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『声』第二章 専業主婦 朝倉正美…2035年5月【事件の少し前】

◆あらすじ


事件発生前。被害者、浅倉正美は幼少時に母親から虐待を受けており、現在でも幻覚に悩まされている。城田が経営する闇塾に通わせている小学六年生の娘が、拒食症に。夫との関係、姑との関係も最悪で溜まったストレスのはけ口は娘への暴力となって、噴出する。

◆本 文


(一)孤独
 
「やっぱり俺、大学行かないから」
 長男はそう言うと、そそくさと階段を駆け上がっていった。二階でばたんとドアを閉める音がした。部屋に籠ったのは息子の方なのに、なぜか自分の方が世界から締め出されたように感じた。
 先週の記憶が蘇る。ゴールデンウィークが明けてすぐのことだ。
 長男、重樹が通う高校の三者面談。
 重樹は俯きながら消え入るような小さな声で言った。
「大学には行きません。もう勉強したくなから」
 長男は、有名私立M大学の付属高校に通っている。大学に設置されていない学部、学科を志望する一部の学生を除き、九割の卒業生が内部進学を果たす学校だ。長男はこの春、高校三年生になった。進学する学部を選ぶ大事な面談だった。
「なぜなんだ? M大の医学部に進むためにこの学校に入学したんだろ?」と担任教師は諭すように言う。
「………」
「朝倉くん?」
 恐らく三〇歳前後であろう男性担任教師の口調はあくまでも紳士的で優しげだが、その声はか細く、弱々しい。長男は俯いたまま、何も反応しない。
イライラする。この出来損ないの息子にも無力な教師にも。
「ちょっと、なんなのよ。何とか言いなさいよ」気づくとそう声を荒げていた。
 
「正美さん!」
 姑の声にぎょっとした。記憶が飛んでいる。重樹が階段を駆け上ってから、私は何をしていたのだろうか。
「水道の水、出しっぱなしじゃない」姑の責め立てるような口調。
「すみません」
 急いでリビングのソファから立ち上がり、キッチンに走り、蛇口を閉める。
 ここは東京都杉並区、閑静な住宅街の一角にあるこの家に住んで十数年が経つ。敷地は広く、ちょっとした豪邸だ。そろそろ子どもたちに快適な勉強部屋をという想いで家を探していたときのことだ。うちに住めばいいじゃない。姑のそんな一言で義理の両親との同居が決まってしまった。夫は基本的に姑の言うことに逆らわない。昔も今も。
 結婚当初から姑との関係は最悪だった。別々に暮らしているときは我慢もできたが、一つ屋根の下で暮らすとなると、そうはいかない。それでも義理の父が存命の間はよかった。彼は懐が深くおおらかな人で、姑との緩衝材になってくれていた。そんな義父も五年前に他界している。
「正美さんったら、最近ぼんやりしていることが多いわね。しっかりしてくれないと」
 義母はそう吐き捨てるように言い、リビングから出て行った。
 鬱々とした感情が溜まりをつくり、沸々と煮えたぎってくるのが分かる。
 なぜ、私のことをみんなでいじめるのよ!
 
