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不動産業における「デジタル化」とは何か

IT化=情報技術の活用、これはもうかれこれ数十年ほど前から言われていることですね。一般的には「パソコンやインターネットなどを活用していくこと」、みたいなイメージ。

一方、最近では、「デジタル化」という言葉が広く使われるようになっています。

不動産に関する情報には、国の法務局が管理する登記簿や自治体の都市計画、それに不動産各社の物件情報などがありますが、同じ住所でも建物名や地番の表記が違うケースも多く、取り引きの際に確認に手間がかかり、デジタル化の妨げにもなっていると指摘されています。

NHKニュース:「不動産ID」導入へ 国交省が検討会 今年度中にガイドライン

保守的(良い意味で)なNHKですら、「デジタル化」という言葉を使っていますね。

因みに、「DX」というまた別の概念を指す言葉もあり、「DX」などという言い方をしばしば見掛けますが、意味を分かっていないよね感が凄いので止めて頂きたいな、とw。「トランスフォーメーション化」つまり「変化化」、みたいな表現からして変です。

本来というか従来の「デジタル化」とは、紙やアナログテープなどの情報を「電子化」というかデジタル情報に変換することを言っていました。というか基本はそれを指します。

しかし、NHKの記事を読めば分かるように、そういう意味では使っていません。

言葉というのはある意味「生き物」ですし、意味も変化していきます。専門用語という訳でもありませんし、「デジタル化」の「公的」な定義も存在しません。大多数の皆がどういう風に使っているのか、という文脈から推察する他ありません。

では、現在広まっている「デジタル化」とは、どのような意味を指していっているのでしょうか。

結論から言うと、この「デジタル化」とは、18世紀にイギリスで起きた産業革命における「機械化」に相当する事を言っているのだと思われます。

「機械化」によってもたらされたのが「オートメーション」つまりは自動的に色々と出来るようにすることです(結果として大量生産が可能になりました)。逆に言えば「オートメーション」の前提は「機械化」であったわけです。なので「機械化」すれば便利になるよね、というのは言外に含まれているわけです。

昨今の「デジタル化」というのは、「機械化」で起きたように、世の中「デジタル化」されると色々と自動的に出来るようになって手間もかからず便利になるよね、という事を想定・前提にしてひっくるめて言っている、と。

因みに、「オートメーション」とかいうと、「自分の仕事が奪われる」、みたいに、メディアの無知な報道に煽られて、現代版ラッダイトみたいな人達が登場してきたりしますが、それは勘違いというもので、「自分の仕事が楽になる」、ということです。

特に不動産業なんて生活の基本であって消費者保護の為に存在しているいわゆる規制産業なのですから、重要さは増せど仕事が無くなるなんてことはありません。

不動産業で言えば、物件情報を入力する際に、ボタンひとつで法務局の登記簿データからAPI使ってデータを引っ張ってきて自動で基本情報が入力補完されたら便利で楽でしょう?

でも現状では無理です。登記簿データが印刷用PDFでしか取れないから。しかもAPIも提供されていないですから。

こういうのは、ほんの一例に過ぎません。

色々と自動的に出来るようになって便利になる=デジタル化」の社会を実現する為には、以下のステップが必要になります。

1.情報をデジタルのデータにする
2.データを標準化する(IDだけでなくその他諸々を含めたデータ標準化)
3.データをオンライン化またはAPIなどで繋ぐ
4.それらのデータを利用してオートメーション

単に「情報をデジタルにしています」、というだけのレベルだと、それぞれが独自固有のデータベース、印刷向けのPDF、表示用のHTML、表計算のエクセル、・・・等々、皆がてんでんばらばらのデータ形式で、互換性が無いので相互運用性も無い、ということです。

いわゆる「データ連携」もできない状態。日本の行政のやっていることなんてこれの典型です。(まぁデジタル庁も出来てなんとかすると言っていますがどうなることやら)

不動産業で言えば、物件情報は各社それぞれ不動産業務ソフト・システムなどで独自固有のデータベース形式でデジタルに管理されているわけです。レインズも独自固有のデータベースです。しかし、それぞれのデータ形式も定義づけにも互換性はありませんから、相互運用性も無いということです。

結果、不便なまま。せっかくのデジタルデータも利活用が進みません。

まず、相互運用性を確保するために、皆の「共通言語」となるデータの仕様を、使う皆で決めることが必要なのです。これを「標準化」と言います

標準化して初めて、お互いにデータをやり取りする際の相互運用性が確保されるのです。でないと、一々相手先に合わせて使う「言語(データ形式と定義)」を確認してそれに合わせて「言語」を学習していちいち使い分けなければいけないという大変不便な状況になってしまうからです。

そうしてやっと、各々のシステムがAPIなどを実装して、異なるシステムと繋いでデータを引っ張ってきてデータを有効活用(オートメーション等)が出来るようになります。

という訳で、「不動産情報のデータ標準化が必要だ」と前々(2002年)から提案しているわけでございます。(参照>「不動産情報デジタル標準化の覚書」)

日本では、いまだ2022年にもなって、この「ステップ1」の所でモタモタやっているというところ。共通の「不動産ID」を振ることが出来るようになったとしても、相互運用性が無いことに変わりありません。

以前から、自分と同じようなことを提言をしている人はいないかと、色々と探してみたりするのですが、日本では他にただ一人「不動産情報の標準化」(PDF)を書いている人がいます。ペンシルバニア大学出身の東京大学の教授である浅見泰司さんです。

例の国交省における2008年の「不動産ID・EDI研究会」で座長をやった人ですね。ただ、残念なことに、専門が都市住宅論、空間情報解析という事もあり、空間地理・位置情報を主眼にしていたり、「EDI(Electronic Data Interchange)」というこれまたインターネット以前の技術の話しをしていたり、米国の事例がすっかり飛んでいるとか、ちょっと視点がずれていたり諸々の情報が古いまま、となっています。(詳しくは「不動産情報デジタル標準化の覚書」の中で触れています。あと米国の事例についての概略は、2017年の日米不動産協力機構(JARECO)の和田ますみさんのリポートが間違いもなく詳しく分かりやすいのですが、残念ながら筆者の方は移籍しちゃってます)

日本では他にはまったく誰もいないのですから、酷い話しです。


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