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第2話 「ソロキャンプデビュー」(兵庫県)

自転車日本一周旅〜人生で大切なことはすべて旅で学んだ〜



2日目を迎えた自転車日本一周旅は、あいにくの雨模様。
昨夜は兵庫県明石市の友人宅に居候した。
朝から雨が降っているが、カッパを着込んで、朝10時に国道2号線を姫路方面に進む。
雨と自転車は相性が悪い。
雨粒がメガネに当たり、視界が悪くなる。
自転車のブレーキの効きが悪くなる。
カッパを着込んでも汗と雨でずぶ濡れになる。
荷物も濡れる。
シトシトと4月の冷たい雨が、降り続き、時折り雨脚が強まる。
国道をそれて河川敷に避難する。
兵庫県の中央部を流れる一級河川の加古川と交差する山陽新幹線の高架下で雨宿りをする。
雨が止むのを待つ。
別に急ぐ旅ではない。
雨で濡れた荷物を乾かす。ついでに旅備品を確認する。
生活に必要な衣食住が、自転車の前輪の両サイドのバッグと荷台にくくりつけたバックパックの3つに収まるのだ。
「衣」部門には、パンツ、靴下、シャツなど3日分の着替え。寝間着用のジャージ一式。活動用のキャップ、ジャンバー、トレパン。カッパ、タオル、サンダル。
「食」部門には、ガスコンロ、ガス缶。簡易炊事セット。サバイバルナイフ、水筒。米10合、醤油、ふりかけ、インスタントコーヒー。
「住」部門は、テント、寝袋。敷布団代わりのロールマット。
あとは洗面用具、ポータプルCD、数冊の文庫本、ヘッドライト、自転車修理工具。
前輪右サイドのバッグに、衣服類。
前輪左サイドのバッグに、炊事関連の備品。
荷台にくくりつけたバックパック内にテント、寝袋などを詰め込む。移動式マイホームのようだ。
財布、携帯電話、フィルムカメラなどの貴重品はウエストポーチに収納。

ウエストポーチからノートを取り出し、今後の計画をザックリ立てる。
「日本の東西南北の最端に自力で立つ」と出発前夜に記した次のページに今後の予定を書く。
国道2号線を西方面に進む。
広島県尾道市からしまなみ海道を渡り四国へ。
愛媛県から吉野川に沿って徳島県へ。
徳島港から和歌山港にフェリーで渡り、紀伊半島を周り、名古屋市へ。
名古屋市から岐阜、琵琶湖、福井へ。
兵庫、岡山、広島、徳島、泉大津、和歌山、三重、名古屋、岐阜、福井の友人知人宅を訪れ、居候させていただく予定。
福井からは、日本海沿いを一気に北上して、青森県から北海道へ。
梅雨に入るまでに北海道に上陸し、夏の北海道を満喫する。
途中、日本最北端、最東端を抑える。
秋の気配を感じる頃、再び本州を太平洋側に沿って南下。
冬は沖縄。
日本最南端、最西端を抑える。
あとは成り行き任せ。
日本百名山にも挑戦する。
夢が実現する可能性があるからこそ、人生は面白いのだ。

雨がなかなか止まない。
本日は雨が凌げるここの高架下でキャンプをする。
人生初のソロキャンプだ。

まずはテントを設営する。
テントは、mont-bells製のムーンライトテント3型だ。
ムーンライトの名の通り、月明かりの中でも素早く設営できる優れもの。
またインナーテントとフライシートの隙間に余裕があるため接触がない。結露したフライシートの湿気でインナーテントが濡れることがない。雨対策も大丈夫だ。
耐風性にも優れ、難燃加工が施されている。
さてテント袋から備品を取り出す。重量は約4kgほどだ。
テント袋には、フライシート、インナーテント、フレーム、ペグが入っている。
まず本体となるインナーテントを広げる。テントの面積は2m×1.5mほどだ。大の字になって寝れるほどのスペースがある。3型とは要は3人用のテントだ。
フレームはショックコードなので、プルプルっと振るだけで、ほぼ骨組みが出来上がる。
フレーム内部に納められているゴム紐が伸縮するショックコードは、少し手を加えると一本のフレームになる。
フレームは自立式だからポールを手で支える手間もない。
インナーテントは自立したフレームに対して吊り下げるだけなのだ。
フレームにフックを掛けて、インナーテントの四隅のピンにフレームを差し込む。
フレームの白いソケットに、インナーテントに付いているゴムを引っ掛けるとインナーテントの出来上がり。
簡単に素早く立ち上げることができた。
おお、さすがモンベル。
そこに雨よけのフライシートを被せて、四隅のピンに引っ掛ければ、ムーンライトテントの完成だ。
地面が土なら、ペグを打ち込んでテント全体を固定する。しかし高架下は、コンクリートだ。荷物をテント内の四隅に置いて風で飛ばないようにする。
所要時間約10分。
ほおお、これは凄い。