 夫とは職場で知り合った。短大に通う間に医療事務の資格を取得し、学校を出て就職したのが朝倉病院だった。朝倉病院二代目院長である夫は当時、入職二年目で、すでに副院長となっていた。交際が始まったのは、勤め始めた年の夏のことだった。院全体で行う納会の後、もう一軒行こう、と夫が声をかけてきた。呑めませんけど、お付き合いします、と答えた。何人か一緒だろうと思ったが、誘われたのは私だけだった。私は少し有頂天になった。若い女性職員は他にもたくさんいるのに、私だけが選ばれたのだ。
 連れていかれたのはホテルのバーだった。地上二十五階。果てしなく拡がる新宿の街並みをこんな高い場所から見下ろしている。それまで体験したことのない高揚感に包まれていた。夫とはその日のうちに身体の関係になった。
 結婚が決まったのはその半年後だ。そのときお腹には長男の重樹がいた。慌ただしく挙式の準備が進んでいく。正美さんのお腹が大きくなる前に済ませないと。義理の母はそう言いながら、私の意向などお構いなしに式の準備を仕切った。
 義母の物言いに腹を立てることもあったが、結婚を控えたその時期こそが、人生で最良の日々だったと思う。院長婦人になれる。そして何よりも嬉しかったのは、実家を出られることだった。あの家から離れられる。もうあの母親の思い出に縛られることもない。そう思うと心が軽やかになった。
 玄関の鍵を開ける音が聞こえた。夫が帰ってきたようだ。
「お帰りなさい」
 リビングに入ってくる夫に声をかける。ああ、と微かに反応するだけで、こちらを見ようともしない。そのまま私の横をすり抜けて奥の自室へ。これがこの家の日常だ。
 夫が横を通ったとき、ボディソープの匂いがふわっと漂った。この家に置かれたものではない。
 またどこかの女と会ってきたのだろう。
 今日も夫は車でどこかに出かけて行った。趣味は自動車。四台を所有している。休みになると服を着替えるように車を選び、出かけて行く。彼の車に私たち家族が乗せてもらえることはない。狭い車内は彼だけの世界なのだ。そこに足を踏み入れることは何人たりとも許されない。
 休みになると、家族を顧みず一人で出かけていく夫への不平を姑の前で漏らしてしまったことがある。
 純一さんは家族のために一生懸命、働いてくれてるんでしょ。家庭を守るのはあなたの仕事。贅沢言わないでちょうだい。
逆にたしなめられてしまった。
 義理の母は一人息子である夫を溺愛している。ちょっと行き過ぎではないかと思う親子関係に辟易することが多い。例えば服。夫の服は、未だに義母が買い揃えている。毎日着る服も母親が選んでいる。今風でセンスはいいが、着せ替え人形じゃあるまいし、気持ちが悪い。
 夫は決して見場の悪いほうではない。若い頃はスタイルもよく、一緒に歩いていて誇らしかった。今ではお腹が出て、すっかり中年体形だが。
 夫の部屋のドアを恐る恐るノックする。
「重樹のことで相談があるんですけど」
 ドアは開かない。ああという声が微かに聞こえる。
「学校で三者面談があって……」
「疲れてるんだ。明日にしてくれ」
 拒絶。私たち夫婦に明日なんてきっと来ない。
 すごすごとリビングに戻る。
 窓の外は雨。窓枠から見える風景がぼやけている。むしろガラスに映った自分の姿のほうが鮮明だ。そして走馬灯のように蘇る過去の記憶。様々な映像が入り混じって、現実が混濁する。
 なぜ私のことをみんなでいじめるのよ!
 そしてもう一人。二階の部屋に私を悩ませる者がいる。
 視界が大きく歪む。私はバタバタと二階へ駆け上がる。
 
 
(二)拒食
 
 先日のこと。子どもたちを学校に送り出し、洗濯や掃除などルーティンの家事を終え、一息ついた頃、家の電話が鳴った。
〈優樹菜さんが倒れました。迎えに来られますか?〉
 小学校の担任教師からの連絡だった。
娘の優樹菜はこの春、小学六年生になった。地元の公立中学校には行かせず、私立の中高一貫校に進ませる予定だ。
受験生だというのに、まったくもう。
 すぐ行きます、と言って電話を切った。
「優樹菜ちゃん、どうかしたの?」
 ぎょっとして振り返る。義理の母が気づかぬうちに背後に立っていた。
「倒れたみたいなんです。迎えに行ってきます」
「早く迎えに行ってあげて頂戴。ああ心配だわ。それにしても正美さん、あなた、子どもの健康管理もできないなんて、母親失格よ」
 不愉快な小言になどにつきあっていられない。申し訳ありません、と形ばかりの謝罪をし、出かける支度をしに寝室に入った。夫婦の部屋は別々にある。この家には七つの部屋があり、義母、夫、二人の子どもと私、それぞれが一つずつを専有している。使っていない部屋は物置のようになっている。私の部屋は一階にある。もともとは結婚して家を出た夫の妹が使っていた部屋だ。
 ドレッサーの前に座る。この部屋には、義妹が残していったものがたくさんある。このドレッサーもその一つだ。高価なものなんですから、大切に使ってくださいね。双子の子どもを連れて遊びに来た彼女が厭味ったらしくそう言った。中世ヨーロッパ風のごてごてしたデザインで趣味が悪い。
 鏡に映った私がいる。目の下に薄っすらと隈ができている。ファンデーションで隠せるかしら。そう思いながらメークを始めた。
 
