同人活動を念頭に置いた、わかりやすい非営利の説明
二次創作活動は「非営利」でなければならない?
同人界隈で定期的に繰り返されているであろう議論があります。すなわち「オリジナルの創作ではない『二次創作活動』は、『非営利』でなければならない」というものです。以前より暗黙の了解というか、グレーなことがグレーのままであるために必要なこととして言われてきたことのように思います。
このnoteには「二次創作活動は非営利でなければならないか」という議論ではなく、もう少し手前、「営利、非営利とは」ということの説明を書いています。
非営利なら二次創作活動はOKなのか?→わからない
初めに書いておきますと、「非営利なら二次創作活動はOKなのか?」の問いには、「わからない」がこの記事での回答となります。
そもそもこの記事では「非営利なら二次創作活動はOKなのか」を考えているわけではありません。「非営利(と営利)」の説明に留まります。
具体的な作品で、その権利者が二次創作活動について規約・指針等を公表している場合には、それを解釈する上でこの記事が役立つと思います。
営利と非営利
「営利」の意味は「利益を得ることを目的とすること」です。したがって、「非営利」の意味は「利益を得ることを目的としないこと」です。「非営利」の直接的な定義はこれで完結するのですが、では「利益」とはなんでしょうか?
利益の前に、収益と費用
営利、非営利を語るにはまず、「利益」というものを整理しなければなりません。利益とは、対応する「収益」と「費用」の差です。
利益 = 収益 − 費用
仮に収益が100あって、費用が80であったならば、利益は20です。
利益 = 収益 − 費用 = 100 − 80 = 20
収益
収益とは、平たく言えば「お金が入ってくる理由・要因」です。“理由・要因”というのが意外かもしれません。細かく言うともっとややこしいのですが、普通は、ものを売って買い手からお金を貰うときに“売上”という収益を計上することとなるので、ひとまず収益とは「お金が入ってくること」と同じと考えてください。
費用
そして費用とは、「お金が出ていく理由・要因」です。普通の会社だと社員に支払う給料や材料の仕入れ(売るために買ってくること)などが費用の主な構成要素ですが、収益よりもかなり細かく多岐にわたります。個人で考えれば、家賃、食費、書籍の購入費用、銀行振込手数料だって費用です。まあこちらも、ひとまず費用とは「お金を払うこと」と同じと考えてください。
利益
最後に、利益とは、収益と費用の差です。80円でものを買ってきて、100円でそれを売ったとしましょう。このとき利益は20円です。簡単です。80円を使ったのに100円が入ってきたので、20円増えたわけですね。80円をどこかから借りてきたりしたなら、少なくともその80円は返さなければいけませんが、増えた20円はあなたが自由にしていい部分です。その20円が利益です。
黒字と赤字
さて、収益と費用と利益の関係を図にしたのが、これです。損益計算書と言います。必ず収益は右に、費用は左に書きます。利益は、収益と費用の差額として左下か右下に埋まります。
利益がプラスになること、つまり収益のほうが費用よりも大きい状態を俗に「黒字」と言い、利益がマイナスになること、つまり収益が費用よりも小さい状態を「赤字」と言います。ちなみにマイナスの利益は「損失」と言います。
例えばこの図では、右側の収益(100)が左側の費用(80)よりも大きいので、利益(20)は左下に出てきます。この状態だと黒字です。
一方この図では、費用(110)が収益(100)よりも大きいので、利益(10)は右下に出てきます。赤字です。110円を使ったのに100円しか入ってこなかったら、10円だけ損したわけです。
営利
営利とは、「利益を得ることを目的とすること」でした。「利益をより大きくすること」「利益をプラスに近づけること」と言い換えることができます。もっと言えば「赤字よりも黒字にすること」「黒字をもっと大きくすること」です。利益は収益と費用の差額でしたから、利益をプラスの方向へ大きくするためには、収益をなるべく大きくしたり、費用を小さくしたりする努力が必要です。
