見出し画像

バラバラの残骸から組み上げたラビットと旅して10000km。

2023年3月3日。
異なるモデル・グレードからなる4台のラビットS301のパーツが混ざり合ったサビサビバラバラの残骸が、S301A(初期型)のフレームを核にS301BH4(最終型)のメカニズムを纏い愛娘・サンマル子として蘇り、下道ツーリングを始めました。

Before
本当にバラバラとしか表現のしようがない状態だった。
おまけに異なるモデルが混ざっているので、パーツ流用可否も互換性もわからなかった
After
外装は相変わらずボロいが、この侘び寂びっぷりを褒めてもらえる事が多くそのまま。
今日も元気にポンポン走り回っている。

それから1年ちょい。遂に復活後の走行距離が10000kmを突破しました。
今や当たり前のように阿蘇・九重・由布院の険しい山並みを走り回り、笑いと癒し溢れる愉快な旅を満喫しまくっているサンマル子ですが…
やはり当たり前のようにちょいちょい壊れてます。
 
当記事では、そんなサンマル子がツーリング中に壊れた全件」を紹介しつつ、ラビットS301をツーリングバイクとして用いるために施した改良点についても触れていきます。


サンマル子のツーリング中全故障事例

※記事執筆時点までに発生した故障です※
1960年代のスクーターであるラビットでツーリングをしていれば壊れないわけもなく、筆者の旅は常に故障への対処と克服の繰り返しです。
それでも旅を続けられるのは、起こった故障について原因究明と対策を行い「壊れれば壊れる程、壊れる箇所が減っていく」という禅問答のようなサイクルを作り上げ、サンマル子の信頼性が壊れる度に増しているからです。
 
本項では、実際に旅で起こった全ての故障と対策について振り返ります。

01:軽い抱きつき(?)

ラビットでの初ツーリング、全てが手探りだった

サンマル子の「ツーリング初トラブル」は、初ツーリングの行きの道中、大分県・九重の急坂を下っている際に起こりました。
カッ!という鋭い音と振動と共にエンジンが一瞬停止して後輪もロック…したのですが、その後は普通にエンジン再起動を果たし、特に異音や不審な振動の類が発生する事もなく旅を続ける事ができました。
 
帰宅後にシリンダー内壁のダメージをチェックしても極僅かな傷しか増えておらず、この時はシリンダー内壁を軽く研磨するだけで処置を完了。一過性のトラブル(抱き付き)として処理しました。
ところがこれは、後の大きなトラブルの予兆だったのです。

02:スロットルワイヤー破損

S301Bのスロットルワイヤーは結構急な角度で曲げる上に、
その箇所がエンジンからの排熱に晒されるという悪条件。

初ツーリングの帰りは帰りで、結構ボロかったスロットルワイヤーの外側がポッキリ折れ、スロットル操作が非常に重くなってしまいました。
 
しかし、このトラブルのお陰で「スロットル開度を抑えつつエンジン回転数を上げてトルコンATを効率的に駆動させ、燃費を抑えながら長距離巡航する」ラビット・スーパーフローならではのスロットルワークを体得する事ができました。
当然ワイヤーは即交換しましたが、怪我の功名でもありました。

03:ウインカーリレー故障

S301のウインカーリレーには複数の種類があり、内部構造もちょっと異なる

初ツーリングの帰途、いきなりウインカーが点灯しっぱなしになってしまいました。
 
これは明らかにリレー起因なので、リレーを分解し内部をお掃除したり磨いたり微調整したりして修理成功。
代替品を付けるという手もありますが、今回は純正品修理でいきました。

04:ウインカースイッチ配線不具合

配線や接点が傷んでる時は新造!