 娘の通う小学校は、古い住宅街の真ん中にある。二〇〇〇年代には子どもがたくさんいて活気のある地域だったが、住民の高齢化が進み、近頃はめっきり元気がない。
 正門をくぐり、正面玄関の脇にある事務室に声をかける。
「六年二組の朝倉優樹菜の母親ですが」
「はいはい、こちらにどうぞ」
 校内用のスリッパに履き替え、中年の少し太った女性事務員の後について歩く。案内されたのは四人掛けのテーブルが置かれた小さな会議室だった。
「娘は?」
「栗林先生がすぐに来ますので、お待ちください」
 事務員は私の質問には答えず、そそくさと部屋を出ていった
 五分ほど待った。
 お待たせしました、と言いながら栗林郁美が勢いよくドアを開け、入ってきた。急いで来たからだろうか、少し息が上がっている。正義感が強そうなタイプで、私はこの教師が苦手だ。クラス替えは二年に一回。五年生と六年生は同じクラスで担任教師も変わらない。この栗林という教師は、娘の担当になって二年目なのだ。
「ご無沙汰しております」
 栗林は丁寧に頭を下げる。
「どうも。で、優樹菜はどちらに?」
「保健室で休んでいます。二限目の体育の時間に倒れました。軽い貧血だと思います」
「そうですか。とにかく連れて帰ります」
「あの……」
 栗林が怪訝そうに私の顔を覗き込む。「優樹菜さん、お食事はきちんと採っていますか?」
 不愉快な物言いだ。
「もちろんですよ。先生、何をおっしゃるんですか」
「申し訳ありません。最近、急に体重が減ってげっそりしたように見えたので、調子でも悪いのかと心配になって」
 この教師は明らかに私を疑っている。子どもに食事を与えないなんて、そんな酷いことを私はしない。失礼な。
「保健室はどこですか?」
 保健室は一階にあった。栗林に案内されて、部屋に入る。デスクワークをしていた養護教諭が立ち上がり、お世話になっております、と言いながら頭を下げた。私は彼女の挨拶を無視し、優樹菜が横になっているベッドの傍らに立つ。優樹菜がこちらを見詰めている。
「ごめんなさい」
 娘は、消え入りそうな声で言った。
 
 帰り道。タクシーのなか。長い長い沈黙。
「今日の晩ご飯はコロッケにしようね」
「うん」
 交わした会話はそれだけだった。
 家に着くと、優樹菜は何も言わず、自分の部屋に入っていった。
 小うるさい姑はいないようだ。恐らく華道教室に行っているのだろう。終わった後のお茶の会ではきっと私の悪口を言っているに違いない。
 ゴトっという、固いものが床に当たる音が二階からした。まただ。椅子を乱暴に曳くから。何度言っても直らない。私はこの音が大嫌いなのに。
 優樹菜が食事をしなくなったのはこの一か月ほどだ。お腹が空かない。娘はそう言った。三日目、食べたくないという娘に無理やり食事をさせた。一旦、部屋に戻った娘がトイレに駆け込んだ。いつまで経っても出て来ない。大丈夫?、と外から声をかけてみると、少しの間をおいて、何でもない、という返事が返って来た。しばらくしてトイレから出て来た娘は私と目をあわせることなく、急ぐように二階に上がっていった。トイレを覗く。胃酸のすえた匂いがした。床も少し汚れていた。食べたものを戻していたのだ。
 栄養を摂取しないため、娘の体力は急速に低下した。朝、起き上がれず学校を休むことも多くなっていった。今日は、昨晩に食事ができたため、少し元気になって二日ぶりに学校に行ったのだ。
 栗林の怪訝な表情が蘇る。
 失礼だわ! 私が食事を与えていないわけではない。娘が勝手に食べないだけよ。
 
 広いリビング
 空気が淀んでいる。
 何か汚らしいものが身体にまとわりつく感じがする。
―――カーテンを開けて空気を入れ替えなければ。
―――ここの空気を吸い込んだら、きっと身体が腐ってしまう。
 力任せにカーテンを開ける。
―――何これ!
 窓ガラスに人の顔ほどの大きさの蜘蛛が張りついている。
 触覚が厭らしく動いている。
 思い切りガラスを叩く。
 巨大な蜘蛛がベランダの床に落ちる。
 ボトッと嫌な音がした。
 仰向けになってもがく蜘蛛。
 その下から真っ赤な血が広がっていく。
 呻き声が聞こえる。
―――気持ち悪いわね。
―――お願いだから、死んでよ!
 呻き声が次第に人の声に変わっていく。
 消えてしまえ! いなくなれ! 消えてしまえ! いなくなれ 消えてしまえ! いなくなれ!……
 私は頭を覆った。
 
