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【ワールドトリガー】なぜ「陽動」・「分断」・「優秀な駒」が好きなのか、ハイレインの持つ精神的な危うさについて 〜ハイレインの魅力と私的考察⑤

はじめに

ハイレイン考察という名の妄想記事、五回目です。

ハイレインer Lv40くらいの記事です。
ここまでくると考察ではなく、半ば妄想にどっぷり浸かっているのでご注意を。人はハイレインに狂ってくると、段々と見えないものが見えるようになってくるのです。ここが深淵の入り口です。怖いですね。逃げましょう。

この記事だけでも読めるように書いてはいるつもりですが、一応前の記事も読んでいた方が楽しめるかも。そうでもないかも。

ブラッシュアップ前の記事を読んでくれていた方には、前半は④に似た内容が書かれているのでご了承を。

④記事もだいぶブラッシュアップしているので、まだ見ていない方はよかったらどうぞ。


ネタバレどころの騒ぎではない
ので、今更ですがご注意!

ハイレインの厭わしさはどこから来るのか

あえて言おう、ハイレインは厭わしい。

待ってほしい、どうか待ってほしい。いや待たなくていい。私は止まらない。

厭わしくない人は皆の前で実弟に「俺のやり方は厭わしいか?」などと問い詰めはしない

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この含みのある言い方。友達とかいなさそうでとてもだいすきですね。
しかしつくづくランバネインのいなし力の高さもすごすぎる。兄弟の表情も実に絶妙だ。
引用:『ワールドトリガー』10巻 p.44

ハイレインerの皆様、怒らないでほしい。待って欲しい。まずは落ち着いて聞いてほしい。

引用:『ワールドトリガー』14巻 p.92

そもそもワールドトリガーという作品において、厭わしいことは褒められるべきことである。

戦いとはつまり「いかに相手がやられて困ることを執拗に行うか」なのだ。それはワートリという作品全編を通して繰り返し描写されている。

ハイレインはその指揮の高さを遺憾無く発揮して「相手がやられて困ること」を率先して行っているのだから、それは厭わしいに決まっている。

だから相手のボスとして登場したキャラクターであるハイレインが厭わしいのは当たり前だし、誉れなのだ。

だが、ハイレインの厭わしさはそれだけではないように思う。
相手がやられて困ることをしていれば厭わしくなるのであれば、同じ指揮カンスト仲間である東さんや忍田さんだってもっと厭わしいと思われなくてはならない

しかし東隊長や本部長は別に厭わしくない。むしろ好印象を持たれているキャラクターのはずだ。まあ……年齢詐称疑惑はあるが……。

ハイレインはやはり特別厭わしいキャラクターなのだ。

やはり怒られそうなのを覚悟で宣言しよう。
ハイレインはいちいち一言多いし、皮肉屋だし、根回し根暗マンだ。

この人本当にハイレインが好きなのかとまたも疑われそうだが、だからこそ大好きなのだと強く主張したいむしろ根回し根暗マンじゃないハイレインだったらここまで狂っていなかったと思う。まだ筆者は人としての形を保てていたはず。

まあとりあえずお茶でも飲みながら、一言多いハイレインコレクションを少しだけ見ていって欲しい。

相手を地に臥せさせてから褒める。ハイレインの上から目線の基本形です。さりげなく弟のことも褒めます。
引用:『ワールドトリガー』8巻 p.145
これは出水くんにわくわく動物野郎と呼ばれてしまう伝説のシーン
引用:『ワールドトリガー』9巻 p.46
これは『卵の冠』がトリオン体にしか効かないことに気がついた出水くんに皮肉を言うシーン
引用:『ワールドトリガー』9巻 p.50

これはほんのコレクションの一部に過ぎませんが、いやあ、とっても厭わしいですね。

相手のさりげない一言も聞き逃していないと主張するかのような、相手の台詞に対する意趣返しの台詞が止まらない。

もちろん、これは少なからず策略であると思う。ハイレイン視点では緊急脱出さえ発動させなければ『卵の冠』によりキューブ化&そのままお持ち帰りが可能だ。特にVS出水戦では、自ら「捕えて部下に加えたかったな」という
問題発言(ヤバイ)をしていることからも、その意図が読み取れる。「あわよくばこの射手捕獲ワンチャンあるかも」と企んでいたのかもしれない。

