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伊香保 from 東京 一方俺は 山陽

8月は図書館に毎週通って本の貸し返しを続けており5冊も読んだ。月2冊読むという年初の目標を余裕のペースで越している。このままいけば残りの3か月ぐらいサボれるがおそらく上乗せを続けていくだろう。近所に図書館があるとここまで捗るらしい。夜9時までやっているのもいい。都会の恩恵に甘んじている。加速度を上げたのは音楽関係のエッセイにシフトしたおかげ。音楽か夏以外の要素がある小説を読むのにすごく時間がかかる。好きなものだけ読んでいたい。そうして図書館に入場してからは【音楽】のコーナーに直進するようになった。ベースの教則本も貸し出していて、15年前ぐらいに気になってたものを気軽に読むことができる。kindle unlimitedは数年前に解約しています。

『松本隆 言葉の教室』を読んだら松本隆が今までの作品の解説を結構丁寧にしていて2日の通勤電車で読み切ってしまった。竹内まりや「september」は東急渋谷駅東横線ホームから始まる動きのある物語。もちろん東横線ホームが地上にある頃の話。年上の女に彼氏をとられ、その彼を追いかけて山手線に乗り換える。渋谷から原宿へ、その車窓から見える代々木公園のイチョウが鮮やかな黄色に染まっている。心変わりと時間、身体の動き、そして風景が見事にリンクしている最高の歌。そんなエピソードが多くてとっても面白い。

その中にはっぴいえんど「夏なんです」の解説もあった。東京都港区南青山育ち学校は全部慶應のまさに今年の夏の主役みたいな松本隆がなんであんなに日本人の夏の原風景みたいな、太陽とそれに照らされた土や風、肌をじりじりと描けたのか、曲を聴くたびに疑問に思っていたけど、松本隆は母親が群馬の伊香保出身でそこに夏休み中ずっと預けられていて、夏休みの思い出として田舎の風景をしっかりインプットしていて、あこがれているからこそリアルに描けたらしい。堆積した記憶の中から呼び起こすことの大切さも別のページに書いていた。曲を聴くのがすごく楽しくなる。

俺にとっての、そんな憧れになる夏の風景ってなんなんでしょうねともちろん思案してしまうのですが、自分のそれは「山陽」だと気づいたのが2023summerでした。子どものころ、特に小学生の頃は夏休みを丸々、母親の実家である鳥取市で過ごすことにしていた我が家。7月の下旬から8月の下旬まで、1か月以上。据え置きのゲームも漫画も何も持って行かず、それらが大好きな少年時代だったのに、それよりも夏の風景そのものにワクワクしていたから何も気にならなかった。どちらかというと鳥取市の家で過ごした記憶よりも、大分から特急に乗って小倉から新幹線で岡山へ向かう、その車窓が印象深い。山陽新幹線という名の通り山口の下半分と広島をぶち抜く。下関を過ぎてから一気に田園風景になり、大分とは違って山だらけではなく、どこまでも続く田んぼの先に山があって、夏の雲が高く積み重なっている。その中に赤い屋根瓦の家がぽつぽつ存在している。トンネルが多いから、トンネル、赤い屋根、トンネル、赤い屋根、トンネル……そうしているうちに岡山に着く。赤い屋根瓦は地元の大分にはないから「なんだろう」と子どもながらに思っていた。当時から人文地理への興味を持っていたんだ。その屋根瓦は「石州瓦」だと知るのは大学に入ってから。島根の浜田出身の友達に出会ったおかげで。語ってくれてありがとう。石州瓦は子どもの頃の記憶として夏の風景の中に存在している。

今年の夏、いったん実家に帰省してから東京に戻ってくるまでの道中、下関に寄って帰ることにした。大学の後輩の安達が下関に帰省していたから誘ってドライブをすることにした。下関は子どものころベイブレードを買いに片道3時間かけて父親と来たことあるから"都会"と思っていて、変わらない色合いの駅前に立った時からなんとなくその記憶を取り戻しつつ、車を借りて秋芳洞を目指した。大分市の小学生は修学旅行で秋芳洞行くけど別府市の我々は佐賀長崎なんだよな(2004)。だから行ったことなくて目的地にした。地方都市らしい道路を抜けて山を一つ越えると、まさに子どものころに新幹線の車窓から見た風景が眼前に広がる。田んぼ、山、そして赤い屋根の家々。心の奥底から一気に夏がせりあがってくる。これが俺の原風景なんだ。隣で運転してくれる(ありがとう)安達にもその話をしてしまう。石州瓦で夏になる。時間分だけ離れていた心が一気に何かに引き寄せられる気がした。

大好きなはずの夏にどうしようもなく満たされない気持ちで覆われる時が結構あってどうしたもんかいのと思っていたが、そうか山陽に行けばいいんだと気づいた。夏の原風景は常に記憶の密接な場所にあるのではないのだなと勉強になった。東京から伊香保を、当時の視点で見るように、俺もまた東京から山陽を見る。またひとつ賢くなったことで、今年の夏も良しとする。石州瓦の産地は厳密にいえば山陽ではないけど、俺の中には山陽にある。いつかちゃんと、本場の島根も遊びたい。津和野とか行けないままで。

道中のヤマザキショップの駐車場より
は~い
本当にセメントの国

車を返した後は関門海峡の花火大会を見た。純粋に花火に感動する声が観衆から上がっていて、素直な人の多い町だと思った。屋台が少ない、観覧場所もそんなにしっかりしてなくてみんな地べたに座ってみるようなお祭りでも全員うきうきしていた。それにあてられて安達とふたり、豊前田という繁華街を歩く。ミズニウキクサのベースボーカル愛美さんがつぶやいていた街。大分でいえば都町。最近地方の、それだけでエリアが特定でき、言葉以上の意味を持つ繁華街に興味がある。皆さんも地元のを教えてください。大学で地元を離れた我々に繁華街など本来縁はなく、同じような地方公立出身の境遇の同級生に聞いても想い出がない、知らないといわれるようなその街は、バンドをしていた我々にとっては特有の、しっかり地に足のついた想い出のあるエリアとなる。安達の案内で飲み、食べ、想い出のライブハウスがDJやナンパの若者にジャックされているのを眺める。どの空間でもしっかり無視されていた我々。君たちの目には映らないけど、俺たちからはしっかり見えている。マジックミラーの群衆。時代が違うと重ならない視線。

ライブハウスの屋上から向かいのラウンジ?を眺める

この夏の経験も松本隆ならいい感じの歌詞にするだろうね。


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