  
(三)幻覚を見る者
 
 初めてそれらが見えたのは小学生の頃、学校の授業中のことだった。
溢れ返るほどの音符が突然、国語の教科書の上に現れた。物語を読解する授業だった。教科書に掲載されていた文章はページを埋め尽くす音符でまったく読めなくなった。
 どうしよう。
 授業では生徒による文章の音読が行われていた。音読の順番は席順で進んでいく。一つ前の席に座る男子が流暢でしかも美しい声音で朗読している。順番が来てしまう。
「じゃあ次の段落を葛西さん」葛西は私の旧姓だ。
 目の前で起きている現象をどう説明していいか分からず、読めません、と一言答えた。
「葛西さん、何言っているの?」
 クラスの全員から注がれる好奇な視線。女性教師は明らかに怒っていた。
 自宅に帰り、もう一度、教科書を開いてみた。私のことを貶めた悪魔の音符はすっかりなくなっていた。
 それからというもの、音符はたびたび姿を現した。最初のうち、それらが現実なのか、幻覚なのか判断がつかず、私を困惑させた。しばらくすると、それらが演奏できないものであることに気づく。そもそも五線ではなく四線であったり、拍子も小節ごとにばらばらだったりした。やがて、音符は建物の壁面や道路にも現れるようになった。音符が空を浮遊するようになって、幻覚であると確信した。
 その頃の私は、ピアノの厳しいレッスンを受けていた。母の願望を叶えるために。
 音大を出てピアノ教室の先生をしていた母は、私をプロの演奏家にしたかったようだ。すでに仕事を辞め、専業主婦となっていた母が私のピアノ教師だった。彼女は生活時間のすべてを私のレッスンに費やした。物心ついた頃の記憶は、ピアノの前にいる思い出ばかりだ。ピアノの練習は大嫌いだった。ミスタッチをすると叩かれた。鍵盤の隙間にカミソリの刃を立てられたこともある。母はゲラゲラ笑いながら、これなら間違えないでしょ、と言った。
 小学三年生の頃だ。
 やっぱり正美は駄目ね。
 発表会で失敗を繰り返す娘に、冷たく言い放った。運送屋のおじさんたちに運ばれて行くグランドピアノを眺めながら、これで苦痛から解放されると思った。
 しかし、母親からのプレッシャーはそれで終わりではなかった。母は何事にも完璧を求めた。学校のテストでは常に百点を取るように。中学に入り、美術部に入ると全国学生美術展で入選するように。大学進学は国公立医学部に。そのどれもが実現しなかった。
 やっぱり正美は駄目ね。
 本当に私の子なのかしら。
 その台詞の繰り返しが私の心をえぐった。
 幼少の頃、母に言われて一番嫌だった言葉がある。
 そんな駄目な子は出て行きなさい!
 ピアノの発表会で失敗したとき、算数のテストで九十点しかとれなかったとき、コップを倒し牛乳を床にこぼしてしまったとき、お風呂場の電気を消し忘れたとき、友達と遊んでいて帰りが少しだけ遅くなってしまったとき、いつもで母はその一言を口にした。
 本当に玄関の外に出されたこともある。小さな子どもにとって、親から見放されることは生きていく術を失うことだ。家から放り出された子どもはいったいどうやって暮らせばいいのか。
 出て行きなさい!
 その一言は、私にとって「死ね」という表現に等しかった。
冬のある日、家の玄関先にうずくまる私は寒くて、悲しくて、そして寂しかった。
 ピアノの練習からは解放され、音符を見ることはなくなったものの、その後も幻覚は私の視覚を支配した。最も苦しんだのは高校生のときだ。
 自分と外の世界との境界がぼやけ、耳に届く音がぼんやりとしてくる。何も考えられなくなる一方で、視覚だけが研ぎ澄まされていく。普段なら目につかないものが妙に気になる。あらゆる色彩が強度を増す。もう自らで感覚をコントロールできない。誰かに人生を支配されている感じ。自我が溶け出し、自分が自分でなくなっていくように思える。
 そんな状態に落ちていくとき、必ず見えるものがあった。
 ピエロに扮した男の姿。
 白塗りの顔。
 表情のないその顔は死人のもの。
 男は夢にもよく出てきた。
 荒廃した街並み。戦争の後のように街全体が破壊されている。山積みになったコンクリートの破片。焼かれ、朽ち果てた自動車。生き物の気配は全くしない。今にも崩れ落ちそうなビルがあって、正面玄関の横には地下に通じる階段がある。そっちに行っては駄目! そう想うのだが、足は自分の意思に反し、階段を一歩また一歩と下る。階段の下に男の姿が見える。暗いので確認できるのは輪郭だけ。少しずつ近づくと次第に男の顔が明瞭になっていく。ピエロの顔。白塗りの顔にやはり表情はない。感情のない目がこちらを見詰めている。古いブラウン管テレビの画像が乱れるように、その顔が大きく歪む。
 だいたい夢はそこで終わる。
 私は反抗期というものを経験していない。小さな頃から支配と被支配の関係のなかで生きてきた私には親の意に反するという選択肢はなかった。そんな私はいつも緊張していた。
 それでも、大学生になり母親からの呪縛が薄らぐと、幻覚は少しずつ止んでいった。
 短大を卒業する年、母は死んだ。くも膜下出血だった。仕事から帰った父が倒れている母を見つけ、救急車で急ぎ病院に搬送したものの、発見が遅く三日後には息を引き取った。
 少しも悲しくなかった。むしろ腹を立てていた。葬儀のせいで卒業式に出られなかったからだ。
馬鹿じゃないないの、こんなときに死んで!
 不安定な心理状態が母との関係に起因すると感じていた私は、これで幸せな人生がやって来ると思った。と同時に将来、子どもが生まれたら、私と同じ思いをさせないと誓った。
 なのに―――
 最近になってまたあの感じがときおり蘇るようになった。
 ピエロに替わって見えるのはフードを被った黒ずくめの若い男だ。初めて男が見えたのは三月、その時期にしては暖かい日の夕方のことだった。買い物から家に帰る途中、電柱の影からこちらをじっと見ていた。男と目があった瞬間、風景が突然、歪んだ。あの感覚。買い物袋を落とす。なかで卵が潰れる音がした。
 駅。娘が通う塾の建物の前。買い物中のデパート。あらゆる場所に男は現れた。
 いつも責めるような眼つきでこちらを見ている。頭のなかを不快な音を立てて、虫が飛び回る。虫の音が時間をかけて、ゆっくりと人の声に変わっていく。
 消えてしまえ! いなくなれ! 消えてしまえ! いなくなれ 消えてしまえ! いなくなれ!……
 耳を塞いでも繰りされる声は止まない。
 