たくさん売れれば、それだけ収益も大きくなります。ものを売る値段を高くして、同じ個数だけ売れたならば、収益は大きくなります。
売るものを買ってくるときに、より安く買ってこられれば、費用は小さくなります。電気代とかを抑えても、費用は小さくなります。
そういったことをして利益をより大きくすることこそが「営利」です。
非営利
一方で非営利とは、営利ではないこと、ですから、「利益を大きくすることを目的としないこと」です。「利益をゼロかマイナスに近づけること」と言い換えることができます。もっと言えば「黒字を小さくすること」、極端に言えば「赤字を大きくすること」です。そのためには、収益と費用が同じになるようにする(利益をゼロに近づける)か、費用を収益よりも大きくする(利益をマイナスに近づける)か、そのどちらかをする必要があります。
収益と費用が同じになるようにするには、売るものを費用の分だけ回収できるような値段にすればいいです。また、費用を収益よりも大きくするには、費用をたくさん出すか、売るものの値段を安くすればいいです。
あくまで、非営利とは「利益を大きくすることを目的としないこと」ですので、結果的に多少のプラスの利益が出ても許容されるべきでしょう。必ずしも赤字にしなければならないというわけでもありません。積極的に赤字にすることも、非営利と言えます。
収益と費用の範囲
そして非常に重要なのが、関係の無い収益と費用を一緒に考えてはいけないということです。関係する収益と費用同士だけを同時に考えなければなりません。極端な話、例えば大企業の売上高と、その会社のある社員の食費を一緒に考えてはいけないというようなことと同じです。もちろん普通の会社ならそのようなことはほとんどありえませんが、一人の人が行う活動、例えば「普段の生活」と「同人活動」であれば、そういったことも起こりえてしまいます。区別する必要があるのです。
同人活動の収益と費用
一種類の本を作ってイベントに参加して販売する場合を考えてみましょう。とりあえず、オリジナル創作のものとします。その本の売上収益から、その売上のための費用を差し引いたものが、その活動の利益となります。
では、その費用とは? 印刷業者にその本を印刷してもらう代金は、その本の売上のための費用と言えます。画材を買ってその本を作るのに使い切ったならば、その画材の代金も同じです。本を作るためのソフトウェアの利用料も、印刷された本を会場へ送る送料も、イベントへのサークル参加費も、イベント会場への交通費も、売り子への謝礼として渡すお金も、その本の売上のための費用と言って差し支えありません。
印刷代だけが費用ではないのです。その本の売上のためであれば、どれもその本のための費用です。
逆に、そうならないものも考えてみましょう。付き合いのある他の参加者へ渡すお菓子などの差し入れは、その本の売上のためではありません。イベント後の打ち上げの費用も、その本の売上のためとは言い難いでしょう。イベント中の飲食費については、イベントがなくても(その本を売ろうとしなくても)食事は行うので微妙なところです。また、イベントに参加したあとに別の場所で遊ぶようなとき、イベントに参加するからといって、イベント会場への交通費の全額をその本のための費用と言うのは難しいですが、半分だけを費用と考えるのはありです。同じように、買った画材が余った場合は、使った分だけがその本のための費用となるでしょう。
こんなふうに、どれが関係する収益と費用なのかを考えて、そして関係する収益と費用同士を一緒に考えて、初めてその活動の利益を算出することができます。
ここまで、とりあえずオリジナル創作のものと仮定しました。オリジナル創作であれば、特別な理由のない限りは営利で行うということでよいでしょう。すなわち収益を大きくし、費用を小さくすることに取り組むことができます。