同じく初ツーリング時、当初からウインカーの応答性がたまに今ひとつな時がありました。これは公道走行時の安全性において大問題。
(道中、不具合発生時は手信号を併用し対処しました)
 
帰って確認してみると、ウインカースイッチ(接点部を全て作り替えたのでスイッチ自体の接触不良が起こる可能性は低い)から伸びた純正配線がハンドルやカバーと接触している箇所において摩耗し、軽い断線が発生していました。
配線ごと新造してしまう事で解決しました。

05:キックギア異音

元々固着していたキックギアとベアリング

サンマル子のキックギア及びベアリングは酷く錆び固着しており、錆と固着を取って機能を回復した後も軸側部分を含めかなりのガタがあり…しばらくしてガタのせいでかなりうっとうしい異音が発生しました。
 
「軸側」である強制空冷ファンごと丸々交換してしまえば良いのですが、そもそもキックは緊急時以外使わないので…普段はキックギアを外したままとし、緊急時のみ工具袋から出して装着・キックする、という運用に改める事で問題自体が消滅しました。

06:軽い吹け上がり不良

この時は「カブりかな?」程度にしか考えていなかった

遂にラビットで南阿蘇お泊まりツーリングを実現!と上機嫌だった日の夕方、それまで以上に長距離を連続走行したせいか、エンジンの吹けがほんの僅かばかり悪くなりました。
 
起こった症状からキャブレター起因と判断、ジェッティング調整とフロートバルブ清掃で普通に走るようにはなったのですが…原因は別にありました。
(この時は単純にクールダウンして走れるようになっただけでした)

07:クランク変形、各部圧縮抜け

サンマル子初レスキュー。
覚悟はしていたが、それでもなるべく現地修理しようと必死に足掻いた

エンジンの吹けが一時的に悪くなった翌日、南阿蘇からの帰途。
道中、エンジンは元気を取り戻していたのですが…
カッ!という抱き付きのような音と振動、一瞬だけタイヤロック。
 
正直「また抱き付きか…」と思いましたが、エンジンはそれっきり掛かりませんでした。現地修理での対応もできず、初のレスキューを受ける事になりました。

悪戦苦闘して試行錯誤して勉強して5ヶ月!

その後原因究明と修理に臨みましたがなかなか決定的な原因を特定できず、頭を抱える日々が約5ヶ月間続きました。原因特定を怠って安直にエンジンを載せ替えるだけでは再発の恐れがありますので…
 
で、原因は「クランクの変形摩耗によるピストンの異常挙動・圧縮抜け」でした。過去のオーナーさんがエンジン分解を試みた際にクランク末端部を叩いた痕跡があり、クランクが歪んでいたのです。その歪みが走行を重ねる内に酷くなり、遂に起動不良に至った…という訳です。
また、以前起こった「軽い抱き付き」は単純な抱き付きではなく、クランクが歪んでいたせいで暴れて起こったトラブルだったのです。
クランク脱着時は、当たり前ですが絶対に叩いてはいけません。
 
かくして原因が判明したので、低走行でクランクのガタが少なくシリンダー&ピストンのダメージも少ない別のエンジンとパーツを組合わせた新たなエンジンを組み立て、サンマル子は再起動を果たしました。

08:キャブレター固定ボルト破損

小トラブルの類だが、山間部で起こったら「詰み」だった

キャブレターをエンジン側マニホールドに固定するバンドのボルトが、ツーリングの道中におけるキャブレター調整時いきなりねじ切れてしまいました。
バカ締めしていた訳でもないのに…
 
幸い近くにホームセンターがあったので代用ボルト・ナットを購入して事なきを得た(その上、更に幸運な事にツーリング仲間の方と偶然ご一緒していたのでホムセンへの移動をお手伝いして頂けた!)のですが、もし山中でこれが起こっていたら…吸気漏れを抑える手段がなくなるのでレスキュー案件になったでしょう。
旧車あるあるなトラブルですが、油断は禁物です。
頻繁に脱着する重要箇所のネジの劣化や金属疲労には注意しましょう。

09:アイドリング・低回転不安定

故障に含めていいのか微妙だけど一応。

新エンジンを得て元気を取り戻したサンマル子でしたが、正月ツーリングの帰り位からアイドリングや低回転が不安定になり、暖気や信号待ち時のアイドリングでもエンジンが止まらないよう気を使う必要が出てしまいました。
 
これはポイントギャップが狭くなっていたのが原因で、筆者が進角を弄って点火タイミングを変更し、それに伴うエンジン特性の変化を調べていた際にうっかりポイントギャップを狂わせていたようです。つまりヒューマンエラー。
ポイントギャップ調整であっさり直りました。

