構造審査よもやま話 第9話 ~パラペットと梁剛性の話~

き、きらわれたって全然へっちゃらなんだからねっ!




いきなり本題から入ります。

本日のテーマ「RC造で梁の直上かつ全長に亘るパラペットは梁の剛度増大率に考慮すべきか」



私の考えは「考慮すべき」です。

設計者様は、私の体感では「考慮する」「考慮しない」半々くらいでしょうか。


考慮派としては

腰壁と同じであって梁の変形に影響が出るため考慮が必要と考えます。
梁の断面図を見たときに地震力はそれが腰壁かパラペットかなんて判断してくれないよ、と。


考慮しない派は

フレームの外であるため影響しない、との主張をよく見かけます。
パラペットの両端は見上げ柱が無いため拘束されない、ということですね。



いずれの主張も、今まで言われたことがあるか、会社の設計方針や先輩社員がどうしていたかに拠るところが大きく、
別の思想がすんなりと入ってこない思考停止の現状があるように感じます。


言葉を変えますと、深い考察をしていないのではないか。と。

私自身も、ずっとそれでやってきたから、としか言えませんでした。
審査業界に入って「考慮しない人なんて存在するのか」と驚いた記憶です。

「じゃ何ゆえ考慮する?」と問われると困ったところまで1セット。




さて、考慮すべき派に肩入れ上等なのを承知で私なりに考察を深堀してみます。


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梁・柱の地震時のミクロな変形をどのように捉えているか、ここに両者の大きな隔たりがあると思います。


どういうことかと言いますと

少し目線を変えて、梁からぶら下げる三方スリット壁の設計を考えてみますが
ずっっと昔から、ロッキングとスウェーと2つの考え方があります。
カーテンウォールの方が分かりやすいかも。


・柱梁フレームの変位に対して雑壁が短冊パネル状に回転するロッキング

・柱梁フレームの変位に対して雑壁は水平に移動するスウェー

各種の実験や施工実績その他もろもろの面でどちらも正しいであろう、と考えられています。

恐らく正解は両者がファジーに混ざったものではないかと個人的には思います(学者の先生には怒られそうな意見)



で、この前提には地震時に梁がミクロにどのように変形するかの考えがあるのです。

それがやはり2つの考え方で


・梁がS字状に変形する。

柱梁接合部は仕口剛域として柱と梁が常に直角であり、柱が倒れれば梁の端部も倒れる(回転する)。
梁の左端と右端で同じ方向に回転するので、梁の中間部はS字状に変形して両端が繋がることになる。


・梁は水平を保つ。

私がスウェー派ではないため上手く説明できませんが

ここではあくまでスリット壁の設計における梁モデルとして考えると少なくとも不正解ではありません。



ミクロの話なのでイメージをしたところで正解とは言い切れず、スパン長に拠るかとも思いますし

前段と同じ結論ですが、恐らく正解は両者がファジーに混ざったものではないかと個人的には思います(学者の先生には怒られそうな意見)



なにより我々は学者ではないので学術的にどちらが正しいかを論じる立場になく

場面場面でどちらがもっともらしいか、又はどちらが不利側か、を考えて安全な建物を作る立場です。


その意味では慣習として両者ともに正しいのです。

どっちかが壊れたわけじゃないもの。





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ここで話をパラペットに戻すと、

ロッキング派は梁がS字状に変形するからパラぺを梁剛性に考慮するし、
スウェー派は梁が水平を保つからパラぺを梁剛性に考慮しないし

両方が正解じゃん、となります。



がしかし、だがしかしですよ、構造スリット設計指針という本も紹介しなくてはなりません。


こちら2009年発刊で、前身は2001年ですが、ロッキングとスウェーの歴史から見るとかなり最近の知見となります。

そもRCスリットの研究歴史が比較して浅めなので。



スリット指針の中でFEM解析をしているわけですが
三方スリット壁(短冊パネル状ではないもの)は梁の剛性に影響がある、という結論が出ています。

柱際鉛直スリットがあっても梁剛性は増大する、ということです。


雑壁の両端が拘束されていなくても梁剛性は増大する、ということであれば

パラペットで両端が見上げ柱が無いため拘束されなくても梁剛性は増大するのだ、が最終的な私の考えです。



誤解の無い様に言いますがスウェーを否定するものではなく
少なくともRCの梁に対してはロッキングなのか、と。
S造は当然異なりますし、RC造としても雑壁に対してのものではありません。あくまでRC梁。




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私見ですが
パラペットは梁の直上から外側にズラして梁とパラぺの間に水抜きドレーンがあるディテールに出来ないのか、と防水の観点から思いますが構造屋の範疇を超えていて。


三方スリット雑壁も2m@とかで鉛直スリット入れれば良いのに、と思います。開口際で入れたらそのくらいなるっしょ。
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と、いうことで私の中では慣習的にも考察的にもパラぺは梁剛性に見る、なのですが


結局さぁ、最上階でさぁ、地震力少なくてさぁ、検定比もそこそこあってさぁ

剛性見たところでそんなに変わらない気がするんですよ。

性格は細かいのですが対応は大雑把です。細かいからこそ大雑把にできるというか。



指摘に対する回答が「考慮しない」だとしても一概に否定はしません。

検定比ギリだったら、、剛比で分担された分が応力上がるわけで梁の本数が多ければ分散するし、、。うーん。




法律でもQ&Aでもないところで、ないところだからこそ、自分の考えを持ちましょう。という話でした。


スウェー派の構造設計さんからは「なんだこの指摘。分かってないなぁ」と思われてるかもしれませんが
背景には長文があるかもしれないことを想像していただけたら幸いです。

何も考えてない審査者もいるので話がややこしい。


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