相手の思考を巧みに誘導させるのはハイレインのお家芸とも言える。

これのスタンプの再販をお願いします。切にお願いします。
引用:『ワールドトリガー』14巻 p.92

スタンプにすらなったヒミツなこれもそうだし、

ミラ曰く聡明であったはずの元のエネドラのままであれば、こんなあからさまな挑発に引っかかることはなかったのだろうなあと思うと、とても物哀しい。

このシーンなどもそうだろう。大事な部分を強調しておくので注目してほしい。

「だが無理をする必要はない
あくまで戦力の分断が目的だ
危険な場合はミラのトリガーで回収する」

引用:『ワールドトリガー』7巻 p.14

「お前の力が足りなくてもこちらでサポートするから心配ないよ?」とも言いたげにわざとエネドラを煽るような言葉を選んで喋っている。短期な人には我慢ならない台詞だろう。ましてや自制心を失ったエネドラには到底見過ごせない忠告だ。

今にして読み返すと、これはハイレインがエネドラを確実に暴走させるように仕向けた策略であることがわかる。これが遅効性ってやつか……。

このようにハイレインは少ない登場回数ながらも、心理巧みに相手を誘導するシーンが幾度も描写されている。話す内容全てが罠だと言わんばかりのキャラクターだ。

だがしかし、こちらをみて欲しい。
VS鳥丸戦はどうだろう。

これも超上から目線でのコメントだよね
引用:『ワールドトリガー』10巻 p.90

これはハイレインを語る上で外せない有名な台詞である。作中において尤もハイレインの価値観を分かりやすく表している台詞だろう。

戦において大事なのはいかに戦の最中で上手く振る舞うかよりもその外側、盤面の中でどう駒を動かすかよりもどう盤面を用意するかのほうが大事であり、物事の内側ではなくもっと広い視野で見なければいけないという意味だろう。加えて、「努力や信念でいくら足掻こうとも決まった筋書きはひっくり返すことはできない」とも捉えることができる。後者の方がこの記事において大切なので、詳しくは後述する。

「お前たちがどう知恵を絞ろうとも無駄なことだ」と告げることは、果たして本当に戦略上に有効な行為なのだろうか?

鳥丸の戦意を削ぐためと考えても、この言葉選びには違和感がある。ましてや玄界には緊急離脱がある。ハイレインの目線からしても、基地に戻った相手が「もう駄目だ……こんな相手に勝てっこないよ」となる可能性よりも、「あの角野郎許せん。皆頑張ってあいつをなんとかしてくれ!!」となる可能性の方が高く見えるのではないだろうか。鳥丸はもさもさしたイケメンなので、そんなキャラじゃないが。

これは修を逃すために時間稼ぎしていた鳥丸への当てつけのシーン
引用:『ワールドトリガー』10巻 p.89

この台詞なんかは更に顕著である。こちらも足止めが狙いだったという情報を相手に与えてしまっている。緊急離脱により相手にたちまち情報が共有されてしまうことを考えると、尚更よろしくない。

例え知られたところで問題ないとしても、不必要にリスクを負う必要はないはずである。

この辺りの台詞は、「慎重で冷静な司令官」というプロフィールだけでは説明できないように思う。ハイレインの持つ別の属性が影響していそうだ。

ハイレインは一見するとワートリ読者に「なんとなく嫌なヤツ」と思われがちである。「一旦なんでこんなひどいことを平気でできるんだろう、嫌味〜なキャラクターだなぁ」と、早く修たちにやっつけられちゃえ! と、多くのワートリ一読の方からバイキンマンのように思われていること請け合いだろう。ワールドトリガーは勧善懲悪の物語ではないから多分ハイレインがはひふへほ〜と飛んでいくことはないだろうが。

