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エッセイ集―心のままに言葉を紡ぐ―

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心のままに語ったエッセイ集。嘘偽りのない本音を、言葉にのせてぶつけています。
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2019年7月の記事一覧

笑わせるより笑いたい

 おもしろいことを言って人を笑わせる能力が、私にはまるでない。誰かが放った一言が、爆笑の渦を巻き起こしているのを目の当たりにすると、まるで全世界が認めるほどの偉業を成し遂げた人でも見るかのような尊敬の眼差しを向けずにはいられない。  それと同時に、「自分はなんてつまらない人間なのだろう」と、自分を責めてしまう。ユーモアの一つでも言うことができればいいのだが、真面目な返ししかできずに、場の雰囲気を静めてしまったことも少なくない。だから、おもしろいことを言える人が羨ましくて仕方

何もかも面倒くさすぎる

 無性に眠い夜、できることなら何もせずに眠りたい。瞼が思うように上がらず、鉛でも引きずっているのではないかと錯覚してしまうくらい体は重い。疲れとだるさが絶え間なく押し寄せてきて、一刻も早くベッドに潜りたくなる。  だけど、そんな意思とは裏腹に、寝るまでにやらなければならないことは山ほど残っている。その中でも、一番の課題はお風呂だ。何かと工程が多い。服を脱がなければ入ることができないし、化粧を落とさなければ肌がボロボロになる。顔だって髪だって体だって洗わなければ不潔だし、湯船

女友達が服を脱ぎだすと逃げたくなる

 「ねえ、服脱いでいい?」  この人は、一体何を言っているのだろうか。意味がわからなかった。言っておくが、これから情事が行われるわけではない。彼女とは、別に付き合っているわけでもなければ、お互い恋愛対象として意識しているような関係でもない。もちろん、セフレでもない。  女二人旅の最中、ホテルの部屋でくつろいでいるときに、女友達がこの一言を放った。旅先で開放的になり、脱ぎたがるタイプの人間がいる。彼女はまさにそのタイプだ。「うん、いいよ」なんて、すました顔で返事をするが、明

好きなものを見つめる

 私は、女性が好きだ。この「好き」というのは、恋愛対象として見ているということなのだが、もっとわかりやすく言えば、レズビアンだ。「レズビアン」という言葉に少し抵抗があるので、あえて回りくどい言い方をしてみる。  「レズビアン」と言うと、なんだか妖艶な響きがするように感じる。少し性的な感じが見え隠れしているようで、その言葉を使うのにためらってしまう。「女性が好き」と言ったほうが、マイルドな感じがして、なんかいい。そう思うのは、「褒め言葉以外は何でもオブラートに包んでほしい」と

真顔の理由

 頭が押しつぶされる。いっその一思いに殺してくれ――。  朝から激しい頭痛に見舞われている。頭の一部が強く締め上げられているような、そんな感覚がする。本当に、誰かが私の頭にいたずらでもしているのではないかと思い、何度も自分の頭をさすってみる。だけど、そこには自分の髪以外の物は一切存在しない。  「痛みに表情を歪める」なんて言葉があるが、私は真顔だ。笑いもしなければ、歪めもしない。ひたすら真顔で過ごす。  別に、強がっているわけではない。誰にも心配してもらえず、機嫌が悪い

職場でやらかしてしまった恥ずかしい話

 大問題が起きた。なぜ、家を出るときに気づかなかったのだろうか。私はひどく後悔した。  今日、私は家にスマホを忘れてしまった。職場のお昼休憩は、皆、外に出るわけでもなく、順番に休憩室で取ることになっている。その日のメンバーによって、お昼休憩が賑やかになることもあれば、沈黙の時間が流れることもある。今日のメンバーを確認してみると、後者になることが予想される。  よりによって、こんなときにスマホを忘れてしまうとは......。タイミンが悪いにも程がある。こうなっては、もう仕事

送る人

「結婚おめでとう!」 口ではそう言うものの、心が痛む。 壁を背に、拳で胸を押しつけられるような感じがして、息が苦しい。 この華やかで喜びに満ちた場にはふさわしくない感情だ。 「私を置いて行かないで!」 本当はそう叫んで大好きなあの人の腕を掴み、二人きりでここから逃げ去りたい。 だけど、すでに手遅れだ。 だって、あの人の心はもう、隣で笑っているあいつの元へと行ってしまったのだから。 壮大な宴もクライマックスへと突入し、周りは皆、ハンカチで目を拭い、鼻をすすってい