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オーディオ&ビジュアル徒然草      製品レビュー:ソニーWH-1000XM5

ソニーの人気ワイヤレスヘッドフォンがさらに進化!!

ソニーの1000Xシリーズといえば、完全ワイヤレスイヤフォンのWF-1000XM4なども人気だが、WH-1000XM5はオーバーヘッド型のワイヤレスヘッドフォンの最新モデル。ソニーが得意とするデジタルノイズキャンセル技術を採用し、Bluetoothによるワイヤレス接続でも、最大96kHz/24ビットの伝送が可能な高音質コーデック「LDAC」対応、CD品質の音源や圧縮音源を最大96kHz/24ビットに拡張する「DSEE Extreme」を備え、高音質で音楽を楽しめるモデルだ。

ソニー WH-1000XM5

自慢のノイズキャンセル性能は、左右のヘッドフォンの外側に3つ、内側に1つ配置した合計8つのマイクを使用することで収音精度を向上。そして、高音質ノイズキャンセリングプロセッサー「QN1」と統合プロセッサー「V1」を組み合わせることで、8個のマイク信号を高精度に制御、よりノイズキャンセルの効果を高めている。WH-1000XM5では、特に人の声や耳につきやすい中音から高音式のノイズ低減性能を大きく高めているという。

また、ヘッドフォンの装着状態や環境に合わせて常に最適なノイズキャンセル特性に最適化する「オートNCオプティマイザー」により、使用環境に関わらず最適なノイズキャンセル性能を発揮できる。このほか、音楽を再生中でも周囲の音も確認できる「アンビエントサウンド(外音取り込み)モード」、発話するだけで音楽再生を一時停止し、外音取り込みモードに切り替わる「スピーク・トゥ・チャット」など便利な機能を数多く備えている。

そして、バッテリー持続時間は、ノイズキャンセル使用時で最長30時間、ノイズキャンセル未使用時で最長40時間と長時間の使用が可能で、3分の充電で1時間、10分の充電で約5時間使用できるクイック充電にも対応。USB PD充電器を使用した急速充電(3分の充電で3時間史追う可能)にも対応するなど、使い勝手も向上している。

今回は実際にWH-1000XM5を使ってみる機会があったので、その使用感やさらに進化した音質について紹介する。

さらに快適になった装着感とシンプルなデザイン

外観は、前作であるWH-1000XM4から大きく変わった。従来もすっきりとしたモダンなデザインだったが、WH-1000XM5はそれをさらに推し進め、シンプルで無駄のないデザインとなっている。例えば、耳に装着する部分であるハウジングとヘッドバンド部の接合部分が内蔵式になっていて、装着時と外した時で見た目の変化がほとんどない。ヘッドバンドのスライダーも接合部分がそのままヘッドバンド部に収納されるなど、見た目が実にシンプルとなっている。ハウジング部は頭部にフィットさせるために思った以上に可動する部分が多いのだが、WH-1000XM5はそうした可動部分がほとんどないように思える。しかし、実際に手に持ってみると、一般的なヘッドフォンと同様にきちんと可動する。このすっきりとした見た目と可動部分をすっきりとさせたデザインは見事なものだ。

カラバリはブラックとプラチナシルバーの2色がある

実際に装着してみると、頭にぴったりとフィットする装着性の良さ。細めのヘッドバンドの感触も軽快だし、ハウジングの側圧も軽めなのだが、強く頭をふったくらいではズレないくらいにしっかりとホールドしている。快適な装着性は入念に設計されたものだが、さらに「ソフトフィットレザー」の採用も大きい。これは、通常の合成皮革よりも柔らかく装着時の安定性に優れた素材だという。肌に触れるイヤーパッドもソフトフィットレザー製で、さらっとした感触で気持ち良くフィットする。夏の暑い時期はオーバーヘッド型は蒸れやすくで使いたくないという人もいると思うが、ソフトフィットレザーのさらりとした感触は汗をかきやすい筆者でも快適で、長時間装着していても気持ち良く使えると感じた。

新開発の30mmドライバーがもたらした高音質

高音質では、新開発の口径30mmのドライバーが大きなポイントになるだろう。しかし、従来よりも口径が小さくなったことが筆者には気になった。口径30mmというとオーバーヘッド型のドライバーとしては決して大きいサイズではなく、大口径なドライバーだと50mmを超えるものもある。最近はオーバーヘッド型のヘッドフォンを屋外でも使う人が増えているし、携帯性も含めてコンパクトなサイズのモデルの人気が高い。口径30mmのドライバーを専用に新設計したものそういう意図があったと思う。

専用設計の30mmドライバー

しかし、一般的にドライバーは大口径の方が低音の再現性が優れるので、小口径では低音の迫力が不足しがちになる傾向がある。そのため、ソニーでは振動板周辺のエッジ部分を柔らかくし、中央のドーム部分を軽量で高剛性なカーボンファイバーコンポジット素材を使用した。エッジ部分が柔らかいため可動範囲が大きくなり、振動板の振幅範囲が拡大したわけだ。振動板が小さくなるぶん、振動板を大きく動かすことで、大口径の振動板と変わらない量の空気を動かせるようにしたわけだ。

