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なるべく明るい乳がん日記18今を憎んではいない

〜前回のあらすじ〜
無事に初の抗がん剤投与を終え、またしても暇を持て余していた私。
そしてわかっていたことだが病院のベッドが硬い。
寝転んで3ミリほどしか沈まない極硬マットレスにまたしても悲鳴を上げる私の身体。
看護師さん曰く ”医療用” だというこのマットレスは人が眠れるギリギリの柔らかさしか持ち合わせていない。
硬過ぎて全然眠れない。医療用ってなんだ。
しかも薬剤師さんが「デカドロンにはちょっと目が冴える成分が含まれています」と言っていた。
もうどっちのせいだかわからない。
それでもどうにか横になっているうちに、いつの間にか朝になっていた。

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【入院3日目】
本当にやることがない。

1日4回の検温と朝の診察と3度の食事以外何のイベントもなく、テレビを見ることくらいしかすることがない。
なぜ今回はSwitchを持ってこなかったのか。持ってくればよかった。
麻酔であんなに吐いたんだから当然抗がん剤も吐いてヘロヘロになるだろうと思い込んで置いてきてしまった。
いつも微妙に何かをしくじっている私。

とりあえずBSと地上波のテレビ欄を隅々までチェックし、無駄なく有意義に視聴する予定を立てた。
起きてから朝ご飯までの時間が謎に1時間半もある。
病院の起床時間、早過ぎないか。
お腹が空いた。

BSで今週分の『らんまん』を一気見した。
放送開始と同時期に入院と手術をしたからか思い入れのあるドラマだ。
あいみょんが歌う主題歌もいい。軽やかな3拍子が優しく胸に響く。

”私は決して今を 今を憎んではいない”

この歌詞が私は好きだ。
乳がんに罹患し治療をしている今の方が、私は日々幸せだなと思えている。
全てのことがありがたく、貴重なものに思える。

【入院4日目 ジーラスタ注射】
熱もなく、昨日も今日も吐き気はゼロ。
すごいぞデカドロン。君のおかげだ。

午前の検温の時に看護師さんからジーラスタという注射を打ってもらった。
ジーラスタとは抗がん剤を投与することで減ってしまう好中球の減少を抑制する薬だ。
好中球が減ると防御力も落ちて感染症などのリスクが高まってしまうのだ。

好中球(こうちゅうきゅう)
白血球の中の顆粒球の一種であり、白血球全体の約45~75%を占め、強い貪食(どんしょく)能力を持ち、細菌や真菌感染から体を守る主要な防御機構となっています。

がん情報サービス用語集

ジーラスタは皮下注射なので打つときちょっと痛いが、本当に痛いのはその金額である。保険がきいていても鼻血が出るかと思う。
それでも打った方が安心なので、歯を食いしばって打つ。
保険の範囲内で様々な治療が受けられることは本当にありがたい。
税金高いけど。


注射を一瞬で終え、また長く暇な時間がやってきた。
一冊だけ持ってきた文庫本を読む。

初めて読んだ岸田奈美さんの文章は『弟が万引きを疑われ、そして母は赤べこになった』だ。

ツイッターで話題になっていて、リンクを辿って読んだ私は最初大笑いしていたのに途中から泣いていた。なんなんだこの家族は。最高か。

タイミング良くBSでやっていたドラマを見ることができた。
なんだなんだ、みんなハマり役なんじゃないか。素晴らしい。
NHKさん、どうかこれを地上波でまとめて再放送してくれないか。


ベッドに寝転がり、今や私の筆頭家族となった夫と出会った日を思い返す。
それまでの私はいわゆる社畜でとてもこなしきれない仕事量を抱え、ストレスで泣きながら毎日終電まで働き、仕事をこなせないのは私がダメだからだと心の中で自分をめった打ちにしていた。
睡眠もろくに取れず、食事も適当に菓子パンで済ませていた。
自分がいちばん自分に辛く当たっていた。10年ほど前のことだ。

病みまくったその暮らしからどうにか逃げて少し落ち着いた頃に、夫と出会った。
出会ったその日、一緒に過ごした数時間は妙に居心地が良く楽しかった。
なにか憑き物が落ちたかのようにスコーンと気持ちが晴れて、楽になれた。
 ”この人は絶対に自分に必要だ!!” と強く思い私から押して今がある。
(聞かれてもいないのに急に馴れ初めを語りだす私。)

がんが育つ期間を考えるとあの頃が深く関係しているんじゃないかと思う。
ストレスを溜め込みまくり睡眠も栄養も足りず、健やかとは真逆の暮らし。
そりゃ病気にもなるわ。
自分で自分を責めたり辛く当たったりして何になる。

私は右胸と一緒にあの頃を取ったのだ。
もう鬱的思考はしないよう全力で自分の思考をアホな方へ向かわせている。
ひとりで抱え込まない。
堂々と人の手を借りる。
それでいい。

これからは人にも自分にもちゃんと優しくしたい。
そして出来るだけたくさん周りの人を笑わせて、夫と一緒に仲良く楽しんで生きていくのだ。

【入院5日目 退院日】
やっと退院できる!嬉しい!
ここのところなんかご飯が美味しく感じられなくなってきていた。
夫と一緒に食べるご飯がやっぱりいちばん美味しいのだ。

退院した後自宅で服用するための薬を、薬剤師さんが持ってきてくれた。
まず、発熱、疼痛時のカロナール10日分。これは辛くなったら飲む用。

そして抗がん剤投与後8日目辺りで37.5度以上の熱が出たら服用を開始するレボフロキサシンという直径1.7mm(←測った)もある巨大な錠剤。
感染症の原因となる菌に対処する抗菌薬だ。
これを飲み始めたら処方された5日分全部飲みきるように、とのこと。

いろいろ持たされてなんだか冒険の前に道具屋で薬草を仕入れているような気分になる。(←RPG好き)
この症状にはこの薬!という点は同じだ。

むくみが出て体重が5キロ以上増えるとまずいので毎日熱だけじゃなく体重とお通じも記録することにした。

……そういえば私としたことがもう2日もお通じがない。
腹の弱さは男子級なので、下すことはあっても詰まることはほぼないはず。
あれ?これって副作用?
まぁでも夜までには出るだろうと安易に考え、特に薬はもらわなかった。(もらっておけばいいのに。安定の見通しの甘さ。)


迎えに来てくれた夫と共にウキウキで帰宅する。
ソースに飢えていたので大好きなたこ焼きを食べて首をひねった。
あれ?たこ焼きってこんな味だっけ??
さっきカルピスウォーター飲んだからか??

夕方頃からだんだん筋肉痛と倦怠感を足したような ”ダル痛さ” を感じるようになった。
お風呂で頭を洗うと頭皮がピリピリして痛い。
優しくしないとマズい。
今までのように頭髪を使ってシャンプーを泡立てるような乱雑なことはもうやめよう。(してたんかい。)


そしてこの日、とうとうお通じはこなかったのだ。

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