マリアージュ

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ありのまま 短編集 ジャズ

ジャズが聴こえてくるから間違いない。私の喫茶店巡りの勘がここなら間違いないと反応した。
ランチタイムのピークを過ぎたせいもあり、店内には数名のお客しかいない。やはり喫茶店はこの時間帯に来るものだ。さらにこの店のことが気に入ってきた。

「ご注文は?」無愛想だが人当たりは悪くなさそうなマスターが注文を聞きに来た。

「アメリカン1つ、それと何か軽食的な物があれば」と私が聞くと「文庫はいかがですか?」と答えてきた。

「文庫?あの、それは文庫本のことですか?」と戸惑いながら聞き返すと「驚きました?丁度材料切らしててサンドウィッチとか作れないんですよ」とニヤりと笑い出した。

「なのでこの前読み終えた短編集が凄く読み応えあるのにスッキリした面白さがあるので是非お読みいただきたいなと思って。すいません、突飛なこと言って」と無邪気な笑顔を見せた。

珈琲と本。私の勘に狂いはなかったことを確信したことと、その笑顔を見たせいか「マスターも本お好きなんですか。実は私も結構読む方なんですよ」と自分も読書好きであることを伝えた。

「そうでしたか。なんかそんな気がしたんです」とマスターも嬉しそうに答え、このやりとりができたことに満足した私はアメリカンと文庫を頼んだ。

しばらくすると「お待たせいたしました」と、アメリカンと濃淡の藍色が美しい表紙の文庫が机の上に置かれた。

珈琲と本、どちらから先に手をつけようか迷ったがまずは珈琲をひと口。美味い、この味で480円は大当たりだ。

珈琲に満足した私は付け合わせの文庫を手に取った。タイトルは赤文字で「ありのままの私へ」と書かれている。

濃淡な藍色に赤文字。主人公の過去に起きた出来事がきっかけとなるミステリーなのかと、ワクワクしながら表紙を捲ると、

「寝相が3日で良くなる方法」

「え?寝相?」と思わず大きな声で言ってしまいマスターが「どうしました?」と近づいてきた。

「あの、これ…」とめくったページをマスターに見せと「あっ!」と私の手から本を取り上げ表紙カバーを外した。そこには燻んだベージュ色の本が現れ「寝相が3日で良くなる方法」と書かれてる。

「すいません!!妻に貸してくれって言われたの忘れてて中身入れ替えてました」と申し訳なさそうな謝り出し、「うちの妻ちょっとズボラなとこあって、表紙傷つくの嫌だなと思って中身入れ替えて渡したんです」と苦笑いで説明してきた。

「あぁ…そうだったんですね…」と珈琲と文庫のマリアージュを楽しみにしていた私はやや困惑した面持ちでそう答えると、

「あっ、でもこれ実践してみたら寝相も解消してスッキリ眠れるようになりますよ」

哀愁のトランペットだけが店内に響き渡った

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