 
(四)期待と失望
 
 百貨店を歩く。夏物の服が並んでいる。花柄のフレアスカートが目に留まった。目的のものを買ったら、もう一度見に戻ってくることにした。
今日は娘、優樹菜へのプレゼントを買いに来た。三日後が彼女の誕生日だ。
書店や文具のあるフロアに移動する。電子辞書が展示されている場所に向かう。
「どのようなタイプをお探しですか」
 若い女性の店員が声をかけてきた。
「小学生が使うものなんですが……」
「こちらなどいかがですか」と言って、ショーケースから一台を取り出す。
カードのスロットルがついていて、ゲーム機としても使用できます、と言う。満面の笑みを湛えながら。この造り物のような表情が何とも不快だ。
「ゲームなんて、できなくてもいいわ」
 小学生が学校で英語を勉強するようになったのは、十年数年ほど前からだ。学校に紙の辞書を持っていかせていたが、昨今は小学生でも電子辞書を使うのが当たり前らしいのだ。結局、店員と三十分ほど話をし、大手メーカーの最上位機種の購入を決めた。花柄の包装紙でラッピングをお願いする。店員が包装している間、優樹菜が今買った電子辞書を嬉しそうに使って、勉強する姿を想像した。
 結局、自分の服なども買い、結構な荷物になった。電車で帰るのはおっくうなので、タクシーに乗って帰ることにした。
「お客さん、あの誘拐犯、捕まったの知ってます? さっきWEBラジオのニュースでやってましたよ。誘拐された女の子、殺しちゃったんですって。酷い話だよね。うちも小さいのがいるんですよ。男の子ですけどね。学校の帰りとか気をつけるように言ってるんですよ。だからですかね、最近は毎日、近所の上級生と一緒に帰ってきますよ。聞き分けのいい子でしょ。そう聞き分けのいい子なんですよ。将来が楽しみでね。あれ、何の話してましたっけ? そうそう誘拐犯の話だよね。誘拐犯の。犯人、まだ二十歳らしいですよ。誘拐してすぐ首絞めて殺しちゃったんですって。奥多摩の山奥に埋めちゃったんですって。酷いよね。よくそんなことできるよね。信じられないよ。犯人ね、高校中退の引きこもりですって。親に家でゴロゴロしてないで、自分で稼いでみろって言われて、身代金誘拐を思いついたんですって。どういう教育したら、そんな人間が育つのかねえ」
 運転手はこちらの反応などお構いなしに、しゃべり続けている。
 ここ数年、子どもを狙った誘拐事件が急増している。運転手が話しているのは、八王子に住む小学二年生の女の子が誘拐された事件のことだ。女の子がいなくなった三日後に、犯人から身代金を要求する手紙が届いた。指定されたお金の受け渡し場所に犯人は現れず、それきり連絡も途絶えた。
 二年前には私たちが住んでいる杉並区内でも三件の誘拐事件が相次いだ。五歳から八歳までの女児を狙ったもので、被害者は全員が帰らぬ人となった。すべて同一犯によるものでいたずら目的による犯行だった。貧困家庭で育った二十代後半の男は取り調べに対し、大人の女性を口説く自信はなかった、小さい子なら相手にしてもらえるのではないかと思った、と供述した。
この事件がきっかけで、優樹菜にGPS機能のついた携帯電話を持たせることになった。いつもなら私の言うことに難癖をつける姑もこのときだけは反対しなかった。
 運転手はまだしゃべり続けている。話は来月行われる都知事選の話に変わっていた。
 ハンドバックからスマートフォンを取り出し、アプリを立ち上げる。
今日は数日ぶりに学校に行った。何事もなければちょうど下校の時間だ。
スマートフォンの画面に地図が表示され、青色の点滅が現れた。
 おや?
 点滅は通学路からは少し外れた公園を示している。しばらく眺めていたが、点滅は一向に動かない。
 こんなところでもう!
 娘に携帯電話を持たすと、下校時間に娘の動きをチェックするのが習慣になった。始めの頃は心配で行っていたわけだが、いつしか目的が行動を管理することに変わっていった。
 こんなところで道草食って。きっと環奈ちゃんと一緒なんだわ。
 六年生になってから転校してきたクラスメートだ。父親は転勤族で、以前はシンガポールに住んでいた。現地ではインターナショナルスクールに通っていたらしく、英語が堪能なのだとか。海外でのびのびと育ったせいで、奔放な性格らしい。優樹菜は環奈ちゃんに憧れている。
 悪い友達ができてしまった。娘の勉強の邪魔をしないでほしい。
 運転手は依然、しゃべり続けている。
「タクシー業界で働くのも厳しいんですよ。最近ね、外国人の運転手が増えてるでしょ。みんな、ブラジルとかフィリピンから来た出稼ぎ労働者ですよ。会社はね、喜んで外国人を雇うんです。なぜだか分かります? 給料が安くて済むからですよ。あいつらのせいで私たち日本人の給料も下がっててね。まったく困っちゃいますよ。お客さんところは子ども何人です? うちはね、一人。さっき話した男の子だけ。本当はね、大家族に憧れてたんですよね。でも無理。東京で子どもを二人、三人育てるのなんて無理、無理。タクシー運転手じゃね、無理なんですよ」
 本当によくしゃべる運転手だわ。鬱陶しい。
 結局、家の前に着くまでの二十分ほどの間、運転手はしゃべり続けた。
 