ハイレインは一見すると完全無欠なキャラクターである。

ー個人の戦闘能力、指揮力、そして政治力においても圧倒的なスペックを誇るワールドトリガーという作品のヘイトを請け負う格を持つキャラクターだ。

そう述べるとまるで隙がないように見えるかもしれない。しかしそうではない。そうではないのである。

欠点のないキャラクターなんて好きになれそうにない。むしろ欠点だらけの方が美味しくいただけますと声高に宣言したい。

まあそもそも悪役という時点で欠点といえば滅茶苦茶欠点だが。侵略者だし。ぶっちゃけるとエイリアンそのものだ。異世界からの侵略者っていいよね。

しかしそれだけではなく、ハイレインは実はとても精神的に危うい、心のぎりぎり、崖っぷちに立っているキャラクターなのだということを今回は語りたい。

そしてその危うさが筆者は大好きなのだ。今日もご飯がもりもり美味しいのである。

そんなこんなで、ここまでが前座である。やっと本題に入れる。

ハイレインが抱える矛盾とその歪み

ハイレインは、「権力を手にするために手段を選ばず侵略戦争を仕掛ける冷徹な司令官」としての側面と「家族と穏やかな暮らしだけを望む動物好きの青年」としての側面、二つの顔を持つキャラクターだ。

そのことについてはこちらでも言及しているので、よかったら見てね。

後者の顔、ふわふわわくわく動物野郎の属性はまず間違いなくハイレインが元々以っていた生来のもののはずだ。

近界最大の軍事国家アフトクラトルという環境の中で、こんなふわふわメルヘンエンターテイナー的情緒が育つはずはない。

冷徹な司令官としての顔は、ハイレインがアフトクラトルの次期領主という厳しい環境の中で生き抜くために、家族を守るために後天的に生み出されたものだろう。

加えてハイレインのこれまでの人生が過酷であったことは、幼少期に頭に角を植えられるという人体実験行為をされていたことからも明らかである。まずまともな青春は送れていないだろう。

それらの環境が、ハイレインを穏やかな天然気味の少年だけではいさせてくれなかったのだと考えると、なんとも目尻が上がりそう…いや潤みそうになる。

ハイレインの一見わかりにくい属性は、その二つの相反する顔が生み出した矛盾や歪みによるものと筆者は考えている。

④の記事にて、ハイレインは「世の中に絶対はない」ことを確信し、信条としているキャラクターだと述べさせてもらった。人は間違えるし失敗するし意見を変えるものである、とも。

人は不完全な存在である、という考え方が根本にあるキャラクターなのだ。

そしてもちろんこの「人」という括りにはハイレイン本人も含まれるだろう。後述で詳しく述べるがむしろハイレイン自身が過ちを犯すところからこの考えは始まってるいように思う。だからこそ自分の立てた策が失敗することも考えて二重に策を走らせることを怠らないし、できうる限り万全の準備で作戦に望む。

慎重で冷静な司令官というプロフィールだけでは説明できない、皮肉屋であり一言余計なハイレインの厭わしさは、この要素で説明できるのではないかと筆者は考えている。


どういうことか。

すなわち、ハイレインは「世の中に絶対はない」ことを確認するために、「人は過ちを犯すもの」であると確認するために、何度も繰り返し人が過ちを犯すことを確認しているキャラクターではないだろうか。

人の過ちに対して痛烈な皮肉を返すのも、「お前は間違っている」という事実を相手に突き付けるため。

そして、「人は過ちを犯すもの」であるという自らの認識が正しいことの証明のためである。

だから一言余計だし、皮肉屋だし、嫌味な側面を持っているのだ。

ハイレインはこうした精神的な歪み、真っ直ぐ前を向くことができない歪さを内包しているキャラクターなのではないだろうか。

そしてその鬱屈とした精神的な歪みは、まさにハイレインの本来の性質と立場からくる強力な板挟みによって生まれたものだと仮定することができる。

人の失敗に対しての皮肉を言うことで人の不確かさを確かめるのも、家族との平穏な暮らしを求めて侵略を繰り返し、それがために平穏からますます離れていくという構図の中で、ハイレインが正気を保つために、取り繕うための行いなのではないだろうか。

そう、お気づきだろうか。

ハイレインは初めから間違っているのである。求めた穏やかな暮らしからも離れるように、自らの手で破滅へ向かっているのである。生まれた国アフトクラトルの領主という立場が、初めからハイレインに間違った道しか選択させてくれなかったのである。少なくともハイレインにはそれ以外を選ぶことはできなかったのだ。

「穏やかな暮らし」を求めるために、自分たちが脅かされないための権力を手に入れなければならず、権力を手に入れるために非情な手段を用いなければならない。非情な手段の果てに求める「穏やかな暮らし」が待っているはずもない。侵略行為を重ねるが故にますます本来の望みである「穏やかな暮らし」から離れてしまうというというこの構図が、正しいものであるはずがない。

