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第12話「宿、食、時々ピースサイン」

自転車日本一周旅〜人生で大切なことはすべて旅で学んだ〜


旅のアルバイトは楽しさ一杯だ、と決め込んで発作的に転がり込んだ33日間の礼文島民宿仕事も、どうやらこうやら終了した。体重は7キロ落ちた。十分な休養(?)と資金を蓄えた自転車旅は、日本最北端「宗谷岬」を制覇し、旅人に優しい北海道を駆け巡る旅となる。
北海道の地形はひし型に似ていて、頂点が宗谷岬。

宗谷岬からオホーツク海を左に道東方面へ進む。
見どころ満載のちょっと遅めの夏の北海道を満喫する。北海道と言えば、自然、旅人、温泉、食、宿などが定番だ。
特に宿泊地はユニークで多様だ。北海道でシティホテルやビジネスホテルに泊まるのは、もったいない。
旅人なら、とほ宿、ライダーハウス、キャンプ場がオススメだ。
お金をかけなければ野宿もできる。
「とほ宿」とは、北海道版ユースホステルのような存在。男女別相部屋が基本で、30人以下の比較的小規模。宿主の多くは元旅人。その土地の自然や人たちに惹かれて宿を始められている。旅人に喜んで泊まっていただくような心配りがなされている。1泊2食付きで5000円〜6000円程度と低料金。
「ライダーハウス」には、隣接してボリューム満点の格安食事処がある。0〜1500円程度。
「キャンプ場」は、0〜1000円程度。温泉地がある側を選ぶのがいい。

ここでオススメ宿の紹介。
とほ宿「吉里吉里」。
ここにはライダーズ名鑑というものがある。旅するライダーたちの記録が、1981年から今までの間、約3万7千台のバイク&自転車が記録されている。
とほ宿「トシカの宿」は、浜頓別クッチャロ湖畔に佇む小さな宿。夕食はジンギスカン食べ放題。一つの鉄板を囲み、肉をひっくり返しながら生ビールを飲む。その後カンパタイムなるものがあり、数百円で飲み放題、旅人情報交換の場がある。


道の駅「興部(おこっぺ)」。
列車2両を改造して宿泊施設として提供。もちろん無料である。


ライダーの宿「白樺」。
名物のチャンチャン焼き。シャケ、イカ、ホタテ、海の幸を豪快に焼いてたらふく食べさせてくれる。宿泊料1000円、夕食2500円。


とほ宿「きりたっぷ里」。
噂通りの豪華な夕食だった。宿泊者はテーブルを囲み、主人は新鮮なネタを握りカウンター越しにどんどんとハイヨッと握ってくれる。
寿司はイカ、サーモン、いくらイカのはらわた、穴子、帆立、赤貝など多彩。
主人曰く一人三人前は握ったと嘆いていた。それでも食い足りない者には余った素材をぶち込んだチラシ寿司を作ってくれた。これで一泊5500円。

「クリオネキャンプ場」。
テント一張り700円。キャンプ場にしては少し高めだが、源泉掛け流しの温泉が2つあり、24時間いつでも入浴可能。湯はかなり熱い。雨に濡れた冷えた体は、温泉に少し浸かると体の芯からあったまった。

このようにお世話になった宿だけでも多種多様だ。
そして、大自然に囲まれた大地の上でテントを張る野宿生活は、言葉では言い表せない開放感がある。

魅力的な宿を転々としながら、国道238号線を道東方面に進路を取り、旅のピースサインを繰り返す。
ピースサインとは、行きかう道路ですれ違う瞬間、右手を高らかに上げてVサインをして、ライダー、チャリダーにエール交換を行う行為だ。
このわずか数秒の一連の動作には、「おお、キミもはるばる北の大地のここまでやって来たのだね。今日も素晴らしい旅を祈ります。グッドラック♩」と、互いの健闘を称え合う旅人の儀式なのだ。

ここで自走式旅行者ならではの超オススメ宿とそれを満喫するシチュエーションを紹介。
北海道に入ってから旅人情報交換で得た宿を目指す。
オホーツク海に面したサロマ湖畔の「船長の家」だ。
予約必至の低料金でたらふく北海道の恵みが堪能できる宿泊施設。