もしもこれが二次創作のものであったとしても、利益を算出するための考え方は変わりません。その上で、「二次創作活動は非営利で行うべきでありその活動を非営利で行いたい」と考えるのならば、この利益が小さくなるように取り組まねばならないのです。その方法は上でも書きましたが、たとえば費用と同じだけの収益が得られるようにする、などです。
非営利なら二次創作活動はOKなのか?→わからない
何度も述べますが、ここまで説明してきたのは「営利、非営利とは」です。「二次創作活動は非営利で行うならOK」と主張するものではありません。「私(筆者)の作品についての二次創作活動は非営利ならOK」と宣言するものでもありません。
一般論としての「営利、非営利とは」の説明であって、特定・不特定の作品等の二次創作活動について「〇〇という方法ならOK」と述べているわけではありません。「営利ならアウト」と述べているわけでもありません。
例えば他人が作った絵を無断で印刷し、無料で広く配布したり相当安価で販売したとしたら、それは非営利ではありますが、著作権などの問題が生じます。筆者はそういった権利関係に明るくないのでここでは触れませんでしたが、そのような議論も行われなければならないでしょう。
本文はこれで終わりですが、よく理解するためにもう一度最初から読んでみてください。
以下、補足など。気になるところだけ読んでみてください。
収益は、厳密には「お金を貰うこと」とは別です。同様に、費用も「お金を払うこと」とは別です。お金を貰う・払うことそのものと、お金を貰えることになる・払わないといけないことになることとは、別の表現の仕方をし、別の取扱とするためです。
簡単に言うと、「物を売って現金を貰った。」を「物を売った」と「現金を貰った」に、「物を売って来週現金を貰う約束をした。」を「物を売った」と「来週現金を貰う約束をした」に、それぞれ分解して記録するわけです。そうすると、「物を売った」の部分をまとめて集計できます。それから、「現金」と「現金を貰う約束」は違うので、これらを区別できるようになります。
ですが、同人活動の範囲ではたいていそれらのタイミングが同じ(売ったときにすぐに現金を貰う)なので省略して「同じ」としています。
詳しくは、「複式簿記」で検索検索ゥ。
非営利とは利益を大きくすることを目的としないこと、と説明しましたが、継続的に非営利活動を行う学校法人や医療法人、公益社団法人や特定非営利活動法人など(総じてNPOと呼びます)は、長期的に見て利益を大きくしないことが可能なので、短期的に利益が出ることが間違っているというわけではありません。つまり今年利益が大きく出ても、それを来年以降の活動に費やすならば、非営利性を維持できていると言えます。「NPOの商品は必ず安価でなければならない」は間違いです。
しかし個人の同人活動では、その活動の一つ一つが短期的に終わってしまうので、短期的に利益が大きくならないようにしなければならないのです。
利益を大きくすることを目的とするのが営利だと説明しましたが、では営利活動ではその利益をどうするのでしょうか? 得られた利益は誰に払わなければならないものでもなく、その活動主体が自由に扱ってよいものです。そこで営利企業は、利益を役員への報酬、社員への賞与、株主への配当金として支払ったり、または社内で留保したりします。これを利益分配といいます。非営利活動は利益分配を行わないこと、と捉えることもできます。
いろいろと資料を見てみると、実に様々な用語が微妙に異なるニュアンスで使われていることに気づきました。本文で使用した用語は、ほとんどが簿記や会計学での標準的な意味となっています。収益と費用はだけは、ひとまずお金が出入りすることと同じと考えて良いと書きましたが。新聞やウェブ記事などではそこまで厳密な言葉遣いになっていない可能性もありますから、注意が必要です。
権利者側の人が、自身の作品の二次創作活動について営利・非営利の文脈で「お金がかかわるのはダメ」と発言したのを見かけたことがあります。これは正しいでしょうか?
