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大人になれば何もかも面倒になって酒ばっかりのんでたって言えると思ってた

肌寒くなれば聴きたくなる
東京60WATTS 外は寒いから

リリース当時まだ若かった私は
なんかもう少しだけ大人になれば
この曲のような世界に生きられると思ってた

何もかも面倒になって酒ばっかり飲んでた

そのフレーズに猛烈に憧れた
何でかはわからん
ちょっとだけ自暴自棄でやさぐれたフレーズ
狭いアパートの一室でダラダラとのんだくれる
そこに暗さは感じられずむしろポップな響き
学生時代とはまた違った青春感みたいなものがある

二十歳をこえてすぐくらいやった自分が
思い描く近い未来
当時働いてた小さな埃くさい服屋では
自分よりほんの僅か年上のお兄さんお姉さんに囲まれ
歴代スタッフが置いていった名盤CDに影響を受けたり
自分の世代では腐って廃れゆく王道アメカジを
逆に渋いなと真似したり
実家暮らしやった自分にとって夢のような一人暮らしを垣間見て
金が無い部屋が狭いと苦笑いする先輩は
それでも楽しげで誇らしそうにすら見えた

あの頃の雑多な人間関係
店のお香の匂い
バンドでデビューするとか小説家になるとか
もう自分には全く現実的では無いことがわかる年齢で
そこでぼんやり思い描いた近い未来
ちょっとだけ大人の生活
そういう空気が詰め込まれている

どっちかというと切ない曲やし
キラキラした歌詞では全然無い
でもすぐそこにあるように見えた憧れが
私に希望を持たせてくれた

なんとも言語化しにくい感情
今でも冬を前にすればこの曲が聴きたくなるし
聴くたび内臓がギュっとなる

それから数年の間に私の生活は様変わりし
あれよあれよと子を産み育て
あの時憧れた少し爛れた生活に身を置くことなく
大人に見えてた先輩たちの年齢なんかとっくに追い越して
あっと言う間に普通の大人になった

誰が聞いても大人と判断される歳になっても
酒が呑めるようにはならんかった
そもそもアルコール分解酵素を標準装備されてなかった
違う人生を歩んでいたとしても
結局、何もかも面倒になって酒ばっかのむことは不可能やったんやな

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