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「うっ......やばい......!!!」 猛ダッシュでトイレに駆け込む。上からも下からも濁流が勢いよく便器へと流れ出る。額からは脂汗が吹き出し、胸と喉の中間あたりで何か気持ちの悪いものが蠢いている。締め付けられるとも言えるような、搾り取られるとも言えるような、そんな鈍い痛みが下半身を襲う。早く治まってほしいのに、私の意思ではもうどうすることもできない。惨めだ。 数十分が経過し、体の中が空っぽになった頃、やっと私は解放される。まあ、「解放される」と言っても、ほんの
――片付けの最中、出てきた物を見て思い出に浸る人に苛立ちを覚える 以前、「片付けの得意な人が、片付けられない人に対してイライラすること」について、テレビでこんな意見が出てきたのを見たことがある。私はまさに、イライラされる側の人間だ。 片付けられない人間なりに、何度も部屋を片付けようと試みる。その度に、ゴミなのかそうでないのか分からない物の山を目の前にして、気が遠くなる。収納スペースの中にぎゅうぎゅうに詰め込まれた物をなんとかしなければならないと、私だって焦ってはいる
――お酒大好きだもんね よく、そんな言葉を投げかけられる。別に好きでもなんでもないのに......。 初めて飲んだお酒は心地良いものだった。意識が少し遠くなり、頭が軽くなる。自分を抑えていたものが解き放たれ、少しだけ自由になれる。今までに経験したことのない感覚に、心が解きほぐされる感覚だった。 お酒を飲むことで、コミュニケーションが活発になった。本音もたくさん語り合えた。お酒に出会えたからこそ、絆を深めることのできた人も多くいる。最高のツールに出会えたかもしれな
子どもの頃、私はピアノを習っていた。自分が奏でたものが「音楽」という形になって自分の耳に届く快感が好きで、暇さえあればピアノを弾いていたものだ。 ただ、あまり上手くはなかった。だから、いつもいつも親や親戚から「下手だな」とか「また失敗しちゃったね」なんて言われ続けてきた。言われる度に、「そんなの自分が一番よくわかってるのに」なんて思って悲しくなった。 いつしか、人前でピアノを弾くことに怯えている自分がいた。知らず知らずの間に、親や親戚からの言葉が私の心に深く刺さって
私は猫と一緒に暮らしている。一緒に暮らし始めて、15年が経とうとしている。 *** 肌寒い雨の日のことだった。仕事から帰ってきた父を玄関まで迎えに行くと、そこには「成猫」と言うには少し小さい一匹の猫がいた。白と黒に少しだけ薄茶色の毛が混じっていて、黄色いくりっとした目をしている。痩せ細っているが、野良猫にしては毛並みは綺麗で、大人しく父の後をついて回っている。 父は「猫は薄情だから嫌いだ」なんて言っていたが、愛くるしく擦り寄ってくる猫を目の前に、冷たく突き放すこ
何を書こうか迷い、ふと下書きを見た。すると、公開されることなく埋もれていた下書きが、山のように出てきた。成仏させてあげられない文章がこんなにもあるなんて、自分が情けなくて仕方がない。 下書きの分だけ書きたいことがあるはずなのに、私はそれを最後まで終わらせることができないでいる。しっくりくる言葉が見つからず、思うように表現できないのだ。 幾度も下書きを開いてみては、どうしても書けないなんてことを繰り返す。そうしている間にも、また新しく書きたいと思うものが出てきて、それ
先日、私は嫌な夢を見た。酸素は吸えているはずなのに、息が苦しかった。パニック障害で苦しんでいた頃の自分がよみがえってきて、急に怖くなった。 そんな恐ろしい夢とは、世界を震撼させるホラー映画のような夢を指すのだろうと考える人も少なくはないだろうが、実際の夢はそんな波乱に満ちたものではない。ごく平凡な日常を切り取ったような夢だ。その夢について、少しだけ話をさせてほしい。 *** 気がつくと、私は新卒の社会人になっていた。どうやら、新人研修の最中らしい。特別、就職した