PBFDファクトシート(その3) 臨床的症状

PBFD研究の第一人者である Branson W. Ritchie 博士により、2011年に執筆され、2013年に更新された PBFD Factsheetの翻訳を試みます。このノートでは、「臨床的症状」の項目を訳します。この項目では、まず症状の概要が語られた後、最急性・急性の症状と慢性の症状の説明があり、最後に病鳥の管理やPCV-1とPCV-2の違いについて触れられています。

(公開順を間違って、その3がその2より先になってしまっています。お許しください。)

症状の概要

PCV-1に感染した大部分の鳥は、一過性感染(transient infection)を起こす。この一過性感染は、全血(whole blood)の中にウィルスのDNAを発見することによって、検出することができる。
大部分の感染した鳥は、感染後に適切な免疫反応を起こし、識別可能な臨床的変化を起こすことなく、このウィルスを排除する。
管理されていない(検査を受けていない)個体群では、感染自体は比較的よくあることと考えるべきだが、その一方で病気の発症に至ることは比較的に稀である。

最急性・急性型

最急性型と急性型は、一般に、幼い雛に起こり、嘴や羽とは関係のない症状で始まるだろう。病気になった鳥はしばしば抑うつ状態となり、そのうの食滞(crop stasis)により嘔吐する。下痢の原因となる腸炎や肺炎が起きることもあり、羽や嘴の傷害が出ることなく、死ぬ。
この最急性の病型は、ヨウムにおいて、特によくあらわれる。最急性の病型が出たヨウムは頻繁に急性の肝臓の壊死により死に至る。

急性型では、既に完成している羽の(PCV以外の原因による)異常は、( pulp cap (羽髄(pulp)が後退した後に残る羽軸根(calamus)内の空洞)から羽の基底部(feather base)までの部分の)発達しつつある羽の異常と区別されるべきである。目に見える、発達中の羽の異常には、羽鞘(feather sheath)が開かないこと、羽軸根の空洞内における出血、短く変形した羽毛、羽の基底部で羽が円形状に収縮し、開かないこと(circumferential constrictions at the feather base)がある。病変した羽にはストレスラインが見られることがよくある。病変した羽はしばしば、抜けやすく、壊れやすく、出血することがあり、ほんの少し触っただけで痛みを引き起こす。一部の雛は、羽の異常が最初に出てから数日から数週間で死ぬ。生き延びて、慢性疾患へと進行する雛もいる。

慢性型

風切羽(remige)と尾羽(rectrix)が伸びた後に羽の異常を示す鳥において、新しく発達中の粉綿羽(powder down)と正羽(contour)が最初に臨床的な変化を示す部位である。これらの羽における目に見える変化は上述したものと同様である。ラブバード以外のオウム類では、PCV-1と関連する羽の傷害は換羽のたびに悪化していき、もしもその鳥が何年間も生き延びれば、羽嚢(feather follicle)が損傷し、羽の生えかわりが妨げられてしまうので、その鳥は大部分もしくは完全に羽毛がない状態になるだろう。

一部の病気の鳥で、嘴の異常が起きることがある。典型的な場合、この異常は、最初は、上嘴鞘(rhinotheca)の内側に茶色っぽい壊死した部分が現れることから始まる。病変した嘴は伸張することがあり、変形が悪化していき、折れる。嘴が壊死した部分では、二次的な嘴もしくは口内の感染症がよく起きる。壊死が起きずに嘴の伸張が起きる鳥もいる。一部の鳥では、爪も変形したり、脱落したりすることがある。

慢性型のPBFDの鳥は数か月から数年間生きることがある。病気が進行すると、おそらくは免疫抑制と関連がある臓器障害が起き、通常、二次的な細菌感染、真菌感染、寄生虫感染やその他のウィルスの感染が原因で死ぬ。

病気の鳥の管理・PCV-1、PCV-2

PBFDの鳥は、かなりの量の、極端に環境的に安定したウィルスを脂粉(feather dander)に放出するので、直接的・間接的に他の鳥と接触がある環境(禽舎や病院)に置かれるべきではなく、直接的・間接的に他の鳥と接触がある世話人によって管理されるべきでもない。

