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映画『わたしに会うまでの1600キロ』の感想

原作者の実体験に基づく、一人の女性=シェリルが全長1600kmに及ぶ”道”を90日かけて踏破するアメリカ版お遍路ロードムービー。最愛の母を亡くした失望感から、薬物や異性とのみさかいのない交友を続ける彼女は、ついに夫との別れを迫られる。これまでの行いを清算し、新しい人生を歩むため、衝動的で無謀ともいえる”超長距離ハイキング”に出る。彼女が出発の日に荷物を詰め終わり、さあいくぞ!というときに荷物が重すぎて持ち上がらない。彼女は荷物を背負いながら四つん這いになり、片膝をなんとか持ち上げ、渾身の力を込めてもう片足を大地に踏みしめようやく立ち上がることができた。自身にとって前代未聞の旅に出るのだから、あれもこれも必要だと考えるのはもっともだ(後に出会う山小屋の主人から不用品の選別を指示され、素直に従う)。まず彼女はガソリンスタンドでヒッチハイクをする。その際、彼女は少し遠めから客を観察している。女性なら特に、一人でヒッチハイクするとき、防衛本能が働く。より安全性の高い人物を見極めることが自分の身を守ることになるから。彼女はある親子に目を付けヒッチハイクの了承を得てハイキングのスタート地点にたどり着く。その車中で流れたラジオからの音楽に亡き母の思い出がよみがえる。歩き始めた彼女はチェックポイントでフリーノートとペンをみつけ、そこに今の想いをつづり、サインをして元に戻す。これは旅人が旅の道中、不安や勇気を必要とするときの心強い支えになる。後にこのノートを見た後続の旅人から「シェリルですか?」と声をかけられ温かい交流のきっかけにもなる。最初の宿泊ポイントでテントを設置するとき、テントの骨組みに苦労する。説明書はあれど、屋外で疲労もある中で文字を読むのは楽ではない。おまけに広大な自然の中にあるので強風もふきつき思うように進まずいらだちを声にする。ようやくテントが出来上がり食事の準備。持参したコンロに火をつけようとするも火がつかない。説明書に目を通すと自分が持っていない燃料が必要であることを知りまたいらだちをあらわにする。結局、あたたかい食事にはありつけず、水でつくったおかゆとナッツで翌日以降もしばらく食いつないでいく。途中途中に山小屋があり、そこには荷物の受け取りと日用品の買い物ができる。実はシェリルはこの旅に出ることを前もって分かれた夫に伝えていた。旅の成功を祈り、彼は先々の山小屋に物資とささやかな手紙を送ってくれていた。手紙には結婚生活のこと、わかれた今の心境がつづられており、それが今のシェリルに響く。旅が進むにつれ水と食料がつき、辺りも暗くなってきたとき、1台の車を見つける。わらにもすがる想いで声をかけ、「食事のできるところまで連れて行ってほしい!」と懇願する。60代」くらいの男性は怪訝そうな表情で「仕事中だ。今は店は閉まっている」と伝えると「朝まで待つ」と負けずに答える。熱意に負けた男性は仕事が終わるまでトラックで待つように伝える。空がまっくらになったころに男性が車に戻ってきて開口一番「よく考えたんだが、うちで食べていったほうがいい。シャワーもあるし。」と伝える。いかがだろう、人里離れた大自然の中に女性が一人。男性から「うちに来い。シャワーもある。」と言われたらまたもや防衛本能が働かないだろうか。懸命な彼女は身の危険を感じながらも選択肢のない立場から快諾。男性の自宅に到着するとそこには奥さんがいて(安心した!)食事を提供し、シャワーと寝どこも用意してくれた。ちなみに食事の会話中にシェリルは「旦那が少し先で待っている」とうそをつき、男性を警戒した。(そんなうそも男性にはお見通しだった。)翌朝彼女を車で送っていったときには旅の安全を願い、この男性が優しい人物であったとこが証明された。旅は続き、ある街で出会ったクラブで働くという男性から「今夜ある歌手の追悼式があるんだ、よかったら来ないか?」と誘われ、孤独が長った分、久しぶりの交友に気持ちが高揚するシェリル。参加したそのまま彼の家で一夜を過ごし心のスキマを埋める。翌朝、旅を再開し森の中を進むシェリルは子どもと祖母がハイキングしているところで出会う。「ハイキングは楽しい?」ときさくに聞くシェリルに対し「週末に歩くんだ。ありがとう、聞いてくれて。」と大人びた、どこか可愛げのない発言をしシェリルを驚かせる。続けて両親がいないこと、母親が歌をよくうたってくれたことを話しアカペラで歌いだす。シェリルは少年のその歌を聞き届け別れを告げた直後に涙を流す。これまで孤独に自分と戦ってきた道のりに突如として母親の姿が思い浮かべ、幼少期から亡くなる直前の記憶がフラッシュバックする。けれどもシェリルは立ち上がり、ゴール地点の「神の橋(Bridge of Gods)へたどり着く。ここで彼女の旅は終わるが、その後シェリルは結婚し、こどもに恵まれたという解説があり、シェリルがこの旅をつうじて新たな一歩を踏み出したことが伝わってくる。エンドロールには原作者シェリルの当時の写真が映し出され、この映画は実際の人物の、実際に起こったことなんだと強く実感させられる。シェリルという繊細な一人の女性が人生の様々な出来事と向き合い、たくましく成長していく姿を描いた勇気を与えてもらえる作品です。

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