見出し画像

さよなら長屋。

またまた前回の投稿からずいぶん経ってしまった。
日記どころではないドタバタの日々にかまけて半年が過ぎたらしい。

私の店は2023年4月3日で墨田区八広での営業を終え、本日4月16日に退去が完了した。

私の店の他に、2階にはゲストハウス、壁を隔てた隣には友人のオフィス、その2階は別の友人の住居と、友人に囲まれたゆかいな長屋ライフだった。
入居者が1組また1組と退去していく日々を見守りつつ、ついに私が退去したことでもぬけのからとなった建物に今日、さよならをしてきた。

不思議なもので、人がいなくなるとそこは空っぽの場所で、魂のようなものが感じられなくなる。
みんなが退去した部屋を見たらすごく寂しくなるのかな、と思っていたけれど、本当に驚くくらい、さっぱりとした気持ちだった。
数ヶ月前には友人とご飯を作って食べていた部屋も、けん玉がずらっと並んでいたオフィスも、国内外あちこちからのゲストを泊めた部屋も、ただただそこにある知らない空間でしかなかった。それは初めてこの建物を内見に来た日の感覚と似ていた。
友人の部屋の家具、オフィスの机や壁一面にディスプレイされたけん玉、畳の部屋と布団、みんなで囲んだ長机。全て持ち出されて何もない空間に寂しさを感じることはなかった。人の記憶は物に宿るのかもしれない。

持ち出したと言えば、建具やカウンターや壁のタイルなど、外せるものはなんでも外して移転先へ運び込んだ。
素人ひとりだったら諦めていたであろうものまで外してくれて、職人の友人には感謝してもしきれない。
どう使うかはこれから考えるものもあるが、今までうちの店を愛してくれた人が移転先に来てくれた時に、前の店のことを少しだけ思い出して親近感を持ってくれたら嬉しい。

最後に建具を取り払った外観を眺めていたら、思っていたよりもさらに鴨居が建物の中央に向かって下がっていて、63年も頑張ってくれてありがとうという気持ちになった。
ものや動物を擬人化するのは好きじゃないけど、なんだかずいぶんくたびれて見えた。

そして、散々寂しくなかったエピソードを披露したが、もちろん寂しい。
立ち退き騒動に踊らされたこの8ヶ月、最初から最後までずっと寂しかったし、新店舗が始まってもその寂しさは無くならないんだろうと思う。
やり切った、満足した。そういう区切りを自分でつけたわけではなかったから、ここにわざわざ書き残したくない感情も抱えたし、「今後のことを考えればいいタイミングだったのかも」と口では言いつつ体の良い口実で取り繕っているだけだということも分かっている。

とはいえ恨み節も湿っぽいのも好みじゃないので、ここまでにしておこう。
私の感情は私だけのもの。
同じように、私の店に対して誰かが思ってくれた感情がもしあるなら、それもまたその人だけのもの。

最後になってしまったが、京島でお店を始められて、本当に良かったと思っている。
10代の頃からそれだけを目標にしてきた人間に、場所と縁を与えてくれた京島の地域がこれまでもこれからも大好きだ。
(ずっとコンプレックスなのだけど、どの職場でも上司や先輩とうまくいかなかった。だから、やっと心安らかに働ける初めての職場だった)
同じように店を経営している人の中には、地域にも店にも、自分の仕事にも執着のない身軽な人もいるけれど、私にはこれしかない人生だし、場所がなければ出来ない仕事で、場所は地域に与えてもらっているものだと思っているから、やっぱり地域との関係あっての自分の仕事であり人生だ。

次の場所でも楽しく良い仕事ができますように。
さよなら、長屋。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?