PCV-1による慢性疾患にかかっている旧世界の鳥の回復が報告されたことはない。PCV-1と比較すると、PCV-2は臨床的にPCV-1ほど悪性ではないように見え、軽症の羽の異常があらわれたローリーとロリキートで、羽毛が正常に戻ったことと血中にウィルスのDNAが検出されなくなったことにより、回復したと示されたことがある。PCV-2の病型は、ローリーとロリキートにおいて単型(monotypic)の感染としてのみ報告がある。比較すると、他のオウム類、特にラブバードは、PCV-1とPCV-2の両方に感染した報告があり、PCV-1の悪性度を変化させることや典型的な疾患の進行において、PCV-1とPCV-2の同時感染が果たす役割はまだわかっていない。

[Notes 訳者覚書]

PCV-1 と PCV-2

PBFDの原因となるウィルスのpathotype(病原型)には、PCV-1とPCV-2の2種類があります。psittacine circovirus の p,c,vをとった略語です。

このウィルスは、beak and feather disease virus の省略で、BFDV、BFDとも呼ばれてきました。BFDは、avian polyoma virus が原因である Budgerigar Fledging Disease の省略でもあるので、すごくややこやしいです。ちなみに、現在、いわゆる日本でいうところのBFD(セキセイインコ雛病)は、APV(avian polyoma virus)と呼ばれていることが多いようです。

原文からは、PCV-2 の方が、発症しても軽症で済む傾向があり、回復も見込める……と読み取れます。PCV-1とPCV-2のどちらに感染しているかは、治療や看護、隔離等の関係でとても重要なのですが、残念ながら、日本での検査では病原型まではわからない……少なくとも患者のもとには知らされない……ようです。また、血中内にPCVが存在しているかどうか(陽性か陰性か)を判定する定性検査だけではなく、血中内のPCVの量を測る定量検査も開発済の筈なのですが、これも日本ではまだ出来ないそうです。

定性検査と定量検査の違い

血中内のウィルスについての検査の場合、定性検査では陽性か陰性かしかわかりません。定量検査では、血中内のウィルスの量がわかります。

仮に「まだ陽性ではあるが、治療の成果、病鳥の免疫強化等により、血中のPCVの量が減ってきている」という状態であった場合、定量検査であれば、血液内のウィルスの量が減っていることがわかるので、鳥がPCVに打ち克ちつつあると判断できます。定性検査では「未だに陽性です」ということしかわかりません。

日本でも定量検査が早くできるようになることを期待しています。

PCV-1・PCV-2と短羽脱落型・長羽脱落型の関連

PBFDには長羽脱落型(風切羽・尾羽などの長い羽根のみ抜けていく)と短羽脱落型(短い羽根も抜けていく)の2種類があると言われてきましたが、このふたつのタイプの違いとPCV-1、PCV-2との関連については資料を見つけられずにいます。
(素人の印象としては、PCV-1=短羽脱落型ではないか?という気はするのですが。)
「長羽脱落型」「短羽脱落型」という区別は日本語情報でしか見たことがないので、日本の研究者・獣医さんの情報発信をお待ちしたいと思います。

PCV-1感染の旧世界の鳥の回復が「報告されたことはない」

原文: Recovery of Old World psittacines with the chronic disease associated with PCV-1 has not been documented

"has not been documented"「回復が書面(=論文、学会発表など)の形で報告されたことがない」ということなので、それがすなわち「回復した事例がない」ということには必ずしもならないと思います。また、これはPCV-1の方の話です。

日本でも様々なブログ、SNSなどで、羽の症状が出ていたセキセイインコの陰転が報告されていますが、その飼い主の方、または主治医であった獣医師が論文を書いたり、研究発表をしたりしなければ、"documented"されたことにはならないんですね。(あと、羽の症状が出た後の回復の場合、PCV-2からの回復例が多いのではないかなという印象はあります。あくまでも、素人の印象です。)

ローリー、ロリキート、セキセイインコ

PCV-2感染のローリー、ロリキートの回復例は報告(documented)されています。

実は、ローリー・ロリキートは遺伝的にセキセイインコに非常に近いことが近年の研究でわかっています。

(たとえば、https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/16099384 のような論文が発表されています。要旨しか閲覧できませんが、ローリー、ロリキート、セキセイインコ、クサインコ、ラブバードはあるひとつの遺伝子のシークェンスを共有しており、ひとつのグループに分類しえるとのことです。)

セキセイインコがPCV-2から回復したという事例は未だ報告(documented)されてはいないようなのですが、遺伝的に近いローリー・ロリキートのPCV-2からの回復事例は認められていますし、セキセイインコのPCV-2からの回復事例も報告されていないだけで世界中であるのでは?と思ったりします。



まだまだ続くんじゃ……




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