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映画『プラハのモーツァルト 魅惑のマスカレード』

天才音楽家モーツァルトを巡る愛憎劇を、全編「百塔の都」プラハロケの美しい映像美で描く。『アマデウス』以来の本格的モーツァルト映画。

モーツァルトの映画と言えばあまりに有名な『アマデウス』。私はこの映画を観てモーツァルトの音楽の素晴らしさを知り、クラシック音楽に傾倒していった。

ヨーロッパに一人旅したときも、トーマスクックとモーツアルトのCDを肌身離さず持ってロンドンからイタリアまで列車で縦断した。だから今でもヨーロッパの田舎の景色を見ると、モーツァルトの曲が頭の中を響き渡る。

去年末には、生オーケストラと映画『アマデウス』のシネマコンサートも鑑賞した。だからこそこの映画を『アマデウス』と比較してしまわないか不安だったが、杞憂だった。

全編を通して流れるモーツアルトのオペラには始終心を奪われ、煌びやかな18世紀を再現する映像や衣装、カメラワークもセンスが光る。モーツァルトを演じるは『ダンケルク』にも出演したイギリスの新進俳優アナイリン・バーナード。
彼が例えようもなく耽美的で美しい。その甘えたような、コケティッシュなのに悲しげな上目遣いに何度もドキリとさせられた。そしてその類い稀な才能。歌う、ピアノを弾く、踊る。その合間に女性を口説く。

「あなたの音楽は神からの贈り物。世界を幸せに変える」と憧憬するモーツァルトに自ら近付きつつも、最初は彼が既婚者という理由でその愛を拒む若きオペラ歌手スザンナ。そんな純真な彼女が引き返す術なく、狂おしい程彼に惹かれていく。

そしてそのスザンナを自分のものにしようと目論み、モーツァルトに強烈に嫉妬するサロカ男爵のおぞましさ。権力で女性を自分のものにしようとする手口には顔を背けたい程の嫌悪感を感じる。あまりに悲劇的なラストには衝撃を受けたが、エンドロールに流れるこの世のものとも思えない美しいアリアが全てを昇華する。

宮本輝の『錦繍』の中にこんな台詞が出てくる。

「生きていることと、死んでいることとは、もしかしたら同じことかもしれへん。そんな大きな不思議なものをモーツァルトの優しい音楽が表現しているような気がしましたの」

モーツァルトの曲は、あたかも天から降ってきたように神聖で神々しい。それは俗世の憎悪や哀しみ、生や死までをも遥かに超越した天上の音楽で、私たちの心の闇を浄化してくれる。



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