これまでに書いた営利・非営利の説明はお金ベースの考え方です。つまり80円で仕入れたとか100円売れたとか、「円」で考えている、と言い換えてもいいかもしれません。というか、他の人と共通の価値で考えるために、必ず通貨単位で考える必要があります。
例えば「ペン」の価値はどうなるでしょうか。「100円で売られているペンなら100円でしょ」とするのはもちろん正しいです。このとき、あくまで「ペン」という物の価値を通貨の「100円」に置き換えているわけです。もしくは、それを売ったときの値段と考えても良いでしょう。現金や銀行預金などは直接的に通貨での価値を考えることができますが、そうでなければいつも物を通貨の価値に置き換えて考えているのです。
さて、「お金がかかわるのはダメ」という考えに戻ると、では「物ならOK」なのでしょうか? 物にだって価値はあって、前述の通り、売られている値段や売ったときの値段として通貨の価値に置き換えることができます。
例えば二次創作作品を渡す代わりに宝石を受け取る、なんていうのはあくまで物々交換なので「お金がかかわっている」から外れるでしょうが、通貨の価値に置き換えたときには営利・非営利を考えることができますし、より高価な品物を要求するようにすればそれは営利活動です。営利活動を避ける方策として「お金をかかわらせない」というのは、全く間違いです。
お題箱から質問を頂きました。回答が長くなってしまったのでこちらに書いておきます。(解説を書く身には、内容を知らない人がどう思うかがわからないので、質問はありがたいです。)
こちらの質問を頂いてからこのnoteもずいぶん書き直していて、強調していますが、このnote記事は「二次創作は非営利ならOK」と述べるものではなく「非営利とは(営利とは)なんぞや」を説明したものです。その中で、二次創作による本などを作るために費やしたものはすべてその費用となりうる、と述べています。費用は、収益を得るために費やされた経済的価値であるからです(この言い方は記事で直接書いていませんが、この言い方もできます)。「その活動のための費用である光熱費も交通費も含めた上で非営利性を確保すれば、二次創作はOK」とまでは述べていません。営利・非営利だけで判定が付かないだろうということは、この記事の最後の段落でも書いていますね。
『「趣味」で「他人の作品を借りて」……』という感覚は、わからなくもないですが、それ自体は費用の定義とは関係ありません。意地悪な言い方になってしまいますが、印刷製本にかかるお金には文句はないということでしょうか? そうだとして、本を売るために自分で印刷製本する代わりに他人にお願いするときのお金と、本を売るために自分で会場まで歩く代わりに電車で運んでもらうのをお願いするときのお金と、そこに差はありますか? どちらも労力を他人にしてもらうことです。
質問に直接回答すると、「定義により、二次創作であっても、制作物の制作に費やされたものは、その売上に対する費用です。このときに問題が生じるかどうかは別の議論です。」となります。
嬉しいことに、この記事をツイートしてくれている方がいます。当然ながらこの記事や営利・非営利に関するツイートをしているので、その後のツイートをよく拝見しに行くのですが、誤解された部分が見受けられます。勝手ながらいくつかここで誤解を解きたく……。
販売手段と営利・非営利は関係ありません。イベントで対面販売ならば非営利だが、データ配信・通販なら営利、というのは間違いです。データ配信だと紙や本やCDなどを作らなくていい分費用は少なく済むかもしれませんが、だからといってすなわち営利、とはなりません。
販売の規模は、必ずしも営利・非営利とは関係ありません。規模を大きくすると利益は出やすくなりますが、利益を出さないことも可能なので、すなわち営利、とはなりません。
「販売すること」と営利・非営利は関係ありません。「販売するなら営利」ではありません。極端な例ですが、100円の費用が掛かったものを1円で販売すること自体は非営利と言えるでしょう。「販売しないこと」(何かを渡したりもしないこと)は、営利・非営利の枠の外ですね。
著作権等の権利と営利・非営利は、おそらく関係ありません。著作権等と営利・非営利は、それぞれ二次創作活動が問題になるかという議論の論点にはなりますが、おそらく互いに独立したものです。(おそらく、としたのは、私が著作権等に明るくないためです。)
この記事をツイートされた方の直前のツイートで、こちらの記事を知りました。
この中の『では、「利益」とは?』という段落で、「黒字とは売上が経費を上回った状態のこと」と書かれています。経費とは、その売上のための費用のことです。このnoteの記事の中でも何回も出てきた言葉ですね。その後で「法的には……」とありますが、これはあくまで所得税法の観点の話です。所得税法と営利・非営利は関係ありませんが、同人活動を所得税法の観点から考えるのはなかなかおもしろいなと……。
所得税法が同人活動を禁止しているわけでは、もちろんありません。脱税(所得税法違反)になってしまうのは、(おそらく個人レベルで単発でやるような場合は、)所得(このnote記事で言う利益)が20万円を超えているのに、それを確定申告で適切に申告しなかったときです。「売上が20万円を超えている」ではないので注意です。また、別の理由で確定申告をする場合は、20万円以下でも申告する必要があります。
それから、同人活動が事業活動となっている場合はまた別なのですが、長くなっちゃうし、そんな人はこの記事は読んでないだろうし、筆者も詳しく言えないので、省略します。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?