ひとかどの人間になれたら
『ちはやふる』に出てくる周防名人という人物は、幼少のころから彼を世話していた兼子という伯母に云われた言葉をずっと憶えていた。
なんでもいいけん ひとかどの 人間になんなさい
家系図から、血縁から離れ、恐らく自らの病で自立もままならず、気兼ねなくいられるひとときを普段の生活の中で持ちづらい“持たざる者”だった兼子がどうしても欲しかった平穏な居場所は、彼女からすればひとかどの人間になれたら手に入ったはずのものだったのだろう。
そんな兼子のことを、周防はずっと憶えていた。東京