 台所で洗い物をしていると、玄関が開く音がした。優樹菜が帰ってきた。
「おかえり」
 姑の声が聞こえる。
「おばあちゃん、ただいま」
 優樹菜がリビングに入ってくる。
「ただいま」
 姑にかけた声よりトーンが低い。
 おかえり、と声をかけたが、こちらを見ることもなく二階へと上がっていった。
 結局、優樹菜の居場所を示す青い点滅は三十分以上動かなかった。今日こそしっかり分からせないと。私もバタバタと二階へ駆け上がる。ノックもせずに、優樹菜の部屋のドアを開ける。驚いたように娘が顔を向ける。その目には明らかな敵意が見て取れた。
 何よ、その顔は!
「あなた、公園で何してたの?」
 できるだけ穏やかな口調で言った。
「……」
 しばらく待ったが、優樹菜は俯いたまま何も言わない。子どもたちには最高の教育をと思い、違法行為であることを承知で塾に入れた。期待していたのに、成績は一向に振るわない。最近では食事を採らなくなり、とうとう学校にもまともに行けなくなった。
 何なのこの子は!
「環奈ちゃんと一緒だったんでしょ?」
「……」
 感情の高ぶりを抑えられない。
「何とか言いなさいよ!」
 視界が大きく歪み、どろっとした黒い感情が身体全体を支配する。
 
