嘘日記　所信表明

　わたしは嘘が好きだ。悪意のある嘘や誰かを陥れる嘘はノットフォーミーだけれども、嘘をつくという行為、本当は起こらなかった何かをさもあったかのように語ることのできるその現象に、少し一息つけるような安心感を覚える。本当のことしか言えなかったら、多分この世界はとても窮屈なんじゃないかと思ってしまう。
　というわけで、（というわけで？）書きためた嘘を吐き出して遊んでいこうと思う。その時は嘘であることをきちんと明記するけど。

　本日の嘘は簡潔なものを。『猫だまし』

　『猫だまし』というのは猫に擬態した生物である。山間部に生息し、黒い影のようなもやで全身を覆われている。近年、住処を追われ都市部におりる目撃例が相次ぎ、社会問題となっている。
　『猫だまし』の鳴き声は、猫のそれと酷似している。都市部に住み着いてしまった『猫だまし』は猫の鳴き声で人間をおびき寄せ、人間の影を食らう。影を喰われた人間は数日間高熱を出し倒れ、それからしばらく存在感が希薄になり、自動ドアにぶつかったりする。