10:マフラー急速崩壊

見てくれはそうでもないが中はボロボロ。
規則正しく空いてる穴は、内部構造を溶接固定している箇所がまるっと崩壊した証だ

サンマル子に付いてきたマフラーは元々内部がボロボロで消音能力も大きく損なわれており、小穴もあちこちに開いていたので…洗浄補修しながら使っていました。
 
しかし、エンジンが変わってパワーも排気圧も気持ち増したせいか崩壊が急速に進み、遂に脱落寸前にまで。
外板が既に錆で薄くなってしまっておりこれ以上の補修は不可能と判断、良品の別マフラーに交換して対処しました。

11:ピストンリング破損

二度目のレスキュー。

エンジンもマフラーも変わってご機嫌!
とウキウキしていた矢先、今度はピストンリングがいきなり折れて走行不能になってしまい、またしてもレスキュー案件となりました。
 
…が、いつもの旧車屋さんで入手したジャンクピストンから取り出した中古リングをその日の夕方に仮装着、幸いにしてピストンやシリンダーへのダメージはなきに等しかったので即日復活。代替品の新品ピストンリングへの交換を行うべくリング到着を待ちつつ、そのまま走ってました。

伊藤自動車販売のSTDピストンリング(代替品・新品)。
ちゃんと装着してちゃんと慣らせばバッチリだ!

そして数日後、待望の新品リングが到着したので即換装!
しっかり慣らしたお陰で、サンマル子はかつてないパワーと快音、そして調子の良さを得るに至りました。

ついでに排気ガスケットにも手を。

排圧上昇に対応すべく、それまで微妙に排気漏れを起こしていた純正マフラーガスケットに手製ガスケットを追加し、排気漏れを抑える事にも成功。
 
その後のサンマル子は至って元気そのものですが、
どうせまた、どこか壊れるでしょう。
 

そしたらまた修理改良して、よりタフなサンマル子にしていくのみです。
 

ツーリング仕様にするための改良点

元々、非常にタフな実用バイクだった

サンマル子…もといラビットS301は1950年代末に設計開発され、最終改良型であるB4型であっても1960年代半ばの製品です。
 
即ち、実に60年前のバイクなので…
 
いくら当時はタフな実用車だったといっても60年前の話です。当時の仕様そのままでガンガン乗るとバイクにもライダーにも要らぬ負担を掛けかねませんし、トラブルが発生する可能性も高まります。
そこで、これからも末長く乗り続ける前提のサンマル子には必要に応じた改良を施し、ツーリング等における信頼性や安全性を高めています。
 
本項では、その内の代表的ないくつかを紹介します。

01:改良型燃料コック

サンマルの燃料タンク。実は曲者

ラビットS301をツーリングに使うにあたっての仕様上の最大のネックは間違いなく「燃料系統の仕様」です。
 
というのも、燃料タンクは純正の内壁コーティングが経年劣化で剥がれて微小なゴミとなりやすく、燃料経路上にフィルターがない(もしくは充分に機能していない)場合はしばしばキャブレター内に侵入し、ラビットS301の風物詩的なトラブルといえるオーバーフローの原因となります。
 
更にタンクキャップのエア抜きの小穴も詰まりやすく、ここが詰まるとタンク内に空気が充分吸い込まれず、燃料の落ちが悪くなります。
 
まだまだあります…
燃料系路の途中にはタンク後ろ下から伸びるエア抜き用のジョイントがあるのですが、困った事にここも個体の程度によっては詰まっています。
 
これらタンク回りの問題は清掃等で解決しますが、
実はこれだけではありません。

純正燃料コック。これもまた曲者。

純正燃料コックの仕様もまた問題となります。
パッキンの材質がコルク製なのは今更さておき、構造上燃料を通す穴の径が小さい上に「きっちりコックON位置に合わせる」位置合わせがそこそこシビアなので、燃料供給量が不足気味になってしまう場合が多いのです。
特に、中高回転を多用する連続走行を行うと燃料供給が追いつかず「息切れ」のような症状を起こしてしまいがちなので…長距離連続走行を常態的に行うツーリングにおいては看過できない問題となります。
 