テントが完成した次は食事だ。
ガスコンロは、五徳付きシングルバーナーを採用した。
ガス缶の燃料が無くなれば交換できるカートリッジタイプだ。
米とふりかけ、少しの調味料を持参している。
早速、米を炊く。

「あっ、水がない。」

細々した荷物も一旦テント内に全て入れ込む。
自転車で近くのコンビニへ買い出し。
飲料水、ビール、雑誌、缶詰を購入。
水と米の割合は1対1にして、ガスバーナーに火をかける。沸騰したら、弱火で10分。
うまく米が炊けた。
ソロキャンプデビュー飯は、ふりかけごはんだ。

「あっ、箸がない。」

もう雨の中、買い出しに行きたくない。
おお、ペグがあるじゃないか。
新品のペグをスプーン代わりにして飯を食う。
さっさと後片付けをする。

「あっ、食器洗剤とスポンジがない。」

結構、足りないものがあるものだ。
100円ショップで買い足すことにしよう。
早々にテント内で過ごす。
沈む夕日に夕焼け雲。大自然に身を委ね、焚き火の炎を見つめ、ウイスキーなどを煽りながら、人生を考える。
こんな絵を描いていた。
しかし今は雨で寒い。防寒着も必要だった。
足りないものだらけだ。
でも俺は後悔はしていない。
それどころか高鳴る胸の鼓動が抑えられない気分だ。
これから本格的に始まる人生の黄金時代にワクワクが止まらない。
何事にも縛られることがない。自由なのだ。
自分の時間を自分の人生を自分の自由を満喫できるひとときが始まろうとしているのだ。
自分で生活を切り開いている充実感。
人生の決断と選択は自分の意志で行わねばならない。
人任せの人生は、成功の喜びが十分の一に、失敗に後悔が十倍になるからだ。

気持ちが高揚しているのか、なかなか寝付けない。
深夜1時だ。
ふと気づくとテント周辺に何かがいる。
雨音と共に何かの気配を感じる。
ナニモノカがテントのすぐ横にいるのだ。
聴覚を全集中して呼吸を整える。
テントのファスナーを開けて外を確認れば済む話だ。
しかしその勇気がない。
怖いのだ。
テント内から、シートを揺すったり、コラっと威嚇する。
恐ろしいナニモノカがいる。
風か。
盗っ人か。
高架から滴り落ちる雨音か。
分からない。
確認しようにも恐ろしくて身動きが取れない。
丑三つ時じゃないか。
誰か、ここで入水自殺でもしたのか。
結局、恐ろしいナニモノカにビクつき一睡も出来ないまま朝となった。
雨は上がり、河川敷を散歩している人がいる。
複数人の足音と会話から察することができる。
周囲も明るくなった頃合いを見計らって外を覗く。
原因が判明した。
ネコだ。
野良ネコの親子が、昨夕の残飯をあさっていたのだ。
ネコはネコで、得体知れないテントにビクつきながら恐る恐る控えめに鳴き声も出さずにご飯粒のついた食器をなめていたのだ。
ネコも恐ろしいナニモノカに怯えながら、長い夜を過ごしていたのだった。

人生初のソロキャンプはほろ苦デビューとなったが、自転車日本一周旅の確かな一歩を踏み出した。
一歩を踏み出せばあとは加速するだけだ。
待ってろよ、ニッポン。

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