事業再生でよく聞く“プロラタ”今さら聞けない
事業再生の会議の場に出ると、あちらの金融マンも「このプロラタ」、こちらの信金マンも「プロラタの根拠」、あそこの専門家も「プロラタで良いですか?」と、みんなプロラタ、プロラタと話しています。
あまりにプロラタという言葉が当たり前に飛び交うので、「プロラタって何ですか?」と今さら聞けない、そんなあなたへ向けた内容です。
proratable『比例配分できる』が語源です。
債権残高に応じて債権者へ比例配分する方法で元本弁済額を計算する方式のことをプロラタ弁済と言います。
「なんだそんなことか!」・「プロラタなんて言わず、比例配分するって言えば良いじゃないか」と思わないこともありませんが、事業再生では「プロラタ」と日常的に使われる用語です。
ただ、プロラタと言いましても、奥深い要素もあります。プロラタ方式には大きく二つの方法があります。「単純プロラタ」と言われる“残高比例方式”と「非保全プロラタ」と言われる“保全控除後裸与信への比例方式”の2パターンです。
簡単だと思ったのに、急に難しくなってきたかと感じるかもしれません。安心して下さい、私は事業再生歴17年と長いですが、非保全プロラタをまとめたのは1回だけです。主として単純プロラタが選択されます。
関係者に広くインタビューしても、被保全プロラタは比較的昔の再生案件でまとめられることはあっても、近年での再生案件ではめったにみないとの事です。
では、なぜ非保全プロラタが難しいのでしょうか?計算にあたって被保全金額として控除する、保全に対する時価評価が難しいからです。プロラタ弁済を再生案とする際は、私的整理による債権者の総意により決定しますので、誰もが理解納得でき簡便な方法が望ましいのです。
では被保全プロラタの計算根拠がなぜ難しいか考えてみましょう。
担保として良く提供されている土地建物の時価一つとってみても、路線価は毎年変わりますし、時価も変動があります。建物は当然劣化します。それらを加味して評価するのか?課題が残ります。
担保として他には、株券への質権設定や譲渡担保契約も多いですが、これも時価が変動します。上場企業株式はそれこそ毎日時価が変動します。上場企業では無い場合は、評価方式が多数ありどの方式で評価するか?その評価にあたっての決算書は、内容が正しいと保証ができるのか?と課題が残ります。
担保としては更に、売掛債権譲渡担保契約なども想定できます。ただし、売掛債権の金額は毎月の請求金額により変化します。毎月保全金額は商売の状況により変わりますが、保全金額としてみるのはいくらが妥当か?など課題が残ります。
このように、非保全プロラタをまとめるときは、残高から控除する保全の計算方法についてまでも、合意しなくては成立しないのです。
ちなみに非保全プロラタのまとめ方という、資料や書籍は存在しません。非保全プロラタとは保全控除後の債権残高に対して比例按分して返済するくらいの解説しかないと思います。
私的整理は自由設計。債権者全ての合意がなされる限り、様々な案が成立する可能性があります。しかし、皆さんを説得する合理性が大事です。
担保の多くはメインバンクに提供されています。私的整理はメインの協力が必要ですが、非保全プロラタはメインへの返済額が減ることが多い返済案です。債権額の比率の多くを保有する重要な利害関係者が不利な話を全員合意でまとめることが簡単に感じますか?私は難しいと思います。
また、担保部分の返済を受けないとして、いつまでも返済を受けないと債権者として困ってしまいます。債権者として返済が得られないのであれば、担保を実行して、回収して良いのか?それが債務者の事業再生のためになるのか?と言う論点があります。
ちなみに、保証協会による保証は責任共有割合で80~100%という高い割合で確実な代位弁済を受けられますが、保全として考えてよいのか?も議論されます。多くの場合、債権者と保証協会が返済を応分に充当すると定めているため、被保全プロラタとして保証協会分を控除すると、債権者自身の回収金額を保証協会へ案分する必要が出る為、プロパーの回収が遅れるという内幕の問題があります。このように保全として確実な部分でさえも、様々に議論があります。
私が過去に非保全プロラタをまとめた案件は、メインバンクがリスケを理由に手形を割り止めしたため、資金繰りに窮してしまった。下位行が資金繰り破綻を回避する為、本来メインが負担を検討すべき所を割引して支援すると申し出てくれた案件でした。メインは企業の破綻は困るが、積極的な支援もできないとの、狭間で自分の権利を応援できない分、劣後させるという趣旨で非保全プロラタを受け入れた。資金繰り破綻危機を回避し、結果としてこの下位行はプロラタで有利に返済を受けたため早期に完済することもできました。
この案件では、非保全プロラタをまとめた際の保全額の計算方式として、毎年不動産担保の土地価格を路線価で洗い替えして控除(建物は評価外とする)、株式への質権設定は上場会社の株式のため評価基準月を3か月設定しその期間内の最安値の60%を控除するとして、保全として間違いがないと総意が形成できる保全金額を、毎年リスケ更新時に全行で合意し当該金額を控除し、非保全プロラタによるシェアを決定しました。
メインの回収が劣後する形となる事が多い、非保全プロラタによるリスケジュールは、メインバンク制度の名残とも言えます。昔はリスケの成立自体が難しく、与信残が突出しているメインバンクが企業倒産を回避するため、下位行をまとめることを優先し、下位行のわがままな条件を飲んだという時代がありました。下位行は、メインバンクの辛さを理解した上で、揺さぶりをかけるために無理難題を言って、場合によりメインによる肩替わりを狙う事もありました。
現在でも、非保全プロラタを要望する金融機関がでる再生案件も、時にあります。しかし、よっぽどな理由がない限り、単純プロラタで合意する事が、上述の通りわかりやすく、誰にとっても合理的だからです。
最後に少し非保全プロラタ方式のフォローをしますと、担保を売却すれば返済が受けられる債権者と、担保がない債権者が同じ立ち位置と理解するのが正しいのか?のと疑問から産まれた方式なのです。
担保権を実行すれば保全が効いている債権者が有利に決まっています。それでもなお、単純プロラタで再建案をまとめるのはリスケの時点で、金融機関の回収の目論見が外れたのは全行同じ状況です。個別の事情を斟酌すると全員の要望を聞くことになりますが、それは債権回収案であって再建案とはほど遠いものとなります。
会社を再建するのが事業再生です。会社の再建のために、後に遺恨を残さない、返済の分配方式は単純プロラタが合理的だと私は思います。ただし、長期的な再建案ではなく、短期間で復活して返済能力を向上させることが前提となる再建案だとも思います。
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