非公式エンディング

※なんとなく適当に書いた物なのでこれが公式設定という訳ではないです。

 モノクロの遺影にははっきりとした白と黒のコントラストが配置されている、生前の彼の表情を見て取る事は困難だったがどことなく笑っている様に見える「彼の上司だったそうで」と巨大な円筒に二本の棒がにゅっと伸びたフォルムの鶏が語り掛けてくる。言語症と呼ばれる病にかかった動物は人の言葉と人並みの知能を得る代わりに元の生物としての生活を失う、遺影の彼と同様に目の前の彼も人間社会で生きていく事を強いられた犠牲者なのだろう。そんな彼に私は「優秀な奴でした、いつかこんな時が来るとは思っていましたが、こんなに早いとは」と答えた。「僕はひよこの頃から可愛がってもらいました、父とも仲良くして頂きましてとても感謝しています」モノクロの遺影の隣には目の前の鶏とそっくりの遺影が置かれていた。

 私はペンギンの上司だった、ある時期を境に人の言葉を覚えた動物が現れる様になり、それらの動物は高すぎる知性故に元の群れで暮らす事が出来なくなり渋々と人間社会で暮らす事になったのだが、人間社会で暮らすには身体的に不利でありそういった生物を保護する目的で実験的に動物を雇用する事を政府が推奨した流れで私はペンギンの上司になった。当時働いていた会社は政府の助成金目当てで雇用したらしいがペンギンである彼は勤勉で良く働いてくれた。職務上度々ぶつかる事はあったが彼が優秀であった事は間違い無かった様に思う、そんな彼が死んだ。彼と同じアデリーペンギンの寿命は20年だと言われている、彼と付き合った期間を思えば天寿を全うしたであろう事が伺えた。

 葬儀は質素な物だった、社会的に観ると喋れる動物というのは希少なので知人というのも少なかったのだろう、身寄りの無かった彼に葬儀を行える知人がいただけでも奇跡的な事なのではなかろうか?「彼の最後はどんな感じだったんですか?」と目の前の鶏に尋ねると「眠る様に逝きました、理想的な最期だったのでは無いかと思います」と返って来た。

 私がそのペンギンに最後に会ったのは動物病院の一室だった。ベッドの上に横たわっていた彼からは一緒に働いていた時の強さを全く感じる事が出来なかった、そんな彼が「何しに来やがった」と私に語り掛ける「会社を作ったんだ、お前みたいな動物を雇ってやっていこうと思ってな」「やめとけよ、どうせブラック企業なんだろう?」「そうならない様に頼みたい事があってな」「なんだ?」「お前が元気になったらうちの会社で働いて欲しいんだ、うちがブラックにならない様に監督して欲しいんだ」「……良いだろう、それなりのポストは用意してもらうから覚悟しろよ!」結局その約束が叶う事は無かった。

 滞りなく葬儀が終わり後片付けの手伝いを終えた私は喪主である鶏に挨拶をした「良く上司であるあなたの話をしていました。なんだかんだで彼、あなたの事が好きだったんだと思いますよ」と言ってきたので「そうですね、そうだと良いですね」と答えた。

 葬儀の帰り道ペンギンが好きだった魚を買って帰ろうと思い彼が良く利用した魚屋に寄って帰る事にした、店先で怒鳴り声が聞こえる「あぁそうかい!こんな店こっちから願い下げだね!!」と言いながら飛び出して来たのはまるで彼そっくりのアデリーペンギンだった私は彼に声をかけた「どうしたんです?」「いやなに、この店の店員だったんだが魚の味見をしたら店主が怒りやがってな、気に入らないからこっちから辞めてやったってだけの話さ」「魚の味見?」「あぁ、客に物を売る以上不味い魚は売りたくないからさ、絶対に必要だと思うんだよ」理屈っぽい所が彼にそっくりだったそう思ったらいつの間にか口にしていた「ねぇ君、仕事が必要ならうちで働く気は無いかい?」「なんだあんた社長さんなのか?動物なんか雇っても良い事ないぞ」「かつて君の様なペンギンと一緒に働いていたんだけど、良い事はあったよ」「ほう?どんな?」

 動物病院の一角のベッドの上で弱々しく横たわってる彼が僕に目を向け「よぉ、あいつとそっくりになって来たな」と語り掛ける「自分ではわからないけどそうかな?」「あぁ立派な鶏になった」「そうかな?そうだといいな」「俺が保証するよ、ところでさ俺が死んだ後」「縁起でもない」「まぁ聞けよ、俺が死んだ後多分上司が来ると思うんだ」「あのいつも話してる?」「そうだ、あいつが来たらさ、これを渡して欲しいんだ」と封筒入りの手紙を僕に差し出した「わかった、預かっておくよ」とそれを受け取ると彼は安心したように眠りについた、あまりに安らかな顔だったからそれが彼の最期だとは全然思わなかった。

 私は魚屋の前でペンギンをヘッドハンティングしていた、我ながらシュールな状況だなと思う「なんだあんた社長さんなのか?動物なんか雇っても良い事ないぞ」「かつて君の様なペンギンと一緒に働いていたんだけど、良い事はあったよ」「ほう?どんな?」「友達がいなかった私にも友達が出来た」「なんだあんた社長なのに寂しい人生なんだな」「それでどうだい?うちで働く気は無いかい?」「いいよ、どうせ全うな仕事を探すのは大変だし、なんだかあんたについていくのは面白そうな気がする」「パンダもいるよ」「パンダってあの白黒の?」「君もそうだろ?」「違いない、白黒コンビってわけか面白そうだな」「きっと面白くなるはずさ」

 ポケットには彼からの「すまん、約束果たせそうにない」とたどたどしい文字で書かれている手紙が入っている。その手紙が入っていた封筒には「友へ」と大きく書かれていた。

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