口で言うと簡単だが、実際はかなり難しい。ヘッドフォンのドライバーはエッジ部分で振動板と駆動する磁気回路を支えているので、エッジ部分が柔らかいと振動板がよじれてしまい、正しい振幅動作が行えなくなってしまう。だから、エッジ部分は十分な剛性が必要で、そのため振幅の範囲は狭くなる。結果として低音を出すには大口径の振動板が必要になるという理屈だ。

ソニーでもその点には留意していて、設計段階で正しい振幅動作が行えるための剛性と柔らかさのバランスをとり、磁気回路の設計やドライバーの構造なども含めて精密に設計を行ったという。

さらに、ウォークマンの高級機であるNW-WM1ZM2、NW-WM1AM2で採用した技術も数多く採用した。基板と各部品の接合部やヘッドフォン出力などの音質的に重要な部分には、「金入り」の高音質はんだを採用。ノイズキャンセリングプロセッサー「QN1」周辺の大型の高音質抵抗を採用。基板レイアウトも徹底的に見直し、部品配置の最適化と電源強化を行っている。こうしたことで根本的なところから高音質を追求しているのだそうだ。

かつてはESシリーズやRシリーズといった高音質コンポーネントを発売していたソニーだが、最近の新製品ではハイファイコンポーネントはあまりみかけない。それはちょっと寂しい気もするが、ハイファイコンポーネントの開発の技術やノウハウはウォークマンやヘッドフォンでしっかりと生かされている。高音質はんだや高音質抵抗といったオーディオ向けの高音質部品についても、今も部材メーカーなどとやりとりをして、音の良い部品があればいつでも試しているという。新開発のプロセッサーや新開発ドライバーに目が行きがちだが、ソニー製品の音の良さは実はこうした地道なノウハウの積み重ねによるものが大きい。

果たしてその実力は? 低音の質の高さは驚異的

では、実際に聴いてみよう。プレーヤーにはソニーのNW-WM1ZM2を使い、コーデックはLDACだ。まずはよく聴いているテオドール・クルレンツィス指揮ムジカエテルナの「チャイコフスキー/交響曲第6番「悲愴」(FLAC 96kHz/24ビット)を聴いたが、ホールトーンも豊かに響き、個々の楽器の音色も緻密に描く。音質的にはニュートラルで落ち着いた感触なのだが、出音の勢いがよくエネルギッシュな鳴り方をするので、かなり躍動感のある演奏になる。感心したのが低音で、ローエンドの伸びもかなり低いところまで出ているし、しかも力強い。終盤のフォルティッシモではオーケストラの雄大なスケール感がしっかりと伝わり、ドロドロっとしがちなティンパニの連打もしっかりと叩いている様子が再現される。

低音の鳴りをもっとよく確かめるため、「GODZILLA:KING OF MONSTERS」のサントラから「ゴジラのテーマ」を聴いた。映画もそうだが劇伴も低音がたっぷりで、大太鼓を鳴らしたときの音の響きなどでは空気が震えるような音にならない領域まで収録されている。聴いてみるとエネルギーたっぷりの低音の鳴り方も見事だが、低音が膨らみ過ぎて不明瞭にならないところにも感心した。曲自体の低音のエネルギーが凄いので、アンプが非力だと低音を制御しきれずに出た音が止まらなくなってしまいがちなのだ。そこをきちんと制動して力強い低音を反応よく再現している。この低音の質はなかなかのものだ。

最後は「宇多田ヒカル/BADモード」。包囲感のあるメロディーの響きが実に豊かで包まれるような感触がある。そこに実体感のある声がはっきりと定位する。低音がしっかりと支えている安定感もあるし、個々の音に芯の通った力強さがある。実にしっかりとした音で、ワイヤレス接続で聴いているとは思えないものがある。しごくまっとうな音で、派手さや主張のものはあまりない音とも言える。だが、音楽の持つエネルギーとか、声の強弱、演奏の抑揚がしっかりと出るので、生の音を聴いているようなリアル感がある。ここ最近のソニーの音はいずれもこうした音の生き生きとした感じや躍動感があって特に気に入っている。

いつでも良い音を楽しみたい人へのパートナー

このほか、持ち運び用のキャリングケースにもユニークな工夫がある。飛行機や新幹線などの長時間の移動で使用するとき、ケースの置き場所に困ることがある。そのため、ケースを折り畳んで小さくできるように織り目が付いているのだ。これでちょっとしたスペースに収納しておくことができ、持ち運びがしやすいのだ。折り紙を意識したデザインだそうで、織り目もきれいで、見た目もいい。

携帯ケースへの収納時
ケースの側面に折り目が
ついていて、薄くできる

実売でおよそ5万円となる価格のWH-1000XM5はワイヤレスヘッドフォンとしては高級機の部類にある。やや高価と感じる人もいるだろうが、ノイズキャンセル機能の高機能と圧迫感のない自然な静かさをはじめとして、非常によく出来ている。飛行機での移動を含めた長時間の移動が多い人にはぴったりのモデルだと思うし、いつでも良い音を快適に楽しみたいという人にもベストといえるモデルのひとつだと思う。発売した途端にすでに多くの人から高く評価されているモデルだが、これだけ優秀な出来なら人気になって当然だと実感した。

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