営業と日本語教師1

ぼくは以前、集客や求人の広告営業の仕事をしていた。
日本語教師になってから思うのは、営業職の経験はずいぶん役にたっている、ということだ。

大きな会社ではなかったし、ましてやバブルが崩壊してから何十年も経っていたので、ノリと気合いと根性でどうにかなるような仕事ではなかった。

営業といえば体育会系というイメージだったので、自分には向いていないと思っていたが、やってみると案外楽しくて、それなりに良い成果を出していた。

あれから数年。
日本語教師になって、あちこち駆け回っていた日々は遠くなってしまったが、営業をしているような気分になることは、今でもある。営業と日本語教師の仕事は、実は似ている点がいくつもあるのだ。

ポイント その1
教案=営業トークのスクリプト

テレアポはもちろん、訪問営業の際にも指針となる営業トークのスクリプトがあった。アイスブレイクにはじまり、クロージングで幕を閉じる脚本だ。

ぼくも新人の頃はそれを覚えさせられ、先輩相手にそのとおりの練習をさせられた。
が、実際現場に出てみると、まったく役に立たないことが分かった。

お客さんは、営業マンを何人も見てきたベテランの営業評論家だ。こちらが脚本に乗って喋っているかどうかなんて、すぐ分かる。

加えて、お客さんの側にもその日のコンディションというものがある。気分や景気、その他いろんな要因で、こちらへのガードの仕方が変わってくる。人間だから当然だ。

授業だって同じことが言える。教案のとおりに授業をすれば、一応やることはやった、という気分になるかもしれないが、良い授業だったかどうかとは別の問題だ。

営業も授業も、相手がのめり込んで、こちらの言いたいことが伝わることが大事なのだ。

そして、そんな営業トークをするときには、脚本はむしろ邪魔になるくらいなのだった。営業の仕事も授業も、大切なのは実は話すことではないのである。

つづく

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