  
(五)怒り
 
 五月の風が冷たい。冬に逆戻りしたようだ。たくさんの人をかき分けながら、肩をすくめて歩く。
 西新宿の雑居ビル。ラーメン屋の横に建物の入り口があり、奥に進むと三人も乗ればいっぱいになってしまいそうな小さなエレベータがある。エレベータ待ちの男女が一組。顔をあわせないよう俯きがちに近づく。カップルは私が背後に立つと会話を止めた。人に聞かれたくないような話をしていたのだろうか。
 まさか同じところに行くわけじゃないわよね。
 エレベータの扉が開く。一緒に乗り込んだ男女は三階のボタンを押した。私は五階のボタンを押す。
 男女は無言のまま降りていった。
―――ABCトラベル。
 なんだ、旅行会社じゃないの。よかった、一緒じゃなくて。
 五階で降りる。ドアの前に立ち、深呼吸をする。
―――末永登紀子探偵事務所。
『女性の味方、末永登紀子探偵事務所/浮気調査ならお任せください』
 WEBサイトには、そんなキャッチコピーが踊っていた。依頼を決めたのは、所長が女性だったからだ。私の気持ちを理解してくれるのではないか。そう思った。所長である末永登紀子は言った。
 黙って我慢している必要なんてないんですよ。
 男なんて皆、馬鹿なのよ。
 私はね、女性に幸せになってほしくて、この仕事しているの。
 夫の浮気の証拠を掴んだら幸せになれるのだろうか。そんなことを思いながらも、気づくと自分の身の上を語っていた。所長は大きく頷きながら、私の話を聞いてくれた。
 あれから一週間と少しが過ぎ、昨日、事務所から電話があった。
〈調査が終わりました。報告書をお渡ししますので、お越しください〉
 こんなにあっけないものか。調査はもっと長期に及ぶものと思っていたので、拍子抜けしてしまった。明日、伺います、といって電話を切った。
「こちらが報告書です」
 応接用テーブルの上に封筒がすっと差し出された。
「ご依頼日の翌日から、女性の調査員が平日の五日間、仕事帰りの旦那様を尾行させてもらいました。やはり―――」
 封筒のなかから数枚の写真を取り出した。
「やはり、お付き合いされている女性がいらっしゃるようです」
 予想はしていたものの、はっきりそう言われるとやはりショックだ。何も言わず、浮気の証拠を手に取る。写真が入っていた。全部で四枚。すべて2L版だ。どの写真も望遠レンズで撮影されたもののようだ。腕を組んで街を歩く夫と見知らぬ女。ラブホテルの入り口に佇む二人。後ろ姿だが、それが夫であるとはっきり分かる。出て来たところか、それとも入るところか。
「この二枚は同じ日に撮影されたものです。撮影日は五月十九日です」
 なんだか気分が悪くなってきた。身体のなかでヘドロのようなものが溜まり、渦を巻き始めた。怒りなのか、不安なのか。様々な感情が入り混じっていて自分にもよく分からない。
「残りの二枚は、五月二十二日に撮影されたものです」
 確かに写真に写る二人の服がさっきのものと違っている。レストランで食事をしている。窓際の席に座り、外を見ている。たぶん同じものを見ているのだ。笑っている。しかも楽し気に。こんな顔、家では見せたことがない。最後の一枚はレストランを出るところだ。
「この女性は、浅倉病院の看護師さんで、松沢葵さんといいます。昨年からお付き合いが始まったようで、週二回ほどのペースでお会いになっているようです」
 職場の女に手をつけたの!
 もう一度、写真に目を落とす。綺麗な子だ。悔しいけど、私の若かった頃よりずっとずっと美人だ。
「詳しいことはこちらの報告書に書きましたので、後ほどご覧ください。で―――」
 女所長が私の目をじっと見る。
「どうしますか?」
 どうするって、どういうこと?
「弁護士をご紹介すること、できますよ」
 弁護士?
「たっぷり慰謝料をもらって、第二の人生をやり直したらどうですか? もちろん子どもたちの養育費は別にもらったうえで」
 離婚しろってこと?
 私はそんなことをしたいために、ここを訪ねたのだろうか?
「少々辛辣な物言いですけど―――」
 何?
「こんな男、捨ててしまいなさい」
 離婚をして、この私が一人で生きていく?
 そもそも私は何をしたくて、調査を頼んだの?
「私はね、浅倉さんに幸せになってほしくて言ってるの。弊社には離婚にまつわる法的な手続きから、自立までの生活支援まで総合的にサポートさせていただくサービスがありますからね。安心して前に進んでください。これからも浅倉さんをしっかり、サポートしますからね」
 いやよ! 離婚なんかしたくないんだから!
 私が夫と別れたら、この写真の女が院長婦人になるの? そんなの我慢できない。
 それに―――
 杉並の豪邸を出て、どんなところに住めばいいの?
 また働けっていうの?
 小さな家に住むのも、人にあれこれ指図されて働くのもまっぴらよ。
 サービスの説明が延々と続いた。末永登紀子のセールストークのほとんどは耳に入らなかった。
「今すぐに結論を出せる話でもないでしょうから、ゆっくり考えて」
 女所長が証拠写真を封筒に戻しながら、満面の笑顔で言った。
「じゃあまた連絡くださいね」
 
