『沈黙』 谷川俊太郎
愛しあっている二人は
黙ったまま抱きあう
愛はいつも愛の言葉よりも
小さすぎるか 稀には
大きすぎるので
愛しあっている二人は
正確にかつ精密に
愛しあうために
黙ったまま抱きあう
黙っていれば
青空は友
小石も友
裸の足裏についた
部屋の埃が
敷布をよごして
夜はゆっくりと
すべてを無名にしてゆく
空は無名
部屋は無名
世界は無名
うずくまる二人は無名
すべては無名の存在の兄弟
ただ神だけが
その最初の名の重さ故に
ぽとりと
やもりのように
二人の間におちてくる
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