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【二次創作】ウルトラマンネクサス外伝 Memory Police その2


この物語は、ウルトラマンネクサスという作品の中で重要な役割を果たしながら、多くを語られなかった組織「MP=メモリー・ポリス」に、そしてその中でも特に中心となっていた人物「首藤沙耶」...

の右腕である三沢広之にスポットを当てた外伝小説である。

登場人物紹介
三沢 広之(みさわ ひろゆき)....本作の主人公。ヤミ金融の取り立て人だったが、ビーストを目撃。松永にスカウトされMPのサブチーフに就任する。

首藤 沙耶(しゅとう さや)...三沢の上司となる人物。表情に乏しく一見冷徹だが、根は思いやりのある優しい女性。

松永 要一郞(まつなが よういちろう)...TLT日本支部「TLT-J」の管理官。三沢をスカウトする。

和倉 英輔(わくら えいすけ)...ナイトレイダーの隊長。

溝呂木 眞也(みぞろぎ しんや)...ナイトレイダーの副隊長。三沢を助ける。

石堀 光彦(いしぼり みつひこ)...ナイトレイダーのアナライザー。

三沢 広美(みさわ ひろみ)....広之の妹。怪我を負った兄を心配する。

Episode2 転換 -スカウト-

固まってきょとんとする三沢に、怪獣は火球を吐きかけた。三沢はとっさに『あっ!』と滑稽な声を出しながら車から飛び降りた。
爆音と共に熱風が吹き荒れ、三沢の身体は宙に舞った。痛みをこらえ地面に叩きつけられた顔を上げると、愛車のプリウスは跡形も無く消し飛んでいた。
それは紛うことなき現実だった。『だ、誰か...病院、病院に...』さっきの衝撃で身体のあちこちが折れており、最早自慢の足は使い物にならなかった。
痛々しく伏せる三沢に対し、怪獣は口を赤く光らせ、二度目の火球の準備を始めた。『お、おちつきなさい...やめたまえ...』そんな声、人の心を持たない怪獣に届くはずも無い。もうだめか!と三沢が死を覚悟し顔を伏せたその時、重々しい金属音と雄々しい声がトンネルに響き渡った。
『掃討せよ!』の声と共に再び熱風。最早三沢には何が起きてるかなど分かるはずもなかった。しかしさっきと違い吹き飛ばされることはなく、恐る恐る顔を上げると、今度は怪獣が跡形もなく消し飛んでいた。
状況を飲み込めない三沢は間抜けにも口を開けたまま辺りを見渡す。すると、そこには紺色の強硬そうな服を着た3人組の男が立っていた。『安心しろ。ビーストは俺が倒した。』
三人の中でも一際鋭い目をした男が三沢に手を差し伸べた。

目が覚めると、白い天井が見えていた。あれほど望んだ「病院」にいたのだ。三沢は起き上がろうとするが、痛みが邪魔をして起き上がれない。それでもなんとか動こうとする三沢の前に一人の女性が現れた。
ぺたりとした前髪と、綺麗に一本で結んである後ろ髪が特徴だった。『あなたは今重傷なの。あまり動かない方がいいわ。』と仏頂面で言い放った。『...お前は?』三沢が問いかける。するとその女性はこう言った。『その口の利き方、気を付けた方がいいわね。私は首藤沙耶。貴方の上司になる者よ。』と。
...は?上司だと?何を言っているのだ。と三沢は思った。自分が勤める金融の人事異動など聞いていなかった。それともなにか、この女は俺が怪我で動けないのを良いことに騙そうとしているのか。三沢の疑問は尽きないが、今の彼にとっては細事に過ぎなかった。そんな事よりも何よりも先に聞くべきことがある。三沢は問いかけた。『なあ、あんた、あいつらの仲間なのか?教えてくれよ、あの化け物はなんなんだ!』すると首藤は『説明は怪我が治り次第、松永という男からされるはずよ。それまでは我慢して。』と言い残し三沢の病室を去って行った。『おい待てよ!待て!』三沢は追いかけようとするが、動けなかった。
空しく天井を見つめる三沢の横で卓上の電話が鳴った。

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『なあ溝呂木、知ってるか?先日助けた長身の男、TLTに配属されるらしいぞ。』パソコンの前にいる男、【石堀光彦】が口を開いた。
『どうやらそうらしいな。まあ、俺には関係ないことだが。べつにここに来るわけじゃ無いんだろ?助けた時にあいつの目を見たが、戦いに耐えられるような器じゃ無い。』ぶっきらぼうに鋭い目つきの男、【溝呂木眞也】が答える。
『配属先はメモリーポリスらしい。どうやら彼の高い追跡能力と、高圧的な接し方が買われたようだな。』落ち着いた雰囲気の中年男性、【和倉英輔】がそれに続いた。
それに対し溝呂木は、『MPもいいけどよ、ここにも新人が欲しいと思わないか?3人で対処ってのはなかなか面倒だからな。どっかにいねえかな、絶対にビースト倒す!みてえないい目をした...できれば年下のかわいい女!』と言った。石堀はそんな溝呂木に『いるわけないだろ...そんなつごうの良い女なんて...』と言った。呆れ気味に話す石堀の口角が少し上がっていた様に見えたが、誰も気にも留めなかった。
『ま、そうだよな。』溝呂木は頭の後ろで手を組むとベッドに寝転んだ。

