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2019年8月24日 いらすと屋を巡る話。

この記事はノートから書き起こされたものです。詳しい事情は→この8か月間に起きたこと。

いらすとや mangaka_man

 いらすと屋を巡る問題……。無料で公開されている「便利なカット」のおかげで、あの辺りを仕事にしていた多くのイラストレーターが職を失った……という話。

 この「いらすと屋問題」がニュースサイトに載ると、コメント欄の方向性はだいたい決まっている。
 「企業努力、売り込みをやらない絵描きが悪い」「淘汰されるだけ。消えるのは底辺絵師だけだろ」
 ……こういうのをよく見かける。

 こういうのを見て、まず「ああ、絵を描いていない素人の意見だね」と思う。もう一つ思うのは「想像力のなさ」。他人事だと思っているから、上から目線で好きなことが言える。自分とは関係ないから好き放題言える。

いらすとや building_gyudon

 自分が勤めている仕事に置き換えてみれば、いらすと屋の怖さがわかる。
 例えば牛丼屋のとなりに、無料の牛丼屋ができる。無料の牛丼屋はたいしてうまくもない。が、無料の牛丼屋ができたら、有料の牛丼屋には誰も行かなくなるでしょう。有料の牛丼屋の方へ行くのは、そこそこお金のある人だけ。
 という例を出したけど、牛丼屋じゃない人には伝わらないか。牛丼屋が例として相応しいかどうかもちょっと自信がない。

いらすとや presentation_kaigi_man

 「企業努力しないやつが悪い」と言っている人は、自分が常に業界で一級品を作っているという自負のある人だろうか。またはライバルメーカーがより魅力的な新商品を出した時に、即座に企画書を書いて、会社側にプレゼンしている人だろうか。
 業界一級品を作っていて、常に良い企画書を書いている人ならば、「努力しないやつが悪い」と言っていい資格は(ちょっと)ある。そうでない人は「お前が言うな」で終わる。お前は口だけで、何もしてないじゃないか、と。

 あ、別に「言論の自由は許さん!」とかそういう目的で書いているわけじゃないから。基本的には好きなことを好きなように言ってもいいんだよ。私も好き放題書くから。

いらすとや train_people

 いらすと屋の良さはキャラクターにある。「絵の雰囲気」とかではなく、「キャラデザの良さ」だ。あんなふうに何にでも使えて、他のコンテンツの邪魔をしない。いろんな場所にスルッと入っていける。公共性を持ったキャラクターだ。あんなキャラクター、少し考えたところで出てくるものではない。
 もしもいらすと屋に代わるキャラクターを考えたところで、その座席はすでにいらすと屋が独占状態にあるので、同じ席にはもう座ることができない。
 権利を放棄し、フリー素材にしてしまうというアイデアもいい。真似しても同じ座席に居続けることはできない。

 逆に弱点といえば、個性のなさ。いらすと屋を使うと、そこコンテンツから個性が失われる。企画書などで使う場合、書いた人がどんな方向性で、どんな色のものを作りたいのか見えなくなる。
 いらすと屋も色んな所で使われてすぎていて、そのぶん印象も薄くなっている。今更あのキャラクターにストーリーや世界観を背負わせるわけにはいかない。「いらすと屋といえば?」と思い浮かぶ固有のコンテンツがない。

いらすとや job_shitsugyou_man

 いらすと屋の作者も、そういった自身の個性のなさを理解しているからこそ、今のビジネス・策略を思いついたのだろう。自分の絵の実力、方向性ではどこの企業に売り込んでも、仕事はもらえない。だからこその逆転の発想だ。いらすと屋の作者は絶対に頭のいい人だ。今更、他のイラストレーターが同じことをするわけにはいかないもの。同じ座席には座れない。
 でもそれはいらすと屋自身にとっても諸刃の剣。だって、いらすと屋はもう特定のコンテンツの仕事を受けられないんだもの。お菓子のキャラクターとかね。そういう仕事のチャンスを捨てて、この戦略を選んだんだもの。大した人です。

 いらすと屋に対抗するための手段は2つ。
 1つ目。同じようにいらすと屋のようなフリー素材を作る場合、独自の一貫性を持ったキャラクターを作り、そのキャラクターに沿った「汎用性の高い絵」を考案すること。
 例えば解説動画でよく見かける「東方」の生首絵みたいなやつだ。
 これは言うは易いが、行うは難しい。誰からも嫌われず、他コンテンツのノイズにならない、個性的でありながら同時に汎用性もありつつ、しかし愛されるキャラクターはなかなか生み出せるものではない。とにかくキャラクターを作り、コレだというものに行き着くまで書き続けることだ。

 2つ目。いらすと屋の弱点は個性がないことだから、その逆、個性的な絵を生み出すこと。こちらも言うは易し、行うは難しいの典型例。
 個性を出そうとすると、よくあるデザインに似たしまうことはよくあること。自身の感性で勝負できる人はいいが、そうでない人は堅実にデザイン史を紐解き、「今までに試みられたことのないデザイン」を探るやり方の方が近道だろう。

 3つ目。2つの予定だったが、書いているうちに思いついたのでもう1つ。
 「レベルを上げて物理を叩く」方法。とにかく極限まで画力を高めて、実力でねじ伏せる。
 もしかすると「独自の個性」を探るよりも、こっちのほうが楽かもしれない。
 といっても、これができるならカット絵描きなんぞもうやらなくてもいいのだが。

いらすとや tv_business_kikakusyo

 と、まあ色々書いてきたけれども、実は私はいらすと屋は別に大きな脅威だとは思っていない。だって物作りの方向性がまるっきり違うから。私やそれに近しい人たちが企画書や冊子を作る場合、いらすと屋を使用することはほぼないだろうと言える。ネタとして使用することはあるかも知れないが。急いでいる時とか。それくらいしかない。
 ちゃんとしたデザイナーを使って説明しないと伝えきれない業界だから、いらすと屋でカットの一部を埋めたりはしないし、世界観を伝えたいのにいらすと屋が出てくると邪魔になる。いらすと屋は「大雑把な説明」にしかならないので、伝えたいことがきちんと伝わらない。私なら「どうせなら自分で描く」という判断を選ぶ。

 いらすと屋を使う人は、自分の作ろうとしているものに、大した独自イメージがない人……と思っているくらいなんで。
 そういうわけで、いらすと屋は特に怖いとは思わんよ。


今回のブログでもたくさん使われた、便利ないらすと屋のサイトはこちら!
いらすとや


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