桜に想う
以前、12月の寒い時期に奈良の吉野山に行く機会があった。
個人的には、冬の奈良はオフシーズンで静かなイメージ。実際、その時の奈良も観光客は少なかった。そして、冬の日の平日昼間の吉野山では誰にも会わなかった。
そもそも、吉野山に行ったのは偶然で、その時はたまたま山の上の方まで車で行くことになり、途中で「ここはもしかして、吉野山では?」と気づいた感じ。
急な坂道を登る間、「吉野の千本桜」との呼び名にあるとおり、周りの木々のほとんどが桜の木だったのだろう。頭の中で思い浮かべる吉野山は、満開の桜の木々で埋め尽くされていて想像を絶する美しさだった。そして、冬の日の吉野山はそれと真反対にひっそりとしていて、限りない静寂を感じさせた。
その時はあまりにひっそりとしていたので、静かに咲く桜しか想像できなかった。
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この春、桜の木の横を通りかかった時、「今年の桜は静かだな…」と思った。
花見の季節は騒々しいものだと思っていたけれど、これは人間せいだ。桜はいつも静かに咲いていたのだ。
僕はふと、吉野の千本桜の事を想った。
今年の桜はもしかしたら、冬のあの日のような静けさの中で咲いているのかもしれない。静かに咲き乱れる桜の木々に包まれた吉野山を思い浮かべて、僕は少し酔ったような気分になった。
※4月に途中まで書いて置いてたら、5月になってしまいました…。