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形態、線、色彩の連続と連動が制作を持続させ、芸術を生み出すフィールドを作り出す(ジャクソン・ポロック《コンポジション》)

写真は、ジャクソン・ポロック 《コンポジション》 
1939-41年頃

この作品は、抽象表現主義以前の作品である。ポロック最良の作品とは、比べるべくもないが、同時代の他の作家の作品に比較すれば数段高い質を持っている。

画面は、上中下3つの領域に分かれているが、具象的な形態がつなぎ合わせるように描かれ、分割をあまり感じさせない。上部の黒い領域は広く不安定になりかけるが、下部の黒の帯をやや強く描くことでバランスを回復させている。画面が安定することで、逆に心理的な不安を観者に与える効果がある。この心理的な不安感は、この作品の魅力でもあり弱さでもある。とは言え、視覚的な安定によって心理的効果が強化される点は表現内容の客観性を失っていない証拠である。弛緩したイラストレーションとしての絵画とは大きく異なっている。

さらに、うねるような形態の動きに加え、明るいが彩度の低い緑に、彩度の高い赤と朱を少量で対照させることで、画面に有機的な動きと融合を与えている。青がかった黒と、赤がかった黒を線に近い形態で使い分け、少ない赤と青を大きな面積のグレーがかった緑に融合させつつ、個々の色彩を強調させている。

絵具はかなり厚く塗られているが、視覚的には厚みを感じさせない。色彩による連動性が物理性を超えて、構造を生み出しつつあるからである。厚塗りの結果である表面の凹凸が、色彩の動きに連動して視覚的な質を持つのは、その構造のためであり、意図された効果ではない。

構造を生み出しているのは、明暗による構成と色彩の強さである。ただし、重要なのは、構造自体ではなく、構造の形成をもたらすために、制作を持続できるフィールドである。この作品の場合、楕円をつなげるような形態と動きの連続性から創出される。
この作品では、ポロックは色彩を厳密に調整しているが、それは、この時点では、構造を探るために、つまり芸術の生成を模索するには必要なことだった。後に成熟した作品を描くが、構造が強化され、色彩の厳密な調整を必要としなくなった。

この作品の欠点は、向かって右、サインの上あたりにやや描写的な明るさがあり、色彩が希薄となっている点である(サインでやや補なわれている)。後に、ポロックはそういった明暗法による色彩の用法を変換し、(ただし色彩は抑制されることが多くなるが)光自体を発するような画面を作る。それは、この作品の画面の強さと共に、暗いが色彩の自然な質に予見されている。この作品に観られる通り、形態、線、色彩の連続と連動によって制作が持続され、構造化していく色彩の秩序が見い出されつつある。それは、制作によってしか、芸術が生み出されない事実を語っているようでもある。



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