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ブログ:映画の話

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映画の感想文。
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2023年7月の記事一覧

6月18日 イギリス戦国時代の覇者 ラスト・キングダム

 Netflixでなんとなくオススメに入っていた作品『ラスト・キングダム』。いつもの調子で「じゃあ見てみようか……」と見始めてから全5クール+劇場版があることに気付いた。長い! でも見て良かった! めちゃくちゃに面白かった! イギリス戦国時代を描いた英雄叙事詩。ものすごい傑作ドラマだった。 BBCドラマ『ラストキングダム』とは? まず『ラスト・キングダム』という作品について紹介しよう。日本のメディアでこのタイトルを挙げているのを見たことがないし、日本語Wikipediaも作

映画感想 TOVE/トーベ

 名作の裏に、複雑すぎる事情。  『ムーミン』といえば世界中で凄まじい人気を誇るキャラクターであるが、そのなかでも際立っているのが日本だ。『ムーミン』の原作小説はすべて文庫で揃っているし、漫画版、絵本版、手書きによるアニメ版が制作されたのは日本のみで、キャラクターグッズは本国に負けないくらい出ているし、テーマパーク「ムーミンワールド」があるのはフィンランド本国の他は日本のみ。  その『ムーミン』を描いた作者であるトーベ・ヤンソンがどんな人物であったか――それを描いた作品が2

映画感想 キャプテン・フィリップス

 今回視聴映画は『キャプテン・フィリップス』。マット・ディモン主演のスパイ映画『ボーン』シリーズでお馴染みのイギリス出身ポール・グリーングラス監督作品。2013年の映画だ。ポール・グリーングラス監督作品には『ユナイテッド93』『7月22日』といった実話に基づくドキュメンタリー風の作品があり『キャプテン・フィリップス』はこちらの作品の方。ほとんどのシーンが手持ちカメラで撮影され、本当のドキュメンタリーのように作られているので、臨場感は凄まじい。  事件が起きたのは2009年4月

映画感想 NOPE/ノープ

 人よ、神を軽んじるなかれ。  『NOPE/ノープ』は2022年のアメリカ映画。ジャンルは「ホラー」と区分されているけれど、実際に見るとなんとも言いがたい味わいの作品だ。簡単にジャンル分けがしづらい作品だ。タイトルになる『NOPE』は「ありえない」「嘘だろ」といった意味となる。  監督はジョーダン・ピール。もともとはコメディアン俳優だったが、2017年に『ゲット・アウト』を自ら脚本を書き、監督を務めて以降はプロデューサー・監督に転身する。ハリウッドにはスパイク・リーをはじめ

映画感想 エスター

 難しい映画を観た後は、気楽なホラーを見たくなるものです。そんなふうに見はじめたホラーは……エグいやつでした。  『エスター』は2009年のアメリカ映画。原題は『Orphan』。直訳すると『孤児』となる。邦題は主人公の名前をタイトルに持ってきている。  『エスター』は当時、ホラー界隈でかなり話題になった作品だね。私もこの作品の存在を知っていたけど、その当時は作品を見る手段がなく、なんとなく見逃してそれきりになっていた。それがふと気付けばNetflixで配信されていた。ああ、

映画感想 バルド、偽りの記憶と一握りの真実

 嘘の向こうにある本当。  タイトルの『バルド』という言葉は、チベットの仏教典のなかに出てくる言葉だ。チベットでは人は死んだ後も「耳」だけは機能し続けていて、生者の言葉を聞いている……と考えられ、死者の耳元で49日間経典を語り聞かせる……という習慣があった。こうすることで生前の迷いから解き放たれ、涅槃に到達できる……という。これを「バルド・トドゥル」という。「バルド」とは死んだ後、別の状態へと移り変わろうとしている時の中間状態のこと。「トドゥル」とは耳で聞いて解脱するという

映画感想 ヴェノム2 レット・ゼア・ビー・カーネイジ

 アメコミが描く『ジキルとハイド』。  『ヴェノム:レット・ゼア・ビー・カーネイジ』……どういう意味なのかと翻訳機に放り込むと「大虐殺をしましょう」。なぜに敬語?  本作は2018年『ヴェノム』の続編。2021年にアメリカで劇場公開された。監督はモーションアクターとして高名なアンディ・サーキス。2017年の『ブレス しあわせの呼吸』で監督デビューし、本作で3作目の監督作品となる。俳優とモーションアクターのキャリア両方の経験を持つ貴重な監督として抜擢されたようだ。  脚本は前