望みを叶えるために望みからますます遠ざかっている。誰がどうみてもハイレインの行為は間違っているのだ。


そしてそのことをハイレイン自身も理解していないはずがない。

自分が間違っていることを理解しながらも先へ進まなければならないのだ

間違いを強制され、そして尚も間違い続けることを強制されたハイレインは、「人は過ちを犯すものである」、すなわち「自分も過ちを犯すもの」であり、それは当然であると確認せずにはいられない。

ハイレインは自分に能力があると自負しているだろう。だからこそ「俺だとて過ちを犯しているのだから、他者も誤ちを犯さないはずがない」と心のどころかで人の過ちを確認して安堵しているのではないか。

それは意識的かもしれないし、あるいは無意識かもしれない。

だが、それこそハイレインの抱える歪みであり、彼の持つ精神的な危うさであると筆者は考えている。なんと美味しいことか。おかわり! ご飯三杯!!

いくら個人がどれだけ強力であろうとも、そんな状況で生まれ育って完全にまともな人間でいられるはずがない。どこかしら軋むのは当然である。それはハイレインであっても決して例外ではないのだ。

これは確信して言えることだが、ハイレインが望む家族や穏やかな暮らしを得るために努力していないはずがない。だがその凶悪なスペックを用いてあらゆる知恵を絞り、工夫を凝らしたとしても、それでも誤った道しか選べなかった。元々正解の道などどこにもなかったのだ。

おそらくは圧倒的な絶望と無力感がハイレインを襲ったことだろう。だがハイレインは無責任に引きこもって倒れることすら許されていない。絶望の中でもよりマシな絶望を、あるいはせめて破滅ができるだけ先延ばしになるような適切な延命措置を選ぶしかない。家族に同じ重荷を背負わせないために、災禍が及ぶのを防ぐためにも、自分が壊れて倒れるわけにはいかないのだ。だが元来の穏やかなはずの性格のままに、自ら過ちを犯し続けていると認識しながらも尚前に進むには辛すぎる。だから絶望の中でも進むため、正気を保つために人の過ちを確認しているのではないだろうか。

軍事大国の領主の跡取りとして生まれ侵略を余儀なくされるのも、政敵に塗れながら生き抜くために戦わなくてはならないのも、頭に角を植えられる人体実験を施されるのも、ハイレインが望んだことではないはずだ。全ては生まれる前から定められてきたことであり、ハイレイン個人の手腕で回避できはしない。ただただ、どうしようもなかった。

その中で生き抜くには到底まっすぐな心根のままではいられなかったのだろう。元々純粋で動物好きな穏やかな青年として成長するはずだったハイレインはそうして今の形に歪まされてしまった。あるいは、凄惨な日常を送り過ぎて既に感覚が麻痺してしまっているか。軍事大国の主の一角として30前まで過ごしてきたのだから、凄惨な場面に出くわしていないはずがないことなど容易に想像がつく。

さて、「ハイレインは人は過ちを犯す不完全なものであることを示すために何度も人の過ちを確認するキャラクター」であるという仮説を立てさせてもらった。

この仮説を元にすると、ハイレインが持つキャラクター属性のギャップに一本のまっすぐな背骨を通すことができるように思う。

まずはもう一度先ほど取り上げた鳥丸のシーンを振り返ってみよう。

腕がいい 工夫もある 「戦う力」は持っている
だが勝敗はそれ以前に決まっている

引用:『ワールドトリガー』10巻 p.90

これは、「お前がどう工夫しようとも無駄」だという忠告の他に「戦いに大切なのは戦いが始まってからどう動くかではなく、事前の予測や準備、戦いという枠組みよりも更に視野を広げて物事を考えることが肝要である」とも読み取れると述べた通りだ。

そして筆者が提示した仮説をもとに更につけ加えるなら、この台詞はそっくりそのままハイレイン自身にも当てはめることができるのではなかろうか。

どんなに能力があり、その上で工夫を凝らそうとも、結果はそれ以前に決まっている。

ハイレインが「どんなに化け物スペックであろうとも、優れた頭脳で指揮しようとも、アフトクラトルという地に領主の後を継ぐものとして生まれたその時点で既に運命は決定づけられている」……と、そう言い換えることができる。