青い空。白い雲。北海道のでっかい空をゆったりと流れる雲。
優雅な景色とは裏腹にジリジリと気温は上昇中。
この日も朝からとても暑かった。
この時期、北海道では珍しく30度を超える日々が続いていた。
礼文島の民宿アルバイトを終えた後、稚内市から海沿いに走り続け、顔、腕、脚が真っ赤に日焼けしている。
道の駅「おこっぺ」から約100キロ先の船長の家を目指す。
あらかじめ予約を入れていた。
こういう本日の宿泊地が確定している場合は、朝昼食は抜きだ。食費を浮かすためでもあるが、万全を期して夕食に臨むためである。
どちらかといえば水分もあまり摂取してはダメだ。しかしこれだけはあまり極端なことをすれば熱中症、脱水症の危険性があるからそのギリギリを狙う。
ペダルを漕ぐと水分は汗となって流れていく。
100キロの道のりを進むには、少なくとも5時間ペダルを漕ぎ続けなければならない。
ざっと1日4〜5ℓの水分が失われていく。その分の水分は定期的に補充しなければならないが、ぐっと辛抱する。上手いビールを飲むためだ。
途中、あまりの空腹で倒れそうになる。
自分に言い聞かせる。
「上手い夕食を食うためだ」。
喉がカラカラになる。
「冷えたビールを飲むためだ」
水分は摂取しなければならないが、15時以降はシャットアウト。
空腹になる。喉が乾く。楽しみが待っていると言い聞かせる。
それを2、3回繰り返し、ようやく船長の家に到着。
まず。温泉に浸かって汗を流す。
夕食までしばし時間がある。昼寝でもしようかと思うのだが、空腹すぎて寝れない。
18時40分。
ようやく待ちに待った夕食タイム。
夕食は修学旅行などで馴染みのある食堂スタイル。
各々の席には、カタカナで書かれたネイムプレートと共に豪華料理の数々がデンと所狭しと置かれている。
軽く数えただけで13品はある。
毛蟹一杯、ズワイガニの脚4本、カニ鍋、帆立の焼き物、酢の物、豆腐と蟹のあんかけ、アナゴ煮、蟹ご飯、蟹サラダ、焼き蟹、貝焼、蟹汁、夕張メロン、その他3品ほど。
ほとんどの人はその圧倒的ボリュームにしばらく声を失い、その品々をカメラに収めていた。
人は予想を超える感動に出会った時、しゃべらずにはいられなくなる。
口コミの原型だ。評判通り旅人情報交換で得た内容に納得。
手当たり次第、瓶ビールのグラスを片手にひたすら海の幸を食べ続ける。
燃料タンクにガソリンを給油するが如く、カニ、ホタテ、貝、刺身など次第片っ端から、新鮮なエネルギーを身体に蓄えていく。
ガス欠寸前だった身体に栄養を注ぎ込み、フル充電完了。
さらに給油するも燃料オーバー。
空腹すぎた僕でも、毛蟹の脚を半分残してしまったほどのボリューム。
これで一泊2食付きで5980円。


人生を楽しくするには、仕掛けが必要だ。
その仕掛けを、計画の中に散りばめておくと、人生がキラキラし始める。
頑張った自分に細やかなご褒美をあげる感覚で。

たとえば、「コップの水を飲む」。
気温30度を超える猛暑の中、生温い水を飲んでも上手くない。
氷でキンキンに冷やして飲む水はきっと美味いだろう。
更に30分ほどランニングと筋トレをした後に飲み干す水は格別だ。
頑張り度合いに応じて、水を炭酸水に変える。ビールに変えた日にゃあ、至福のひと時になるってもんだ。

人生が面白くなる仕掛けをいくつか用意しておいて、目の前に起こることは、神様からの問題集と解釈して楽しみながら、それを乗り越えていく。

さあ、腹も充分満たされた。
いよいよ世界遺産「知床半島」はもうすぐだ。

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