますが、不動産業に限らず、全ての業種において、IT企業と他企業という区別をなくし、全ての企業がIT企業化するというDXを図ると、日本ももう少し面白くなるのではないでしょうか。(というか、それが本来のDXの意味か)
まぁ、難しいでしょうが。
余談1:
日本では、近年、不動産テック企業(つまりは異業種、日本では)を中心に、レインズのデータを利用させろ、という声が大きくなっています。
「MLSは一般公開している(オープン)だ」というのはデマです。
(追記:「巷の、「レインズの『オープン化』論」の論点を整理してみる」 で詳しく書きました)
また、先日取り上げた日経の記事でも、その日本の不動産テック企業の主張に乗っかって「MLSも多くは業界団体系列で、かつては外部とのデータ連携を制限していた。統括団体が05年、米司法省から独占禁止法違反の疑いで提訴されて和解した経緯がある」云々、と米国と比較して主張するのですが・・・。
実はそれ間違いで、「外部(異業種)とのデータ連携を制限していた」でなく、正しくは、「新しく導入しようとしたポリシー「Internet Listing Display (ILD) 」で同業の不動産業者への情報提供をしない(オプトアウト)オプションを提供するポリシーが問題になった」、です。
(MLSは物件情報を外に流して自社サイトなど「外部」で物件検索できるようにする仕組みはRETSとかVOWで元々ありましたし)
米国の司法省のサイトから直接参照して引用すると、"traditional brokers"が、"discriminate against innovative brokers"ということですから、「伝統的な不動産会社が(オンラインベースの)革新的な不動産会社への情報共有を阻害できるようにしているNARの規定が健全なる競争を妨げている」というのが司法省側の主張の趣旨です。
当時の日本語の記事でも、「(和解によって)従来型の不動産仲介業者はインターネット・ベースの仲介業者との情報共有を拒否できなくなくなる」とありますね。
不動産業者同士の話しですから。
余談2:
因みに、米国の不動産テックのビジネスモデルをそのまま日本でも流用(真似)出来るか、というと、基本的な事柄が違い過ぎて、とてもではないけれどもそのまま輸入出来ません。
例えば、米国では基本、不動産エージェントと言って、個人レベルで営業をやる人も多い(子育て中のママさんがフリーランスっぽく自由な時間にやっちゃうみたいな)のでエージェントのマッチング的なのが成立したりしますが、日本では異なりますし。
米国の賃貸ではそもそも個人間・当事者間でやっちゃうことが多い(ほとんど?)ですし。
あと、そもそも日本では「不動産(建物)を買った時が最高値で、以降値下がりし続けて数十年もすれば上物の価値はゼロ円」という国柄なので、不動産を買う事=投資、という欧米諸外国とはまた根本的に事情が異なります。そういうのやめようって話し(中古市場活性化云々)は出てはいるけど実際は・・・
と、こう言われてしまうわけです、
日本の家ってのは、それこそぶっ壊して建て直した方がマシ、って家がほとんど(特に昭和・平成築の物件はほぼ全て)なので。(日本の住宅環境は欧米と比べると・・・泣)
さらには不動産の仲介手数料規定がクソすぎるので、新築と比べて中古の方が面倒なのにも関わらず価格が低いから手数料も安くて不動産屋もやる気が起きないとか。
という訳で、色々あって、日本においては不動産の中古市場における取引はそもそも活性化しにくいという問題があります。
また、続きで指摘されているように、今後のさらなる人口減少という問題もあり・・・。不動産業としては生き残っていくだけでも大変(凄い事)かもしれません。
逆に言うと、今の内に何とかしておかないと、そのうちに大企業の看板だけで集客できる所だけが生き残り、寡占化によるさらなるサービス低下、みたいな話しになりかねないのがイヤですね。
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