俺もそうなのだから、お前もそうなのだろう、そうでなくてはならないと、そういった意味も込められているのではないだろうか。

ハイレインの好きなものが表す歪さの要因について

「陽動」・「分断」・「優秀な駒」について

さて、今一度、再び基本に立ち返ろう。

これが私たちの基本にして原点、ハイレインの好きなものプロフィール
引用:『ワールドトリガー』9巻 p.171

ここまでこのシリーズの記事を読んでくれた方はもう見飽きてしまったことと思うが、そう言わずに今一度よく見て欲しい。

ハイレインの好きなものは「優秀な駒・陽動・分断・穏やかな暮らし・家族」である。

「穏やかな暮らし」と「家族」についてはもはや語り尽くしてしまった感があるが、ハイレイン生来の気質によるもの、失い、または脅かされ、あるいは手に入れることができないために求めているものだろう。改めて述べると本当に最高な設定だ。はぁ〜最高。五体投地。

それに対して「陽動」・「分断」・「優秀な駒」はやはり異彩を放つ。そもそもが好きな項目にあげるものではない。これらは本来好きなものではなく、好きなものを得るための手段の一つに過ぎないはずだ。

ハイレインが一見すると人間味の薄いキャラクターに見えてしまうのはこの好きなものの前半の項目である「陽動」・「分断」・「優秀な駒」が要因として大きいだろう。どれも無機質で、冷徹な印象を与える項目だ。

しかしこのように掘り下げると、この項目すらもむしろハイレインの隠れた人間味の表れに思えてこないだろうか。

これこそ、ハイレインの置かれた立場・望むものが叶わない現状への苦しみ・葛藤が一番色濃く現れている項目に他ならないと筆者は妄想している。

「陽動」・「分断」は、いずれも相手の思惑から外れ、意識の裏をかく行為である。思わぬ奇襲によって相手の想定外をつき、動揺を誘い、判断を誤らせることである。優秀で慎重に応対してきた相手の過ちを誘う。それは「ハイレインは人は過ちを犯す不完全なものであることを示すために何度も人の過ちを確認するキャラクター」という仮説にピッタリと当てはまる行為ではないだろうか。

それはハイレインが相手の過ちを確かめるために、相手を策に陥れる行為そのものである。ハイレインが長年指揮官として戦場を指揮してきた中で、最も自身が得意であり成功率が高かったものが「陽動」・「分断」なのだろう。最も相手の過ちを確認でき、安堵できる行為だったのだろう。

おそらく何人もの相手の指揮官をこのお得意の手腕で貶め、罠に嵌めてきたに違いない。何せ指揮10パワーだ。馬力が違う。

優秀な駒について

そもそもこの項目に違和感を覚えた人はいないだろうか?

なぜ「優秀な人」や「優秀な部下」ではなく、「優秀な駒」なのだろうか? 血の通わない無機質な表現をわざわざ選んでいるのか?

もちろんこれは意図的な表現だろう。ならばこれには意味がある。ハイレインを理解する上での大実なパーツである。

この項目についても、先程立てた仮説で筋を通すことができそうだ。

ハイレインは将として作戦を成功に導く役目を背負っている。

ハイレインが「世の中に絶対はなく、人は過ちを犯すものである」ことを信条としているのならば、それは「どのように事前に準備し、策を練ろうとも作戦が絶対に成功することはない」ことに等しい。何故ならば作戦には人が不可欠であり、人は過ちを犯すものだからである。

ならば「確実に任務を成功に導く存在」とはどういうものか。それこそが「優秀な駒」である。「優秀な人」ではない。ましてや「優秀な部下」ではない。人である限り、ハイレインの求める任務成功のための絶対的なパーツには決してなり得ない。

そう、ヴィザでさえも例外ではない。ヴィザは限りなくハイレインの求める「優秀な駒」に近いが、やはり「優秀な人」の括りからは出ないのだ。ヴィザに言わしめれば、「これだから戦いは止められない」ということになるだろうが。

