見出し画像

運針 角の葛藤。

少し大袈裟なタイトルですね。

運針とは、主に和裁(洋裁)における最も基本となる針の運び方のことを意味します。

ミシン縫いにおいても運針数というものがあり、縫製工場などでは、アイテムや縫製部位により細かな取り決め(規格)が存在します。
例えば3センチの間に運針(縫い目の数)が12など。
この場合はミシン目一つが2.5mmになります。

私は縫製も自身で行なっているので、特にこの様な取り決めはなく、デザインや素材の特性に合わせて感覚に任せて対応しています。
同じ革を用いた同じデザインのバッグでも、裁断する革の部位によって質感や厚みが異なってくるので、工場規格のような縫製をすると、中には想像とは違う仕上がりになる物が出てくるかもしれません。

さて、タイトルにある[角の葛藤]についてですが、角がある物を縫う時にどちらを選択するかで迷う状態が頻繁に訪れます。

この正方形は時計回りの縫製になります。

「角から一目手前の針目に注目してください。」

四隅のうち下二つの角は合格の縫製、上二つの角は不合格の縫製です。

上二つの角の頂点一つ手前の針目は、幅が少し大きいのがお分かり頂けると思います。
意識しなければ気にならない程度のことですが、少し間延びしている様に感じませんか。

外から見えない部分の縫製では、強度重視で容易に無視できる範囲のズレですが、表から見えるステッチとなると、この部分を意識しない訳にはいかないのです。(多分私は息を止めて縫ってます。)

素材の性質や縫製箇所にもよりますが、この状態の場合は、可能であれば最後の一針を二分割出来れば理想です。
それが難しければ、角の数針前から帳尻合わせが必要になります。
不思議と針目が細かくなる分には違和感が生じません。

気持ちや時間に余裕がないと、この一針を一跨ぎで処理したくなってしまう心の弱さを補うために、私は予め角の手前2、3目を目打ちでマーキングし縫製するようにしています。
•制作中アップテンポの音楽は厳禁。
•国会中継もストレスが溜まるのでNG。

これはバッグ、小物制作の中のほんの一例ですが、葛藤する場面では、常に良い方を選択出来る作り手でありたいです。

余談ですが、私が愛用しているミシンは昭和の骨董級の古い物で、モーターは付いていますが縫製工程で8割は電源OFF。手回しで縫製しています。
さらに、絶対に縫製をミスしたくない箇所、特にステッチガイドを当てられない箇所は、組み立て前のステッチガイドが当てられる状態で、糸を通さずに一度空ステッチをかけてから本縫いするので、とても時間がかかります。

昔尊敬する先輩に、良い物とは「先ずは、当たり前のことを当たり前にやってある物だよ」と教えられました。
当たり前の積み重ね、これが本当に難しいのですが…。

うさぎと亀。
私は卯年生まれ、の亀でありたい。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?