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僕はフォトグラファーじゃない

「――俺はお前たちとは違う」

 漫画『鬼滅の刃』には、読む人の心を動かす台詞が、数多く存在します。何度も読み返しているのに、何度でも、目頭が熱くなるような言葉の数々。これからもきっと、名作として語り継がれることでしょう。

 この作品が人気となった理由を聞かれたら、なんと答えればよいものか。ストーリー、設定、キャラクター。どれか一つの要因だけで、ということはありませんが、個人的にはやはり「台詞回し」が大きな魅力だと感じます。

 冒頭の台詞は、水柱と呼ばれる剣士が、仲間に向かって言い放ったもの。本人にとっては自身を卑下する発言でしたが、あまりにも言葉が足りない。周囲を見下しているかのように受け取られ、ひと悶着起きそうになる始末。

 感動するというよりは。後々、発言の真意が明らかになって、長きに及ぶ彼の苦悩を思い、胸が締め付けられる。そんな台詞。そして不器用な彼は、こうも言うのです。

「――俺は水柱じゃない」と

 話は変わるのですが、先日とある「VR体験会」のお手伝いをしました。僕はVR側のスタッフとして、ワールドで待機。はじめてVR機器に触れる皆さんを待ち構えます。もちろん、かわいいアバターの姿で。

 VR体験希望者がやってくると、現地にいるスタッフさんは、僕のことをこんな風に紹介してくれます。

「目の前にいるのが、バーチャルフォトグラファーのとらおさんで――」

(――やめて)

 僕はそんな、立派なものじゃないから――

 何かを成し遂げようとする気概もなければ、積み上げてきたものもない。だからそんな風に呼ばないで。強い異物感を覚えながらも、それを吐き出すことも、飲み込むこともできないまま。頭の中で、こう繰り返したのです。

「(――僕はフォトグラファーじゃない)」と

 こうしてまたいつものように、後ろ向きで、自己肯定感の低そうな記事を書いている。もしかしたら、自虐風の自慢とか、承認欲求の裏返しだなんて思われるかもしれないけど。どう感じるかは自由だから。お好きなように。

 僕はただ、書きたいことだけを書きたい。自分の内にある、思考の欠片を集めたいだけ。でも言葉にするのは難しく、思ったようには抽出できない。まるで壊れたコーヒーメーカーみたいに、苦い泥水を垂れ流し続ける日々。

 この気持ちは写真についてもおんなじで。僕は自分の撮りたいものだけを撮りたい。自分の好きなもの、心が動いた瞬間だけを切り取りたい。そしてできるなら、許されるのなら。それを誰かと共有したい。ただそれだけで。

 こんな調子だから、僕がフォトグラファーを名乗る日は来ないだろうし、写真展とか撮影の依頼も、本当は苦しくて仕方ない。それなのに、お誘いを断らないのは、ときどき苦手なこともやらないと、弱くなってしまうから。

 筋肉に負荷をかけ、スイカに塩をかけ、川底目がけて飛び込むみたいに。しんどいことでも、ぎゅっと目をつぶったまま、喉元過ぎるのを待つんだ。そうすれば、最後にはきっと楽になるって。わかっているから。

 そういうわけで、また性懲りも無く、写真展に参加させていただきます。東京・表参道にある富士フイルム直営店『WONDER PHOTO SHOP』さんで、8月9日(金)~8月21日(水)の日程です。フォトグラファーではありませんが、VRワールドの美しさを伝えられたらと思っています。お近くの方はぜひ、お越しくださいね(写真展のご案内でした)

とらお


撮影ワールド:The Sanctuary Forest by: wata23 さん


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