だからこそ無機質な「駒」、血の通わない、与えられた命令を実行するためだけの器をハイレインは求めているのではないだろうか。

あるいは人を駒としてみなければ、情が通ってしまえば扱いにくくなるという戒めもそこには含まれているのかもしれない。その辺りはまだまだ想像の余地がありそうだ。


手段を厭わない冷徹な司令官としての側面も、そうして人を「駒」として捉える視点も、最初から好んでいたわけではなく、そうせざるを得ないからこそ生まれたものだろう。

「穏やかな暮らし」を望むハイレインは本来、非情な手段を好んで使うような気質ではないだろう。

だが現実としてハイレインは冷酷な手段を選んでいる。それはハイレインの「穏やかな暮らし」に対する憧れがいかに強力かを物語っている。喉から手が出るほどに、夢想して苦しむほどに求めているのだ。本来選びたくない手段を取ってでも追い求めてしまうほどまでに「家族」・「穏やかな暮らし」はハイレインにとって重要であり、大切なものであるということだろう。そのためには手段など選んではいられないのである。

だが彼の望むものは得られることはない。血塗られた道の先に「穏やかな暮らし」があるはずがない。

どんなに求め死力を尽くしても叶わないことがある。おそらくハイレインは誰よりもそれを痛感しているだろう。優秀であればある程、自分の置かれている立場がどうしようもないものであると鮮明に認識できてしまう。真に求めるもの、穏やかな暮らしなど到底得ることはできないのだと理解できてしまうのだ。

悩み、苦しみ、葛藤しないはずがない。むしろ今の冷徹な態度は、葛藤しきった末のものではなかろうか。もはやどうしようもないことを理解しつつ前に進むための覚悟は既にできているのだろう。最早最善などとうに諦めており、まだましな悪い選択肢を仕方なしに選んでいるに過ぎないのだ。

これが筆者の主張したいハイレインの持つ精神的な危うさであり、心の歪みである。本来の気質のままでいさせてくれなかったアフトクラトルという環境が生み出した心の軋みである。

冷徹で血が通っていないようでいて、何も感じないようでいて、その実誰よりも深く傷つき苦しんでいるにじゅうきゅうさいのお年頃の青年、それがハイレインなのである。

これこそがハイレインのプロフィールに潜む矛盾の正体なのではないかと筆者は推測しているし、そうであればより一層ハイレインというキャラクターを推さざるを得ないのだ。

まあ何が言いたいのかというと、全てこの一言に尽きます。



ハイレインは、いいぞ。


まとめ

ハイレインの魅力とはすなわち、表面と内情の大きなギャップに他ならない。そのギャップを掘り下げれば掘り下げるほど辻褄が合い、味わいが出てくるキャラクターなのだ。

ハイレインは一見人間味の薄い、感情の欠けたキャラクターに思えるかもしれない。だが実情は逆で、むしろ豊かな感受性を持ち、それが故に苦しみ、葛藤し、もがきながらそれでも前へ進むキャラクターなのだ。立ち止まることを許されず、破滅への道を歩むことを強要されながら。

第⑤回にしてようやく言いたいことの大枠が言えた。無論まだまだ語り足りない細かい部分も多いが、ひとまずは感無量である。

気力があれば更にハイレインと他アフトクラトルメンバーとの関係性や、何故ヒュースを置き去りにしたのか、何故領主なのに角つきなのか、なぜまだ独身なのか、などこの辺りを掘り下げる記事を個別に書いてみたいと思っている。気力があれば。

さて、いかがだろうか? ハイレインに対する印象は変わっただろうか?
少しでもこの記事たちがきっかけになっていれば、これほど嬉しいことはない。

願わくば、これを見てもしも自分も語ってみたいぜ! という気持ちが湧いたのであれば、あなたのハイレイン考察を聞かせてほしい。飛んで行きます。

そしてハイレインerとなり、一緒に見えないものを見よう。
ここまでくればあなたもハイレインer50 Lvまでアップしているはず。
鍛えられたハイレインerならハイレイン隊長の幻覚が見えるはず。見えたら早めに病院へ行きましょう。私と一緒に。


2022/5/10 追記。ハイレイン隊長についての考察をまとめた本が出ました。
よかったら手に取ってあげてね。喜びます。70000字ぐらいあるよ!! なかなかの厚みだよ!

ハイレイン隊長の考察本



見出し画像はmillowさん(https://twitter.com/milowscope)に描いていただきました。感謝。


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