 西新宿の雑居ビルを後にする。空は厚い雲に覆われ、日差しがまるでない。午後二時。一日で最も気温が上がる時間だが、空気は冷たいままだ。街を行き交う人々。人また人。こんなにたくさんの人間がいるのになぜ私は私なのだろうか。別の人の人生を生きる可能性はなかったのか。
 また風景が歪み始めた。あの感覚。人に人生を支配されている感覚。駅に向かって歩く手足の動作すら、もはや自分が行っていることだと感じられない。
 ゲームセンターの音が不愉快なほどにうるさい。
 カラオケ店の電飾看板の光が目に刺さる。
 大学生くらいのカップルとすれ違う。楽しそうに手を繋いでいる。
―――何よ、私に見せつけてるの。腹立たしいわね。
 振り向く。女もこちらに振り返った。
 女の顔から目、鼻、口が消えていた。白塗りのような真っ白な顔。
 怖くなってすぐに目を逸らす。
 気づくと、街中の人々からも顔が消えていた。
 私は走り出した。
―――人がいるところは嫌だ!
 駅前のタクシースタンドに走る。少しでも早くこの場所を逃げ出したい。
 タクシーに飛び乗る。汗で背中がぐっしょりと濡れている。
「お客さん、どちらへ?」
 たどたどしい日本語。外国人だった。
 杉並まで、と震える声で答える。
 中年男性であるその運転手の顔には目と鼻と口があった。
 少し安心してシートのもたれ掛かる。
「お客さん、なんか具合悪そうですけど、大丈夫?」
 大丈夫です、と答えたその声は自分の声なのか、自分の内側で鳴った声なのか判別ができない。めまいのような症状が相変わらず続く。
「お客さん、本当に大丈夫?」
―――大丈夫って言ってるでしょ! ほっといて!
 頭の中で虫たちが飛び始めた。微かな羽音が聞こえる。
「お客さん、杉並のどちらに向かえばいいんですか?」
 意識が混濁するなかで、なんとか住所を告げた。
 車が走り出す。頭の中で飛ぶ虫たちが発する音と車の音が交じり合う。
 目を閉じて下を向く。もう何も見たくない。
 虫たちの音が次第に人の声に変わっていく。聞き取れなかった声が次第にその輪郭を現す。母の声だ。
 また失敗して! ほんとに私の子なのかしら。
 ピアノの発表会の後、綺麗なドレスを着た私は母の叱責に必死で耐えた。
 九十五点ってどういうことよ!
 こんな簡単なテストで満点とれないなんて信じられない! 次のテスト、一〇〇点じゃなかったら、出てってもらうからね。
 家を追い出されたらどうなるのだろうと不安になり、小学生の私は泣いた。
 牛乳の入ったコップを誤って倒し、食卓一面が白い液体に覆われた。
 何やってんの!
 次の瞬間、母は私に向かって何かを投げつけた。濡れて埃がびっしりとこびりついた雑巾が顔に当たった。
 放課後、仲のいい友達としゃべりながら帰るのが楽しかった。歩みが遅くなり、約束の帰宅時間に五分だけ遅れた。母は玄関を開けてくれなかった。ドアの向こうから母の怒鳴り声が聞こえた。
 約束を守れないような子はうちの子じゃないから!
 ごめんなさい。ごめんなさい。何度も何度も謝った。寒い冬だった。夜遅くなって、父が帰ってくるまで家には入れなかった。
「お客さん、着きましたよ」
 もうやだ!
 なんでみんなで私のことをいじめるよ!
 タクシーのドアが開く。財布から何枚かの紙幣を乱暴に取り出し、投げつける。ふらふらになりながら、車を降りる。後方から、お客さん、おつり、という声が聞こえたが、無視して、走り出した。
 家だ。とにかくお水を一杯、飲みたい。そう思った刹那、物陰から飛び出してきた人にどんとぶつかった。倒れそうになったが、何とかバランスを保った。
 相手は、フードを被った黒ずくめの男だった。
 男が力任せに私の腕を掴んだ。痛い! 幻覚の人物が目の前にいる。
 長い前髪で右目が隠れて見えない。見えている左目がこちらを凝視している。
 男の手を振り解き、家に逃げ込む。今のは何? 幻覚? でも確かに腕を掴まれた感覚があった。
 家に飛び込み、玄関でへたり込んだまましばらく動けなかった。身体じゅうの血管が激しく脈打つ。
 ピコ、ピコ、ピ、ピ、ピ。
 二階から微かな電子音が聞こえる。勉強もしないで、またゲームだわ。まだ母の声が頭の中で響いている。
 勉強をちゃんとしない子は出て行きなさい!
 二階にばたばたと駆け上がる。
 こんな駄目な子、なんで私の子なのかしら!
 母の声が頭のなかで反響する。
 娘の部屋のドアを勢いよく開ける。
 塾の宿題、終わってないでしょ!―――
 怒鳴り声が自分のものなのか、頭のなかで鳴っている母のものなのか区別できない。
 目の前の風景がぐにゃと歪む。
 まだ―――
 今のは娘の声、それとも私の声?
 どろどろとした感情が身体全体を支配する。
 母の声が言う。
 あんたなんか生まれてこなければよかったのに。
 別の声が言う。
 消えてしまえ! いなくなれ! 消えてしまえ! いなくなれ 消えてしまえ! いなくなれ!……
 もう止めて!
 なんでみんなで私のことをいじめるのよ!
 気づくと優樹菜を平手で殴っていた。しかも何度も何度も。
 

*   *   *
五十嵐優紀 @YUU030305
依然、生死の境をさまよっているらしい。小学生の子どもを残して死ぬなんて悲しすぎる。死んでも死にきれないよね。回復をお祈りします。
 
よだれ鶏 @TEC_YODARE
この人の家、杉並の豪邸らしい。旦那は医者だって。この前、家の前を車で通ったけど、庭チョー広いし。
 
STP松戸 @STP_Matsudo_1997
小学生の娘を吉祥寺の闇塾に通わせていて、お迎えのときに事件に巻き込まれたらしい。
 
ゲンジ @GENJI_MIYAMOYO
闇塾!!! 俺にも生まれたばっかりの娘がいるからさ、可哀そうだなって思ってたけど、なんか同情して損した。そういえば中学の同級生でいたよ、闇塾行ってたヤツ。なんか金持ってるの鼻にかけててやな感じだったな。
 
にしもとはち @LIFE_of_HACHI
結局。世界は金持ちを中心に回っている。
*   *   *

(第三章 高校生 勝山麻衣子…2035年3月【事件の少し前】に続く)


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