あと、リザーブの吸入口が低く、タンクの底まで燃料を吸い尽くす仕様になっています。最後まで燃料を使い尽くせるのはいいのですが、そのかわりタンク底部に沈殿したゴミや錆まで残さず吸ってしまいますので、これまたキャブレターのオーバーフローや詰まりを招きやすい仕様だといえます。
増してや、タンク容量が少なく航続距離も短いラビットでのツーリングにおいてはリザーブを使う頻度が高く、このリザーブ問題も厄介です。
 
ここまで書くと「燃料ホースの途中にフィルター付けたら大丈夫じゃないの?」と思う方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、ただでさえ燃料供給量が不足気味な燃料系統に独立したフィルターを噛ませた場合、フィルターの選択や位置を誤ると更なる燃料供給不足に陥る危険性をも孕んでいます。
やるのであれば、タンクやコックはしっかりと清掃なり対策なりしておきましょう。

伊藤自動車製・改良型燃料コック

なお、上記の純正コックの問題は、伊藤自動車製の改良型燃料コックに換装する事で解決しました。
 
この改良型コックは既製品をベースに伊藤自動車にて一品一品ハンドメイドで加工製作されており、純正コックから以下の点において改良されています。
〜〜〜〜〜
①燃料供給量の大幅増大
②ゴム製パッキンとクリック付きノブによる確実な切替・開閉
③タンク内部分に金網製フィルターを装着
④リザーブ吸入口を少し高くし、沈んだゴミや錆の吸入を抑止

〜〜〜〜〜
特に②の恩恵は大きく、カチッ!としっかりしたクリックが付いた事で燃料コック操作を迅速確実にやれるようになり、コルク製シールに起因した燃料漏れの恐怖からも解放されます。

02:リアブレーキスイッチ

既に破損していたリアブレーキスイッチ

続いて、何故かリアブレーキペダルのペダル側にへばりついており、地面に近いため劣化や接触不良・破損が起こりやすいリアブレーキスイッチも問題点だといえます。
このパーツの破損率は高く、使用可能品はオークション等でも取り合いになる事が多いようです。

サンマル子のこの部分にはYB-1が住んでいる。

対策としては、配線を後ろまで長く伸ばしてエンジンユニット後端のリアブレーキ駆動部にカブのリアブレーキスイッチを後付けし、引っ張って動作させる方法等がありますが…
 
筆者は左側フロア下にYB-1のリアブレーキスイッチを搭載し、後付けしたスイッチが外からは見えないように工夫してみました。この方が配線を伸ばす距離も短くて済み、何よりヤマハ派の筆者としてもほっこりします。

03:LEDヘッドライト

ツーリングにおいて、ヘッドライトの照射能力は死活問題ですらある

サンマル子の純正ヘッドライトは古式ゆかしきシールド電球なので、切れても電球のみの交換はできず、レンズごと丸々交換する事になります。
そして、乗り始めてしばらくしたらシールド電球が切れてしまいました。
 
で、これはこれで良い機会!と、シールド電球の後端を加工してLED球を光軸に注意しながらセットし、ヘッドライトをLED化しています。
 
純正シールド電球だと夜は暗く、山間部の夜道だと晴れていても若干の不安を覚えました…が、流石にLEDだと夜でも濃霧でも余裕の明るさ!
視認性はもちろん被視認性も大幅に上がりますので、事故率も下がります。
 
LEDの白色光は暖かみに欠けますが、命と安全には換えられません。
 

あとがき

やっと10000km。旅はまだ始まったばかり

サンマル子が蘇り「ラビット旅」を始めたのは昨年3月ですが、壊れてドック入りしていた期間がありましたので、実質約8ヶ月程度で10000kmを走った計算になります。
期間としては1年と1ヶ月半です。
 
サンマル子の旅はまだまだ序章。
更なる旅と冒険が待っています。

 
どこまで・いつまで行けるかは正直全くわかりませんが…
引き続き、ラビットと一緒にのんびり末長く旅を楽しんでいこうと思います。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?