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誰だよ、こんな時に。三沢はなんとか動く左手で電話を取った。『三沢です。』ぶっきらぼうに答えると、聞き慣れた声が聞こえてきた。
『もうお兄ちゃんたら、兄妹なんだから苗字は一緒でしょ?』さっきまで強ばっていた三沢の表情が少し緩んだ。
『なんだ、広美か。なんか用?』『なんか用じゃないわよ!お兄ちゃん怪我したんでしょ?それで病院にいるって教えて貰ったの。それで、怪我は大丈夫なの?』
三沢は笑いながら答えた。『ああ、大丈夫だよ。命に別状はないみたいだから。』『そっか、良かった。手料理作って待ってるから、一日でも早く退院してね!』そう言うと広美は電話を切った。
『まったく...相変わらずだな、あいつは。』表には出さないが、三沢はとても嬉しかった。どんなに辛いときも、広美だけは側にいてくれた。あの忌々しい高校時代だって...今回だって心配してくれた。
彼女だけはこれからもずっと変わらないのだと、唯一の自分の心の拠り所なのだと、三沢はそう信じて疑わなかった。
『新しい職場か...』三沢は少し前向きな気持ちになれた。


~1ヶ月後~
『退院おめでとうございます。三沢サブチーフ。』眼鏡をかけた白髪混じりの男性が声をかけた。『首藤チーフにはもう会ったでしょう。これからは彼女の右腕として働いてもらいます。』
『誰だよあんた』三沢は高圧的な態度を取った。
『申し遅れました。TLT日本支部の管理官、松永です。やはりその態度、私の目に狂いはありませんでした。』
『あんたが俺を勝手にここに連れて来たのか。』
『問題でもありましたか?貴方の職場にはすでに退職届をだしておきました。手続きも全て済ませてありますので、心配する必要はありませんよ。』
三沢は唖然として物も言えなかった。結局この仕事を受けるしかないんだな...
『分かったよ。で、俺はここで何をすれば良いんだ?』
『先ほど言ったように、主な仕事は首藤チーフの補佐です。彼女に代わり標的を追跡、捕獲してもらいます。貴方の得意分野でしょう。慣れてくれば単独行動をお願いするかもしれません。後に記憶消去の方法も教えますから、ご安心を。』
ちょっと待て、「記憶消去」だと?ここは地球だよな?三沢は信じられなかった。
『なあ、記憶を消すって...ここは一体何なんだよ...』三沢は怪訝そうに問いかけた。
『貴方も見たでしょう。あの怪獣、「異生獣スペースビースト」を。TLTはビーストから人類を守ることを目的とした組織です。』
『なるほど、あの紺色の連中もこの組織の一員って訳か。』なぜか三沢はすっと信じてしまった。あれだけ夢と疑い、自分の見る狭い現実に固執していたというのに。
『そして貴方の配属先であるMP、メモリーポリスはビーストを目撃した人間の記憶を消去するための部隊です。先ほども言いましたが貴方にはそこでサブチーフとして働いて貰います。』
『おい、怪物を倒すのは分かるがなんで人の記憶を消す必要があるんだよ。』
松永は答えた。『私たちは国家レベルの組織ではありますが諸事情で秘密で動いています。下手に知られれば混乱を招く恐れもある。それに、貴方も体験したでしょう。あの恐ろしい体験を。消去されるのはビーストとそれに纏わる記憶のみです。あのような記憶、抱えながら生きていくにはあまりに忌々しいでしょう。忘れてしまった方が良いこともあります。』
「忘れてしまった方がいいこともある」、か。『確かにそうかもしれないなあ?』と三沢は答えた。
『では、引き受けて頂けるんですね。』
三沢広之は、借金取りから世界を裏から支える記憶警察、【メモリー・ポリス】へと転職したのだった。


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『こんなに買っちゃったけど...ま、いいか!せっかくの退院と転職祝いだもん、食卓をお兄ちゃんの好きなもので塗り込めなくちゃ!』

『痛い!転んじゃった...あれ、なんだろうこのヌメヌメ...』

『えっ、嘘、なに...これ...ウミウシのお化け...?』

To be continued
次回 Episode3 悲劇 -メモレイサー-

登場怪獣
第2話
フログロス(ネクサス第18話より)
ペドレオン クライン(ネクサス第1話より)

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